赤とんぼと未確認飛行物体 松宮 定家
休日出勤を終えた僕は
銭湯へとまっしぐら
全身の力を抜き
露天の壺風呂から空を仰ぐ
夕焼けの景色の美しさが
日々の疲れを洗い流してゆく
しばらく眺めていると、視界に入ってくる 赤とんぼの群れ
とんぼの群れ見るなんては久しぶりで、しばし童心に帰る僕
ふとそこに、群れの後方を飛行する物体が…
サイズはとんぼと同じだが、
形は楕円形で、
色は黒くて、
不規則に回転しながら、群れに続いて飛んでいる…
あのような飛び方をする昆虫を、僕は知らない
UFO? まさに「誰そ彼」
テレビの特集や映画なんかで見るUFOってみんな遥か彼方を飛んでいて
それでも見えるくらいに大きくて、光を放っているというのに
地球に来るにはこれくらいの科学力が必要で
その科学力を得るにはこれくらいの脳が必要で
その脳を持っていれば当然人間と対話できるサイズで
でも、それはそもそも人間本位のステレオタイプ
小指くらいの宇宙船があって
その爪くらいの宇宙人がいて
手に届くくらい低空を飛んでいたって
おかしくはない
そんなことを考えているうちに、
未確認飛行物体は飛び去っていく
ああ、素っ裸じゃなければ追っていって
正体を突き止めてやるのになぁ
帳が下りた後の水面は、小さな宇宙のように広がっていて
僕の瞳はとんぼの瞳に少しだけ近づいた。