耳 妻咲邦香
貴方の耳を掃除している
これが初めてではない
これが最後でもない筈で
その姿、形、色までも愛しいと思うまでに
どれ程の日々を過ごしただろう
それは既に私の一部で
私の身体の一部
だから特別なことは何もしない
丁寧なことも
もうしない
外は夜
なのにこの部屋は暖かい
眩しいくらいにあたたかく
やるせないほど憎らしい
私は耳を掃除している
私の耳を掃除している
私と同じようで違う
何もかもが違うのに
私のものになってくれる
そんな耳に
「ねえ、そうでしょ?」と囁くように
掃除をしている