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スレッドNo.7494

歴詩奇譚「三成二人」 第五章 三浦志郎

〇 落ちゆく果てに  

落ちのびた さまよった
三成 歩いた そして 歩いた

(なんとしても 大坂まで……)

従者を退け馬を捨て
農民の姿に身をやつし編み笠を被った
顔を見られたくない 目立ちたくはない
此処はすでに美濃ではない
北近江
それも 自己の旧領に近い
観音寺を目指す
幼い頃 その寺に預けられた
(今もせめて夕餉の一椀でも振舞ってくれるであろうか?)

観音寺住職・清湖和尚
本堂で書見中である
扉の開く音がする 「ぐわぁらり!」
「どなたじゃなあ~?」
「久しや かつてここで世話になった双子の弟佑吉・石田三成である」
「こ これは これは 殿様!お久しゅうござりまする」
和尚 すでに関ケ原の敗戦は聞き及んでいる
「兄は自害した」
「おいたわしや……こたびのこと 言葉もござりませぬ」
「昔と同様 世話になる すまぬが しばし宿として借りたい
体が癒えたら すぐ大坂に向かう」

和尚 三成に夕餉を作りつつ包丁を持つ手が震えた
(あ あぶない!)
その通りであろう
すでに東軍の落武者捜索が近江にも迫っている
ましてや此処は三成の旧領なのだ
もしも匿っていると知られればー?
(こ ころされる!)
その通りであろう
和尚 高僧でもなんでもない
世の常の僧である
事情を話し三成に裏山の洞窟に移ってもらった
必要なものを運んだ

ところが ある日恐ろしいことが起こった
誰かが目撃したらしい
追手の圧力に耐えかねて
恩賞に目がくらみ
ある村人が密告に及んだのだ
かつての三成の善政も裏切られた
世の変わりようはかくも凄まじい
三成 捕縛


〇 その最期

三成の命運 遂に極まれり
檻付きの輿に乗せられ
処刑場に向かう
京都 六条河原
途中 有名な挿話あり

三成
「喉が渇いた 湯はないか?」
刑吏
「湯はない 柿があるからこれでも喰らえ」
三成
「柿は痰の毒ゆえ食わぬ」
刑吏
「ぐわははっ 愚かな! これから死に臨む者が今さら身を気遣って何とする!?」
三成
「下郎っ! 聴け! これから刑に就くとて この先 何があるかは誰にもわからぬ
いにしえ鎌倉・龍ノ口にて日蓮上人 斬首刑に就く折 天空より光の大玉来たり 
その威力に刑吏目眩み 刀折れ 刑行うに災いあり 而して日蓮その生を繋ぐ 
ことほど左様にこの先 何があるかは誰にもわからぬ 
ゆえに我は今の今 毒を嫌い 身の養生をなし 天下を思うものなり!」

(生の終わりに 我が志を語り得たこと 快事なり!
想えば 兄上に注ぐ光の後ろで 影に生きたわしであったが 
それゆえ余人には味わえぬ格別の生き方でもあったことよ)

弟・三成は兄の顔を思い浮かべた
それは
自分の顔を思うことでもあった
(兄上に会いにゆく これからは常に共にあり)
そう 呟いた

首を前に伸ばした
肌に冷たい刃を感じたその後

今も光を求めるように
首は目を見開いていた
刑吏がそっと瞳を閉ざした

三成の生きざまが
光と影から
永遠の闇に変わった時だった


                   (終)

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この作品は双子のくだり以外、筆致は司馬遼太郎氏作品「関ケ原」のパスティーシュ(模倣)
と思って頂いていいと思います。なにより私自身がそう思っております。そう願っております。
詩というかたちでその作品の後を追ってみたい、敬意を表したい、そういう意志でした。
約一か月間、個人趣味で書き続け、ご迷惑をおかけ致しました。スペースをお借りできた
ことを、島様・雨音様はじめ皆様に感謝申し上げます。 誠にありがとうございました。

                                三浦志郎 拝。
                           


                        

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