こころ Liszt
青春時代
うかつにも
わたしは気づいていなかった―
こころとは
限りなく豊かな
鉱脈じゃないってことを
あのころ
どんなに挫折しようが
どんなに絶望しようが
どんなに憂鬱な気持ちに襲われようが
辛抱して
こころの中を
新たな鉱脈まで掘り進めれば
夢や希望を取り戻し
この世界に感動する気持ちを
またいくらでも
手にすることができた
それなのに
青春が飛び去ってしまい
年齢を重ねるうちに
どうがんばってみても
どこまで坑道を掘り進めても
もはや ひとかけらの鉱石も
見つけられなくなってしまった
長年 浮き世のアカに
どっぷり まみれていたせいか
むかし抱いていた希望が
すっかり色あせて
若いころ感動した音楽を聞いても
本を読んでも
絵を見ても
何もかも味気なく
さっぱり感動しなくなってしまった
いったいどうしたことだろう
あんなに豊かだった
こころの鉱脈は
すべて掘り尽くされてしまったのだろうか?
やぶれかぶれになった わたしが
狭苦しい坑道の中で
やみくもにつるはしをふるい
壁にハンマーをうちつけているうちに
そのはずみか とつぜん
砂や小石が雨のように降り始め
天井に大きな裂け目ができたかと思うと
不気味な音がとどろいた
しまった!
落盤が起きたに違いない
わたしは いそいで
こころの中から逃げ出そうとして
ひたすら坑道を駆け上がったけれど
時すでに遅し…
地上にあともう一息のところで
崩れ落ちた大きな岩が道をふさぎ
進退きわまってしまった
だから言わんこっちゃない
希望なんか持とうとするから
感動なんて求めようとするから
こんなことになる…
傷つくだけじゃないか!
だいたい人生に
夢とか期待とか持つもんじゃない
自分のこころに蓋をして
ただ無関心に生きていけばいいのさ…
こみ上げる後悔と絶望に押しつぶされて
へなへなと しゃがみこんだそのときだ
ヘッドライトの電池がなくなり
すっかり暗闇となった坑道の中に
どこからか
か細い光線が差し込んでいるではないか!
ふらつく足を踏ん張りながら立ち上がり
辺りに転がっている石ころや岩に躓きながら
光線の差し込んでくる場所を
必死に探し求め 見上げれば
はるか上の方 地上と思しきあたりが
小さな天窓のように明るくなっている
きっとあそこから脱出できるに違いない
そればかりではない!
光の線にそって浮かび上がり
キラキラと金色に輝いているのは
新しい鉱脈ではないか!
落盤が思いもかけない富を
もたらしてくれたのだ
―この鉱石を地上に持ち帰り
また人生を生き直そう―
しだいに わたしの中に
若き日の情熱が甦ってきた
ほとんど垂直に切り立った岩壁を
地上に向かってよじ登りながら
わたしは学んだことを何度も呟いていた―
自分のこころとの苦しい格闘なくして
何も新しいものは得られない、と