評ですね。9月25日から28日ご投稿分 雨音
「I was born to love you」三津山破依さん
三津山さん、こんにちは。10月も一週間が過ぎましたが、まだ夏の名残が色濃いですね。
「born to make mistakes」から「born to run」へと展開する、一つの流れが印象的な作品です。そして、それをまとめる「I was born to love you」というタイトルがとても素敵だと思います。
前半の「また、やってしまった。」から始まる「あたし」は、自分の生まれ星座さえ探そうとしません。それが後半では、老婆の後ろを歩き、温かな手をそっと添える。その小さな行為によって、閉じていた世界がほんの少し外へ開かれていくように感じました。
特に「つたわれ」という一語が心に残ります。何が伝わるのかを説明しないことで、温かさや、生きていることそのものまで、読者に想像させます。
そして最後の「きっと輝いていた」がとてもいいですね。星を見つけたわけではない。それでも、自分が生まれたときにはきっと輝いていた――そのかすかな確信が、この詩の静かな余韻になっています。
「born to run」と言いながら走れず、立ち止まってしまう。その矛盾も含めて、人生の不器用さと、それでもどこかへ進もうとする「あたし」が、とても自然に描かれている作品だと思います。
そして、IもYouも「あたし」なのではないでしょうか。自分を愛することは、もしかしたら自分の星を探すようなことなのかもしれませんもの。
星のような佳作です。素敵でした。
「百年の眠り」ゆづはさん
ゆづはさん、こんにちは。お待たせしました。今年の秋にしたいことを色々考えていますが、ゆづはさんはどうですか?
まずタイトルが素敵ですね。百年と漢字にしたことが、アンティークのティーカップをめぐって、時を超えて受け継がれる美しさと、人のぬくもりを描いた作品に美しく繋がっていきます。
「ピンクの小花」「華奢なハンドル」「翳りのある金彩」など、カップの美しさが丁寧に描かれる一方で、「細かな擦れやシミ」が、この器が重ねてきた時間の証として見えてきます。とりわけ「かつてこの器を愛した人の/手のぬくもりが/ひそやかに息づいている」という表現が静かに心に沁み込んできました。見たことのないカップなのに、まるで目の前にあるような気持ちにすらなりました。
ひとつのカップから、知らない誰かの時間や遠い場所へ想像が広がっていく。その想像が、最後には「百年の眠りから/目覚めるように」、紅茶の湯気となって立ちのぼります。
眠りから目覚めるのは、カップだけではなく、そこに宿っていた記憶や夢なのかもしれません。日常の一杯の紅茶から、百年の時間へと静かに旅をする、とても美しい作品です。美しい佳作でした。
「横顔」上原有栖さん
上原さん、こんにちは。お待たせしました。よい季節になりましたね。
とても静かで、そして幻想的な作品ですね。「わたしだけが知っていること」という一言から始まる告白ですが、最後まで明かされない秘密が、読者を「あさぼらけの浜辺」へ連れていきます。
砂の中に埋まった「横顔」は、現実の風景でありながら、どこか夢の中の人形のようでもあります。「首から上だけをおもてに出して」「砂浜に織り込まれて見えない」という描写が、その不思議さを際立たせています。そして「誰もいなかった波打ち際/ほかに知ってるのは たぶん海」という一節がとても印象的です。海だけが知っている、という発想によって、この出来事が現実と記憶の境目を行ったり来たりしているようです。
後半では、潮の匂い、風、波音といった感覚が次々に記憶を呼び戻します。「記憶の頁が風で捲られていく」という表現も美しく、過去の一場面が現在の「わたし」の中で鮮やかに蘇っていくことが伝わります。私は巻貝の部分がとても好きです。
そして最後の「後れ毛まで思い出せる」。大きな出来事を説明するのではなく、ほんの細部だけがいつまでも記憶に残っている。そのことが、この作品の切なさを深めています。過不足なくとてもよくまとめられていますね。印象深い佳作でした。
「仮定」うたい屋さん
うたい屋さん、こんにちは。お待たせしました。
「もし」という言葉を繰り返しながら、起こらなかった過去と、まだ存在しない未来を次々に生み出していく作品ですね。
特に「事実はひとつも増えてない/それなのに僕だけが/いくつもの結末を知っている」が印象に残ります。現実には何も変わっていないのに、想像を重ねるほど、いくつもの人生を生きてしまう。その切実さがよく伝わってきました。
「ifにifを重ねたら/それはもうゼロなんだって」から、最後の「ゼロになったはずの景色に/また手を伸ばしかけてる」への流れも好きです。諦めかけたところから、もう一度可能性へ手を伸ばそうとする。そして「きみの答えは/まだ知らない」で終わることで、初めて現実の側へ戻ってくるように感じました。「開けた窓に薄明かり」という結びも美しいですね。
一点だけ、冒頭の「送れないまま/指先をみつめてる」と、終盤の「指先の薄い熱」が少し響き合うので、どちらか一方を少し変えてもよいかもしれません。意図的な反復であれば、このままでも十分効果的です。
そして読み終えて、以前見たイギリスのドラマ『Life After Life』がふわっと頭をよぎりました。同時に英語の話になりますが、「if」「as if」「what if」という三つの言葉もふと浮かびました。「もし」と仮定する if が、いつしか起こらなかったことを起きたかのように感じる as if へ、そして最後には「本当はどうだったのだろう」と問いかける what if へ。この詩は、そんな心の動きを描いているようにも思えます。
長い「もし」の連なりそのものが、とてもよいリズムと軽やかさを紡ぎ、主人公の揺れる心になっている作品でした。
「一粒の涙」相野零次さん
相野さん、こんにちは。お待たせいたしました。今日は澄んだお天気で、こういうの秋晴れっていうんですね。
とてもやさしく、そしてどこか童話のような想像力を持った作品ですね。
冒頭の「たった一粒の涙を僕にください」から、さまざまな涙を並べていくところが印象的でした。生まれたときの涙、映画を見て流した涙、失恋の涙、そして恋人とよりが戻ったときの涙。同じ一粒の涙でも、その中にはそれぞれ違う人生や感情が詰まっているのですね。
第一連は、この作品の世界へ入っていく入口になるところなので、ここをもう少しすっきりさせてもよいかもしれません。涙の例がいくつか続くので、重複する部分を少し削ったり、言葉を整理したりすると、「たった一粒の涙を僕にください」という冒頭の言葉がより際立ち、そのまま海の話へ、すっと入っていけそうです。(これは好みなのでご参考までに)
そこから「海はそんな多くの涙で出来ている」と世界が大きく広がっていくのが面白いです。「海がしょっぱいのは涙で出来ているからと錯覚してください」という言葉も、読む側に一緒に想像することを求めているようで、この詩の世界にすっと入っていけました。涙って世界で一番小さな海だなって私は思っているので、とても共感しました。
さらに「人間たちで空をつくりだしたって知っていましたか?」と、海だけでなく空まで人間の存在によって生まれたものとしてしまう。朝も夜も、人間が目覚めたり眠ったりすることで生まれるという発想が、とても自由で伸びやかです。
そして最後に、その一粒の涙が「遠い昔流した僕の一粒の涙」だったと明かされます。最初は「僕」が誰かの涙を欲しがっているように見えるのに、最後には、知らない誰かの涙ではなく、自分自身の遠い過去へとつながっていく。この結びによって、詩全体がひとつの輪になったように感じました。
「一粒の涙」から海へ、空へ、そして遠い昔の自分へ。小さなものから大きな世界へ広がっていく想像力が魅力的な作品だと思います。
伸びやかな佳作を。
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みなさん、お疲れさまです。
今回拝見した作品のどれもがとても美しいタイトルを持っていて、読む前からそわそわとしました。やっぱりタイトルって大切ですね。ところでタイトルってみなさんは最初につけますか?後からつけますか?私は後からのことが多いです。最初につける、とか、決めて書く、ということもありますが、書きながら作品が変わっていくことも多々あるので、「あなた(作品)にはこれが一番似合っているね」というものを探すのはご褒美のような気もしています。
どうぞみなさんよい秋をお過ごしください。