天使篇 絵を描く
絵を描く
僕はスケッチブックに鉛筆を走らせる
天使は澄まし顔でモデルを努めている
でも座ったまま椅子をガタガタさせて
大きな声で言うのだった
もういいかい?
まァだだよ!
天使をじっとさせる方法はないものか?
仕事で舞台の大道具に色塗りする以外
長らく絵を描いてこなかったから
僕は探り探りで鉛筆を走らせるコトとなる
色塗りなんてとてもとても
それ以前の問題だ
ヤケクソで水彩絵の具を乗せるが
ヤケクソはヤケクソ以外の何ものでもない
鉛筆の線も色合いもためらいだらけ
どうしても気に入らない
あかん!
スケッチブックの絵をびりびりと裂く
え〜〜〜〜またなのぉ?
天使は鼻から湯気を吹いてお冠である
拝み倒してもう一度モデルになってもらう
何度も何度も鉛筆で下書きするが
画力の低下にはほとほと呆れるばかりだ
天使を描く
顔はこんなだ
身体はこんなだ
髪は光を吸ってこんなだ
また気に入らない
絵を裂こうとすると
私ってこんななんだね?
いつの間にか天使は背後にいて
僕の肩に顎を乗せて言う
わあ! まだ見たらアカンがな!
ええ。きっと私はこんな姿なのね
天使は僕の脇から腕を伸ばして
鉛筆の下描きを指でなぞる
天使は肩に顎を置いたまま言うのだった
私、これがいい
アカンねん
僕は首を横に振る
このままではアカンねん
天使は黙ったまま翼をばさりと広げた
それから一度羽撃(はばた)くと椅子まで戻る
澄まし顔をして
僕の前でポーズをとる