張りぼての牛 荻座利守
商業ビルの
屋上に造られた
大きな張りぼての牛は
降りしきる
雨にうたれ続け
虚しいほほえみを
うかべながら
両の眼から涙を流して
造られたものが
またたく間に消え去るような
つくも神のいなくなった
この世界を
独り寂しく見おろしている
人により
造られたものどもの
朧な魂は
蒸発する今という時の
下がりゆく沸点に
追いたてられるように
巷間の雨風に流されて
永遠に忘却される過去へと
その影を薄めながら
拡散してゆく
人生という時の一部
命のひとかけらが費やされて
造られたものどもに込められた
造り手たちのあえかな魂は
触れる間もなく消えゆく
雪のひとひらのよう
つくも神の
いなくなったこの世界で
ほほえみながら涙する
張りぼての牛
その虚しい瞳は
造られたものの儚さとともに
造り手たちの命の儚さをも
見つめているかのようだった