還るときは来ていない 光山登
水、だと思ったものはただの砂の雫だった。
「この世に新しいものは何もない」
遠い昔に生きた賢者の言葉がリフレインする。
この砂に覆われた最果ての地で
僕がこのまま干からびるのも、何度も繰り返された事象に違いない。
僕の身体はもうじき「いっさい」のもとへ還る。
それは時間と空間を与えられたことにより、一時的に「いっさい」から切り離されたに過ぎない。
与えられた時間が終われば、「いっさい」に戻るべきときが来る。
けれども、脳裏に浮かぶのは仲間たちの声。
恩師の優しいまなざし。
そして、この世で愛し尽くした人の笑顔。
姿形は変わっても、いつかはまたどこかで巡り会える。
それがわかっていても。
ーー僕はこの世でこの身体であの人に触れたいんだ!
僕は砂の上に右手の爪を強く立てた。
まだ身体は動く。
ーーまだ還るときは来ていない。
僕は歯を食いしばって砂の上から立ち上がった。
それから再び水を求めて確かな足取りで歩き始めた。