苦しみが来ない山 光山登
鈴虫の鳴く夕暮れ。
一匹の蜘蛛がどこまでも続く道を進んでいた。
背後には虫けらたちを従えている。
蜘蛛は王者のように突き進む。
目指すは苦しみが来ない山。
蜘蛛はこの世での目的のない生活に疲れ、
群れでの意味のない生活に疲れ、
子分を従え新たな生活を求めていた。
あの山に登れば苦しみがなくなる、と蜘蛛の賢者は言った。
砂利道を超えて、
砂浜を超えて、
水たまりを乗り越えたときには部下の大部分がいなくなっていた。
みんな快楽に慣れすぎて軟弱になったんだ。
蜘蛛は一人でつぶやいた。
山の入口にたどり着いたときには蜘蛛は一人きりになっていた。
みんなが貪る快楽を否定してたどり着いたこの場所。
蜘蛛は短い脚をバタバタと震わせた。
頂上につけばこの世での苦しみが終わる。
蜘蛛はそう思って脚をそっと前に踏み出した。