疾(はし)れ、韋駄天 上原有栖
駆け出したのは夜
密命は報せを届けよ 主の元へ
吐息は幾多の白花 咲いてはすぐ散った
追い手の影は未だに見えぬ
荒城と星月を飛び越えてゆけ
左胸で波打つ早鐘
空には三度目の太陽が昇った
誰よりも早く駆ける駿馬の如く
我は韋駄天 神名を借りて風となる
先へと進め 歯を食いしばり
山を越え 村を抜け
谷を過ぎ 川を渡った
右脚が上手く出せずとも
左脚に血が滲もうとも
命を賭ける意義がある
篝火が迎える故郷
石段を一足飛びに駆け上がり
門前へ飛び込んだとき
細めた目の端に笑う三日月を見た
我の使命はここまで
後は野となれ山となれ