暗数事案 暗沢
空調は整っているが客はない、そんな手頃な密室は
恰も手狭な空間にうごめくものを
別のフロアへと運んでいくようだ。
目覚めと同時に定位置へと戻る、無意味な昇降である。
故にだろうか、臥し所から離れた彼が
ハッした様子で固く閉じたカーテンを
引き開いて、安堵の表情を浮かべる
その有様。曖昧模糊な時間の下で
ビルの間近い、雑多な朝の光景に対してだ。
転落事案にご用心!
寝ぼけ眼で開く掃出し窓
安普請の踏み板へと
習慣のままに足先を委ねた
その始末 空(くう)を踏み抜いたきり
まっさかさま 虚へ
落ちていってしまうかも
誰が気付くことがあろう
投身が消えていくその先
上でも下でもないだろう
そう 誰が気付くことがあろう
一級遮光のカーテンがすっかりと
早朝の日差しを通さなくなった、
そんな時節の
テキストです。