師走の権現山 小林大鬼
中原中也がよく登り
熊野神社に参拝した権現山
湯田温泉を眼下に見ながら
彼は何を思っただろう
学校や家が嫌で悩んだ少年時代
不甲斐ない自分を恨んだ青春時代
赤ん坊を肩車して成長を願った新婚時代
それを考える暇は自分にはなかった
賽銭箱の御守りを買おうとして
財布を失くしたことに気付き
散々元来た道を探した挙句
権現山をまた登って来た
今夜の宿はどうするか
旅や食事はどうなるのか
夕暮れ迫る湯田温泉
熊野神社を探してみたが
財布はやはり見つからない
なけなしの小銭を数えつつ
浮かれていた自分に腹立ちながら
急ぎ足で権現山を後にした
中原中也の思いに触れる
そんな余裕は自分にはなかった
暮れかかる師走の空を
白い狐が跳ねていた