不在 人と庸
屋根は瓦を必死に抱きかかえる
朽ちてゆこうと自分の存在をこぼさない
しかし草木はコンクリートを破り
戸口にまで迫っている
人が出入りしない家に
出入口など必要なかろう と
草木が家を滅ぼすと
人はそれらを刈り取り
そこに新しい家を建てる
洗練された
知恵で裏打ちされた
こころゆたかに暮らすための家を
そのひとつのチャイムを鳴らす
返事を待つ間は
そこが真空になったよう
真空の時間がしぼみ
あたりがふたたび呼吸し出すと
わたしもふっと息をつき
黙然とした玄関をあとにする
車に戻り 青いペンで書きつける
「◯月◯日 訪問・不在」
いくつもの真空にもぐっては浮き上がり
とりどりの家の間を遊泳す
季節(とき)は夏
蝉が鳴けば鳴くほど
あたりは静けさに包まれる
あたらしく塗り替えられるまちに
誰の姿も見当たらないので
入道雲の峰の影に
何かを見つけようとする