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スレッドNo.7661

歴詩奇譚「仇討ちの雪夜」前編  三浦志郎

   神奈川県鎌倉市鶴ケ岡八幡宮。参道石段脇の樹齢千年とも言われる大銀杏が倒れたのは
   平成二十二年(2010年)三月十日早朝。強風だった。今も私の記憶に残っている。

*               *               *               *

(大銀杏)
我ながら随分と長いこと立っていたのです
いろいろありました いろいろ見てきました
嬉しいこと 悲しいこと
とりわけ
驚き悲しんだことを ひとつ 
お話し申し上げましょう
大雪の夜 鎌倉幕府
三代将軍 源実朝様が右大臣に宣下されました
その儀式です なんと喜ばしいことでしょう
ただ 気がかりなことがありました
亡き源頼家公のご子息・公暁様が僧の身ながら鎧姿で
私の身体にぴったりと御身を寄せておられます
しかも刀を抜いて身構えておられるではありませんか!
どなたを害するかはすぐにわかりました
恐くなりました でも私はただの木です 
お止めすることなど とてもできません
あとは 言いようのない惨劇 でございました


(公暁)
さねともぉぉ~!
親のかたきは かく討つぞ!
成仏せい~!
(!! ……!!……)
してやったり!
八幡大菩薩もご照覧あれ!
右大臣・源実朝をば討ち取ったり!
我は八幡宮別当阿闍梨公暁なるぞ!

*               *               *               *

   年表などには こうある。

   「建保七年(1219年)一月二十七日。
   鶴ケ岡八幡宮にて鎌倉幕府三代将軍源実朝 甥の公暁に殺害される」

   この事件、謎が多い。それだけに後世、黒幕についての推理的な論考も多い。
   現在は公暁単独犯行説が歴史界の主流のようだ。 これは私にとっては各論、証拠不充分
   での消去法の結果のようなものだ。”結局、真相は謎“の同義語にも思えてくる。
   ところで、本作は詩であり読物なので、少し俗説や推理も加えたい、たとえば、こんな風にー。


公暁の犯行動機
その立場において無理はない
北条義時と源実朝は
彼の父・源頼家(二代将軍)の仇
将軍としては実朝より公暁の方が正統
仇討と自己の将軍就任
彼の中ではごく自然な念願である

ここである人物が公暁の前に現れる
執権・北条義時に次ぐ有力御家人・三浦義村
彼は公暁の乳母夫(めのとぶ)
養育から政治的補佐までする立場にある

(よろしいか お父上殺害を指図したのは北条義時ですぞ
嫡流を無視して実朝様を将軍にしたのも義時でござる
そのこと ゆめ お忘れなきよう)

事実である
ただ常日頃 義村は吹き込み
感情に訴え
公暁に刷り込んでいたことだろう
魂胆があったらしい

*               *               *               *

源実朝右大臣就任儀式
その数日前
三浦義村が呼ばれた
公暁 実朝殺害の秘事を義村に明かす

(さてこそ! 心得ました 
公暁様ご自身がお決めになられたこと
どうぞ ご存分になされませ 
我らもそれに従い動くでありましょう
ただひと言申し上げる
実朝様もさることながら
真の仇は執権・義時にござるぞ
その者こそ 構えて討ち漏らさぬよう
お心得くださいますように)


さねともぉぉ~!
親のかたきは かく討つぞ!
成仏せい~!
(!! ……!!……)
してやったり!
八幡大菩薩もご照覧あれ!
右大臣・源実朝をば討ち取ったり!
我は八幡宮別当阿闍梨公暁なるぞ!

*               *               *               *

   雪の日に血。
   ただ実朝一人を討ったとて、すぐに将軍になれるかは別問題。
   世と政(まつりごと)はそうたやすくはない。そこに公暁の甘さと錯覚がある。
   公暁は返す刀で、側にいた太刀持ちの北条義時も殺害した!
   ―のはずだったが、義時は直前、俄かに体調不良を訴え、急遽、源仲章と役目を交代した。
   結果、公暁に討たれたのは源仲章。義時生存、義時生存。その運の強さ!
   (あるいは何ごとかを察知していたのか?)

   話は、少し過去に遡る。*長尾新六定景という武士がいる。武勇の士だが、以前、平家に属していたので、
   身は貧窮していた。見かねた義時が三浦家仕官を援助してやったことがあった。従って今は三浦家臣だが、
   定景、その恩を忘れずに義時にある報せを持って来た。


「長尾新六殿が参られ お目通りを願っておりまする」
「はて 新六?あの三浦に行った者か 通すがよい」
「お久しゅうござりまする その節は誠にありがとうございました」
「久しゅうある  して 今日は何用じゃ?」
「秘事にござる ちとお耳をー」
「構わぬ 近う寄れ」
(来る実朝公右大臣就任儀式の日に公暁殿が
実朝様と殿を亡き者にしようという動きがござる
ぜひとも 身辺 ご注意を 他言はご無用に願いたし)
(このこと 三浦は知っておるのか?)
(それは……う~ それがしの口からは申せませぬ なにとぞ お察しを……)
(ふぅむ わざわざ それを報せに か 誠に大儀 新六 おぬしの厚意忘れぬぞ)


               (つづく)

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後編は三浦評担当区間内にて掲載。

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