8/18〜8/20 ご投稿分の感想と評です 荻座利守
8/18〜8/20 ご投稿分の感想と評です。宜しくお願い致します。
なお、作者の方々が伝えたかったこととは異なった捉え方をしているかもしれませんが、その場合はそのような受け取り方もあるのだと思っていただければ幸いです。
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8/18 「冷たい水はたゆまずに流れ、深いところで君を待つ」 上原有栖さん
まず、冒頭の2連がいいですね。髪の色や眼の描写、さらに育ての親の言葉から、親子の血の繋がりを上手く表しています。
そして、その育ての親の言葉と共に、3連目の描写から、子供時代のゆったりとした美しい思い出が想像されます。
4連目で詩の雰囲気が転換しますね。
「幼いわたしを護るため/命を散らした」「身分を偽り 名を騙り」というところから、穏やかな暮らしとの決別やその固い決意を感じさせます。
また、5連目の、「そして全てが終わったならば/二人が待つ深いところへ/わたしも/わたしもゆくのです」という表現に、心の奥に秘めた両親への思慕の情が窺えます。特に「わたしも」で一度切って、さらに「わたしもゆくのです」と続けたところが、どこか切ない思いも観えてとても美しいです。
これら4連目と5連目の内容から観ると、この作品は時代劇の仇討ちの話に思えるのですがどうでしょう。この作品は、何かの時代小説か映画のオマージュでしょうか。
主人公の両親がなぜ亡くなったのか、着せられた汚名とは何だったのか、それらの事情がわかりませんので、この詩への感情移入が消化不良を起こしたような感じがします。
それでも全体的に落ち着いた感じの、抑えの効いた表現で描かれていて、とても美しく読みやすい作品です。
評につきましては、佳作一歩手前としたいと思います。
8/18 「クサヒバリの鳴く夜に」 ゆづはさん
冒頭の1連目と2連目の表現がいいですね。子供の頃に感じた夏の夜独特の雰囲気を上手く表しています。
そしてその後の「畳を突き刺す白い月光」「光の筋を伝うように」といった表現も、幻想的でとても美しいです。
また、「柱時計が夜の長さを測り終えると」というところを読んで、「夏だから夜は短いはずでは?」と一瞬思ったのですが、子供の主観的な感覚では、その暗い夏の夜は長く感じられたのだろうと、納得しました。ここはなかなか深い表現ですね。
さらに、「耳もとを撫でる細い音/暗闇の奥で止まない振動」という表現。これは虫の音を空気の振動として触覚で表しているところが、小さな命の営みが感じられて秀逸です。
そして、今日は最後の2連にある「あれから幾度
夢から醒めただろう」「怖いはずのないそれは」という表現に、個人的には注目しました。
これらは、クサヒバリの鳴き声が子供の頃では未知のもので、どこか「怖く」感じていたということなのでしょう。でもその「怖い」とは、例えば「犬が怖い」とか「幽霊が怖い」というのとはまた異なった、何か得体のしれないものへの仄かな「怖さ」だったのでしょう。それは怖いと同時に、どこか引き込まれるような魅力もあるような気がします。そんな幻想的な怖さの思い出の現れであるような印象を受けました。
全体として非常に美しくまとめられている作品です。評につきましては佳作としたいと思います。
8/18 「影」 aristotles200さん
この作品は1945年の原爆投下についてのものでしょうか、それとも近未来の核戦争後の世界を表したものでしょうか。どちらとも受け取れる気がしました。
しかし読み進めてゆくと、「音ひとつない静寂の中で」や「緑色のガラスが/地表を覆っている」といった表現があることから、やはりこれは近未来の核戦争後の世界を表したもののように思えます。
夜になると、「死者の記憶とともに/建物や駅は甦り」「道には/たくさんの影が往来する」というところがいいですね。全てが焼き尽くされてもなお、記憶だけはそこにとどまっている。そして日が昇り、朝が訪れるたび、それらの記憶は再び隠されて、「影は死者に戻る」。
そこに、どうにもならない、やりきれない悲しさが漂っています。特に「影は死者に戻る」というところを他の連から独立させて配置していることが、その悲しさを強調しています。
一方、最後から2連目の「緑色のガラスが/地表を覆っている」という表現があります。これについては個人的に、ヒトがいなくなったため、ガラスのように脆い緑の生態系が地球全体を覆っている、といったような意味に受け取りました。どこか大いなる皮肉を感じさせます。
ところで最終連の「この星の/誰も気づくことはいない」というのは「この星の/誰も気づくことはない」のタイプミスでしょうか。もしかしたら、「この星に/誰も気づくものはいない」と、どちらにしようか迷われたのでしょうか。
だとしたらここは、個人の好みや感覚により分かれるところでしょう。私は個人的(直感的)に、「この星の/誰も気づくことはない」のほうがいいです。
ただ欲を言えば、何かもう一つ表現の工夫や、内容のひねりが欲しかったところです。
それでも全体的に静寂な雰囲気がよく表されていると思います。
評につきましては佳作一歩手前としたいと思います。
8/18 「なんていうことのない一日」 三津山破依さん
はじめまして。初めての方なので今回は感想のみとさせていただきます。
「大きな太陽」と「祝福」という2つの物事から、「なんていうことのない一日」を描いている作品ですね。ひとつの事柄を2つの側面から捉えているようで、面白い構成だと思います。
まず、夕暮れの情景が淡々と描かれていますね。それが日々の「なんていうことのなさ」を表しています。その何でもないことを観て、特にこれといった理由もなく(表現せず)、涙が出るというところがいいですね。「なんていうことのない」ということの尊さを表しているかのようです。
しかし、次の「祝福」についてですが、申し訳ありませんが、あまりよく意味を汲み取れませんでした。何かを祝っているようなのですが、そこに黄砂が出てきて、さらに鼻の違和感や目や背中の痒みも記されています。これら黄砂と痒みなどが「祝福」とどうつながるのか、何度読み返しても、その脈絡がよく見えませんでした。
「祝福」という言葉が何かのメタファーとして使われているのかとも思ったのですが、「君の頑張りは知っている。」「まずは祝おう。酒を飲め、ケーキを食え」といった言葉があるので、そうでもないようです。
ここは、何かを祝う時もあるけれど、すぐに何でもない日常に戻る、ということと、黄砂がやってきていろいろと大変だけど日常は続く、ということを分けて、別の詩にしてはどうでしょうか。
両方をひとつの詩に入れてしまうと、焦点がぼやけてしまう恐れもあります。
「なんていうことのない一日」をテーマに取り上げたのはいいと思います。それを捉えるアングルをしっかりと決めて、鋭く切り取り丁寧に描写するようにしてみてはどうでしょうか。前半の「大きな太陽」のように。
8/18 「晴れた空が苦しいときは」 人と庸さん
哲学的な感じのする詩ですね。タイトルと冒頭にある「晴れた空が苦しいとき」とは、心に大きな重荷を抱えているときでしょうか。
1連目の考え方が非常に独特で面白いです。未来の日々を引いてゆくことにより、「今」を抽出することは、精神衛生のためには重要なことだと思います。
2連目の「引き算よりも自身の長い影を引く姿が/この時間にはよく似合う」という表現もまた、日々の重荷を背負う実感が込められていていいですね。引き算の考え方をしたくても、現実にはなかなかそうもゆかず、日々を積み重ねてしまう様子が巧みに描かれています。
次の連で景色が一変しますね。地に落ちた蝉の骸を「痛いほどの能動的な生が すぐ真下の未来に降りそそぐ」と表現しているところが秀逸だと感じました。その次の種の絶滅については、この蝉の骸から連想されたのでしょうか。
最終連はやや難解ですね。「ほんとうのこと」「切り取られた断面」そして「窓」。これらは人によって解釈に幅が出てくるでしょう。
ただ、この最後の連は、個人的には観るとやや唐突な感じがします。「死」「滅び」「引き算」それらのこととどのようにつながっているのかが、よく見えません。
それ以前の連が全て先頭を一文字空けて書かれていることと関連しているのかもしれませんが、このような書き方をする場合は、まず冒頭に最終連のようなベースとなる連を置いてからにしたほうがいいと思います。
しかし、全体的に静謐で表現の美しい作品です。
評につきましては、佳作一歩手前としたいと思います。
8/19 「雨の日の記憶」 小林大鬼さん
遠い昔の雨の日のインドカレー店の思い出が、淡々と描かれていて、その情景が目に浮かぶようです。
土砂降りの雨を眺めて、店主は何を思っていたのでしょう。そのような日は客足が遠のくと思っていたのでしょうか。
「私はその背中を見つめていた」「グラスのチャイが氷に消える」という表現から、客の少ない店内で雨がやむのを待っている、どこか寂しげな様子が窺えます。
そして、「お父さんは昨年亡くなったと/彼の奥さんから聞いた」「一軒家の小さな店で/彼女一人が切り盛りしていた」という表現は、冷徹な時の流れを感じさせますね。これが思い出の大切さを際立たせて、「懐かしくあの時を思うと/私の目頭がまた熱くなる」というところと上手く繫がっています。
ちなみに、「アージ バーリッシュカディン ヘー」は、日本語で「今日は雨の日です」という意味で、「ダンニャバード」は「ありがとうございます」の意味だそうですね。
これらの言葉がところどころに入っているところも、独特な雰囲気を出していていいですね。
全体的に、展開の盛り上がりや、工夫された表現は観られませんが、むしろそれが、抑えの効いた落ち着いた感じの作品にしていると思います。
評につきましては佳作としたいと思います。