歴詩奇譚「三成二人」 第三章 三浦志郎
〇 挙兵意志
秀吉亡き後の政争のひとつに上杉の謀反、家康の上杉征伐がある。ただし、これは石田~上杉の対家康包囲戦の始まりでもある。
大谷吉継、上杉征伐に加わるべく領国・敦賀を出発。途中、三成を遠征に同行させるべく佐和山に寄った。
「三成 共に会津に参ろう 徳川と上杉を調停するのだ」
「それは出来ぬ 刑部(吉継官名) わしは挙兵するぞ 上杉とは気脈を通じておる 共に家康を討つ為だ」
「何だとっ!な なんと そんな大事を なぜ今までわしに黙っておった?」
「すまぬ おぬしに反対されるのが恐かった もし断られた時 密告されるのを怖れた もちろんおぬしはそういう男ではないがー」
「さよう わしはそういう男ではない おうよ そのこと わしは賛成できん!家康すでに天下そのものと言ってもいい おぬしの手に合う敵ではない」
「わかっている 利害打算ではその通りだ しかし そういうものを度外視してでもやらねばならぬこともあるのだ 家康明らかに天下に野心あり 今 手をこまねいていれば流れはずるずると家康に向く あの者を討たずして豊臣天下の安泰があると思うか?
だいいち、そんな世で豊臣恩顧のおぬしとわしはどうやって生きていく?我らは太閤殿下のお陰で拾われ人がましくなったのだ
今こそ その御恩に報いるべきではないのか!」
「ふぅむ……報恩 そう来たか 相わかった 豊臣のことだ 佐吉のことだ……味方に参じよう おぬしの策を申せ」
「まず 上杉が会津で挙兵する 家康は主に東国の豊臣大名を連れている 我らは彼らに家康の非を訴え味方に引き入れつつ
西国大名を連れ上杉を箱根付近まで動かし 家康を挟み討ちする 合戦に及ぶは尾張あたりと心得る」
「策としては良い あるいは勝てるだろう ただし条件がふたつある
ひとつ 机上と実際は得てして合わぬものだが よろしく この机上策の通りにことを運ぶべし その際 上杉背後の東北大名を懐柔せよ
ふたつ 普段からおぬしは尊大な男だ おぬしが旗頭では事はなりにくい 毛利殿を名義上の大将となし できれば秀頼様にもお出ましを願い おぬしはその下で策を立てよ 少なくとも味方に付いた大名の機嫌だけは損じないことだ」
「心得た」
〇 秘密のおわり
「ところで わしから聞きたいことがある
従五位下・治部少輔・五奉行筆頭・近江佐和山十九万石城主・石田(佐吉)三成 おぬしは本当に“一人”か?」
「何のことだ?言っている意味がわからぬがー」
「とぼけるな!佐吉 わしの恐さがわからぬか 失明する以前から腑に落ちなんだ おぬし 三成は“二人“おるのではないか?」
「!!…………」
「最初に不審に思ったのは佐和山に行った時だ 確かにおぬしだった
だが 何処かが少しずつ違うのだ その後 わしは失明した 不審は解かれぬままだ ところが 時に大坂城の殿中でも
そんな違和感をもったことがあった 時に微妙に話が食い違う それに声だ その話し方だ 気配だ 失明した分だけ
わしの耳は敏感になったのだろう」
「う~む さすがだ 紀ノ介(吉継幼名)ならば やむを得ぬ 話そう 確かにわしは二人おる
弟で佑吉という 姿かたち 瓜二つの双子だ 自分でも恐いほどに似ておる ただし性格は別だ 利き腕と声も違う お互い大坂と
佐和山で棲み分けたつもりだったが 時に逆転する場面もあった おぬしが大坂で接したのは たまたま入れ替わった時の佑吉・三成だ 今のわしはおぬしが知っている“普段の三成”だ 領国は弟がしっかり守ってくれている わしは安んじて天下のことを考えられたのだ 感謝している」
「双子 やはり そうであったか だからといって今さらどうなるものでもないが 戦の前に本当のおぬしの事を知っておきたかったのだ こたびの戦で互いの命が尽きるかもしれぬでな」
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つづく。 次回は7/17。