涼しさやそつと息かけ鼓打つ
なんとも珍しい、絽の黒留袖の仕立てを頼まれた。袷の黒留袖は何枚も縫ったので、同じ要領で単仕立てにすればよいくらいに思っていたら、全然違う特殊な仕立てだという。「見本か、縫い方の本がなければ縫えない」と伝えておいたら、本当に文献を探してコピーしたものを持って来られてしまった。「単衣本重・別名夏重といい、大正から昭和初期まではよく着られた、最近は見られない」と書いてある。この文献そのものが古いので、この「最近」とは、何十年も前の話である。見本もなければ、縫う人もいない筈である。
一読したあと、頭痛がして、二度目三度目読むと気分が悪くなって、何と言って突っ返そうかと一か月放置していた。一か月したら、頭痛がしたことを忘れて、バッグに入れて文献のコピーを持ち歩くようになった。ランチを待つ間とか、待ち合わせ場所に早く着いた時など、ちらちら読んでいたら、なんとなく馴染んできて、全体像が見えてきた。全体像が見えたところで、文献を見るのをやめて、お吟流のやりかたで仕立てることにした。
変なものが出来たって、誰も本物を知らないんだ(笑)。
↓加賀友禅の作家さんと何度もやりとりして染め上った、民藝のお皿の紋様。袷の要領で縫っている部分と、袖口や裾のひらひらしている単衣の部分がある。あと衿をつければ出来上がり。
羅の折目たしかに着たりけり 日野草城
