偸盗 暗沢
カガミのヤツは掏摸(すり)なんだ
あいつら 執拗で抜目がない
豪勢な三面鏡にでも
お高く留まってくれりゃ良いんだが
ほんの一瞬だ 気は抜けない
列車の窓やショーウィンドウ
つるつるした面の上なら何にでも
バッチリ間の抜けた相貌を見せつけてくる
目を逸らす他に抵抗があるかい?
全く持って行かれた気分になる
懐を押さえてもお構いなしだ
どんな年期の入った掏摸よりも
あいつらの手並みは鮮やかなのだ
可笑しいだろうか
いや どうか気を付けて
実の話をしておこう と言うのもだ
ぼくはぬけぬけと餌食となった!
ごっそりと持っていかれちまったのだ
くれてやると痩せ我慢したこの始末
その証拠 ぼくはもう自分の顔が見えない
姿見でも写真でも映し出されるのは
特筆する所もない後頭部ばかり
本当さ
合わせ鏡ももう駄目らしい ぼくは
れきれきとつらなり映る像を前に
延々と後頭部を見続けているんだ
いや どうしてくれようか
ごっそりと持っていかれちまったのだ
ぼく自身の 鏡像を