誰も知らない 上原有栖
風が吹いて砂埃が舞う
乾いたつむじ風を初めて見た
バスが時間通りにやって来ない
故郷から遠く離れた
異国の停留所にて目を細める
社会の歯車になって七年目
油の涸れたギアは軋んで動かなくなった
心の螺も緩んでしまったらしい
だから人生の夏休みを取りたくて
旅に出た
荷物を詰め込んで訪れたのは
テレビで観た橙色の大地
待ってるけれどバスはやって来ない
停留所横で繰り広げられる光景
果物売りが陽気な声をあげる
子供たちの歌は思わず踊りたくなる
笑顔の人々の歯が白い
どうしてバスは来ない
伸ばした両腕はすっかり日に焼けた
訪れたことはない 街並
話したことがない 言葉
聞いたこともない 音楽
食べたことのない 食物
ここに暮らす人々は
わたしのことを知らない
誰も知らない
当たり前のことにクスッとした