青蜜柑 暗沢
青蜜柑 結ぶ枝より
ひともぎり
鼻孔を抜く 柑橘の香り
にがく しょっぱかろう
未だに硬い皮の下は
赤味な季節の頓狂な青さに
思わず雀躍したもので
狂い花めいたこの色は
過ぎた季節の忘れ形見のよう
滲む黄色は青皮の
幾百千の油胞が包む
幾百千の真夏の陽が
弾け油へと融けていき
引火し拡がるようである
延焼の果て黄と甘味を痕に
青を悉皆焼き払うその有様
聞こえないか今や朧げな返照の
「甘くあれ」という阿る(おもねる)囁きを
聞くな 聞くな青蜜柑 既に斜に構えた陽光の
太陽と称する事すらも 甚だ疑わしきことよ
熟れるな 染まるな青蜜柑
阿る陽には迎合せずに
御身のままに青くあれ
滲むな 染まるな青蜜柑
まだ鴉には啄まれずに
いまはしょっぱくあればよい
今なき青き季節を纏い 苦いままであればよい
過ぎ行くしょっぱさを今暫くは 包んでいてよ
青蜜柑