美味しく 相野零次
ぃ……君に捧げたいモノがあった
他の人じゃダメなんだ
君だけにしか受け取って
ほしくないんだ
渋谷のスクランブル交差点
それは真夏のうだるような暑さの日だった
どこか景色とアンバランスなゴシックルックな少女とすれ違いなんとなく目線が合った
瞬間
僕の背に凄まじい電流が走った
それはまるで大木に落ちた雷のようだった
その時 雷鳴の瞬間から時間は止まっていた いやそう錯覚しただけかもしれない
いわゆる一目惚れではなかった
それとは異質なそれより何万倍も強かった
僕は一瞬にして天国か地獄にでも飛ばされたのかと思った
彼女も僕と同じように感じたらしく
僕の目を見つめてきた
視線がはずれようとしない
それどころか
彼女の視線はぐるぐると渦を巻いて僕の瞳の中に入ってきたのだ
それは何に例えられるだろう
とあるアパートの一室に僕がいるとする 呼び出し音がなる 僕はレンズを覗きこむ
するとそこから渦を巻きながら何かがレンズを透過して僕の瞳におくられる
それは例えば
便所を流したときのように
風呂桶にお湯をたっぷりと溜めて一気に排水口から吸い込まれていくように
彼女の視線が僕の瞳の奥に吸い込まれていったのだ
暗転
僕は我に返った
僕は泣いていた
渋谷のスクランブル交差点の中心で クラクションが鳴り響くなかを 一目も気にせずに泣いていたのだ
それは悲しみの涙ではなかった
苦しさや憎さの涙でもなかった
喜びの……いや、感謝の涙だった
涙が出尽くしたあと、まばたきすると一瞬 彼女が見えた
彼女は交差点の人込みに紛れていた
僕は地面に這いつくばり土下座までして感謝していた
残念ながらこの話をしても誰にも信じてもらえず、親に心療内科へ連れていかれ、統合失調症という病名までつけられてしまった。
一週間後
僕は医師から処方された精神安定剤を飲みながら日々を過ごしている
体調はすこぶる良い
その後、彼女はどこへいったのか?
答えはほんの欠片だけ 僕の中にいる
大部分はあの台風と一緒に去ってしまった
また彼女と出逢うときはくる
おそらく十年以上先だろう
僕はそれまで何をすればいいのか? ……何もする必要はない
日々 健康にすごせばいいだけだ
一つだけ 薬だけは欠かさず飲み続けなければならない
それがあの一瞬で彼女と交わした約束だ
何気なく空を見上げた
青空の雲が彼女の微笑みへと
型どられたように見えた