評、10/14~10/17、ご投稿分、その1。 島 秀生
●理蝶さん「いや、なんでもないよ」
ふーーん、なかなか上手ですねえー
「ごめんね」について
なぜそんなことを
言いたくなるのか
僕にもわからない
と言いながら、後ろで、それが何物なのかを探るようにアプローチするところがいいです。ここが深いとこですね。
そこなんですが、
僕の心は冷えた操縦桿を
握っている
のフレーズがすごくステキなんで、穢したくない。これ、1回だけの方が引き立ちます。
そこは、
僕の心は冷えた操縦桿を
握っている
それもとびきりきつく
夜道に怯える幼子が
親の服に縋るように
身構えているんだ
錆び付いて重い喜怒や哀楽
どのあわいに居ても
そこからすぐ抜け出せるように
こんな感じはどうですか?
気になったのはそこだけですね。ステキなフレーズがもったいないと思ったので。
あと、
思索はその突起を
みるみる伸ばし
心の内へ
外の通りへ
向かってゆく
の詩行
あまりに地に足のついた
君の話は少し退屈
の詩行も、表現上手でしたし、
君のコーヒーの話で、前と後ろを挟む構成も上手でした。
理蝶さんは、私は初めてなので、今回感想のみになりますが、この詩はマルですね。
かなり書いてらっしゃる方とお見受けしました。とても上手ですね。
余談ですが、とりあえず、相槌うって彼女の機嫌が良かったなら、それで一つ役には立ってると思いますけどね。本当はその長い名のコーヒーじゃなくて、「しゃべることが、ごちそう」なんです。彼女にとって。
●荻座利守さん「あなたの記憶は」
言うと、言葉の意味はわかるんですが、目的がぼんやりしてるんです。
誰に伝えたかったのか、あるいは話のトータルとして、何を目的にこの話が始まっているのか、そこのところをタイトルに置いた方がいいです。詩行の一文を抜いたようなタイトルではなくて。
「人」なのか「事柄」なのかは、わかりませんが、スタートとするところ、もしくは着地目標とするところを、なんら示されることなく、真ん中の思考だけを聞かされるので、読む方としては空を掴む感じになります。
だから、それを補う意味で、スタートないし着地とするところを、この詩の場合に、タイトルに置くべきですね。その意味で、この詩の欠点はタイトルだと思います。
いうと、本文だけでは空を掴んでるのに、その本文の1行をタイトルに持ってこられても、なんの解決にもなってない、という感じの現行タイトルなんです。
それと、思考部分というのは、どうしても抽象的表現になってしまう部分ですので、題材を抽象的なものに置かないことが賢明です。抽象から抽象で、全部が抽象で終わってしまいますから。むしろ題材は具象的なものの方がよく、その方が抽象と具象を繋いでくれます。要は、どこかで具象と繋ぐこと、具象とセンが繋がってることが大事なんですよ。抽象だけで全部完結してしまうのは禁物です。
なんていうか具体的なものを、思考で抽象展開する方が醍醐味なのであり、そこを荻座利守さんにも望みたいところですね。
それにしても、この詩の「あなた」って、どのくらい未来の子供に向けて言ってるんでしょうね。そこはちょっと、想像を超える遠大さでしたが。
また、楽しいことではなく、「辛い記憶と苦しみ」「涙の跡形」など、つらい方のことばかり言っているのは、なにか特定のことを指しているからなんですかね?
もしかしたら、そのあたりの理由に、この詩がテーマとしてる本当の事があるのかもしれません。そこがトータルの着地点と繋がるのなら、そこが欲しかったとこですね。
あるいは前回同様、最初の前提となるところがまた抜けてしまっているのか。
うーーん、記憶がどう伝わるものかってとこはいいんですが、この話が結局なにを目的に話しているのか。あるいは何をきっかけとしてこの話が始まったのかってとこは全く霧の中ですね。詩中の「あなた」に言いたいことがもっと具体的に何かありそうに思うんですが、そこを具象のヒントとして、詩の中にセットして欲しいわけですが。
以上、一考してみて下さい。今回は秀作にとどめます。
●かなまさん「ブルーマン」
最後の1行なんですが、
大きな口でブルーと一緒に笑う宇宙人
この1行の中で、「宇宙人」が即ちブルーマンのことですから、「~と一緒に」の「ブルー」の方は、ブルーマンのことではない。思うに、これは、「ブルーな気分と一緒に」くらいの意味ですかね? それとも、1行目にある全身がブルー色なので、笑うと青い色が笑ってるように見える、という意の「ブルー」ですかね?
ここだけちょっと意味が取りにくかったです。もうちょい工夫された方がいいかもしれません。
あとはおもしろいと思います。
要は失恋したってことでしょうけど、宇宙人に描いてるブルーマンは、実は自分の内にある感情の分身のようでもあります。宇宙レベルで奇想天外な出来事に描かれていて楽しめますが、反面で、ブルーマンへの語りかけは、自分で自分を慰めているようにも読めます。そこが良いです。そこが詩ですね。
ブルーな気分の自分の分身、ブルーマン。
おもしろい詩だと思います。かなまさんは私は初めてなので、今回感想のみになりですが、この詩はマルですね。
あと1点あります。
「一光年」は時間の尺度ではなく、距離の尺度ですから、「一度」はおかしいです。そこ、間違ってると言っておきます。
そこは、「一光年に一人の」で、いいんじゃないかなと思います。
●エイジさん「山」
うむ、努力賞ですね。エイジさんなりに一所懸命書いてるのはわかるから、秀作を。
「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」とか、「人生は山あり谷あり」とか、こうしたものに、人生はよく喩えられます。それだけで終わるとありがちなところで終わってしまうので、そこに自分の味をどれだけ乗せられるか、なんですよね。
この詩の場合のそれは、山の次にまた山がある。どんどん山が出てくるって設定のところでしょうか。
この詩の一番残念なところは、「架空の山」感が強いとこですね。山の特徴や質感、足場の変化など、リアル感に欠けるのが、寂しいです。
言うと「架空の山」感が強いから、最初から比喩のために置いてる山だっていうのが、見え見えになってしまうんですよ。そこが残念なところです。本当の山は、山ごとに表情ってもんがありますのでね。一つ目の山だけでいいので、山の表情を捉えたものを書いて欲しかったという感じです。そこに、自分が苦心して登る様子を乗せたら、もっと前3分の2くらいが生きたものになったんじゃないかなと思います。
それと、ちょっと気になったのが、
最後は死という名の
越えられない山に
僕は突き当るのだ
それがいつなのか
足元で確かめながら
これって、確かめられるものなんですかね? フツウはぼんやりと先の方にあるって感じのものだと思うんですが、もしエイジさんの場合に、確かめるような何か特別な事があるなら、そここそ書いた方がいいですね。
●viciousさん「月食」
viciousさんは私は初めてなので、今回感想のみになりますが、
初連では女神ルーナの、神話的な神秘性。対して3連の「追いかけても歩幅は合わない」天体としての「月」と地上の「人間」との憧れる関係性。
その2つのイマジネーションを重ねるところが、私は一番良かったです。
私はこの詩、その2つの重ねに徹してもらった方が良かったかな、と思いました。
4連、5連は、また別のものを持ってきた感じ。それも1~3連の流れを踏まえた続きのものではなくて、全く別のものへと、話自体が移行してしまった感じがしました。
手が届かないから良い、女神の神秘性みたいなものが、4連、5連ではすっかり死んでますからね。別の話に変わってしまった感じです。
逆にもし4連、5連を書きたいのだったら、初連はいらないでしょうね。両者は共存できない感じです。どっちかにしてもらった方がいいと思います。
いずれにせよ、1つの限られたサイズの詩に、あれもこれもと盛りだくさんに押し込みすぎの感なので、そこを整理してもらったら良い詩になると思います。
あ、でも、私はこの詩の1連、3連は好きだったですよ。ある程度書かれてる人なのか、文体自体も悪くないです。
●妻咲邦香さん「ベテラン」
私の家も古いので、こまごまと修理しないといけないことが時々起こります。これくらいのことと思うのだけど、できないことあったり、できたとしても仕上げりが汚かったりで、おれって不器用だなあーと思うこと、しばしばです。ベテランになっても不器用は直りませんな。
と、初連は共感しつつ読み。2連の「景色こそがベテランだ」の言葉も然りですね。
また2連、
枯れ草を焼いて、灰を畑に鋤き込む
まだ足りないが今日はここまでだ
これはなかなか慣れた人にしかできない事をしてるな、と。サラリと書いてるけど、これ書ける人は少ないなと思いました。案外とここ、ベテランのワザに思うけど。
3連、「考えることはおいてはベテランだ」、もとても良くて、どっちかというと、「来客」のために使わないで、終連のキメに持ってきてもいいようなセリフだなと思いました。
1~3連はグッドなんです。
で、よくわからんのが4連で、4連のなにが「欺いて」るんだろうというのがわからない。
1~3連はね、基本的に「ベテラン=自分」でしゃべってるんですよ。ただ景色には勝てないということで、2連のそこだけは「ベテラン」を景色に譲ってるんですが、特に断りがない限りにおいては、「ベテラン=自分」でずっとしゃべってるんですよ。
で、その流れでもって、4連のベテランを「=自分」と読んでしまうと、「自分(作者)が4連でいま何を欺いたのかしら?」となって、わけわからなくなるのです。
おそらく4連の「ベテラン」は、なんの断りもなかったけど、自分ではなく、「蛙」の方に行ってるんでしょうね。作者は「蛙=ベテラン」のつもりで書いてるんでしょう。
そこはホントは、基本ポジションの「自分」から主語移動があるので、ちょっとひとこと入れるべきなんですよね。
冬眠前の蛙が一際高く鳴いている
最後の一鳴きか
どうせ明日も鳴くだろうことはわかっている
やつはベテランだ
ベテランは欺くことにかけては天才なのだ
やつらの目を見るといい
(以下、略)
こんなふうに、「ベテラン」の意が、(私から)「蛙」の方に主語チェンジしたのを1回、見せた方が、断然親切ですよ。
一考してみて下さい。
それと、
友との便りも途切れがちで
は、それ1行だけ浮いてるから、いらない感じがするけどなあ。
どうしても入れたければ、「──で」で続けないて、2行目まで持っていって、2行目に終止形で、その話は終わらせた方がいいと思います。つまるところ、それ、どこにも繋がってないから。
この詩、「ベテラン」という言葉で、人生の在り方や、人生に長じることに思いが至っているわけですが、自然に学ぶところが多くて、そこが良かったところです。秀作を。