口切やしゃれ紋ひとつ引き立ちて
あちこちのほつれを直してほしいと見える方あり。自己流で直した、苦心の跡がみえる。何度もいろんな方の苦心の跡を見てきたけれど、皆さんあまりにも同じく、あまりにも頼りない。和裁特有の「行き帰りの留」という、力のかかる部分に施す堅固な留を知らないのだから仕方ない。だから、直してあげるのが楽しいのよね。
鼓の演奏会では、みなさん手持ちの不祝儀に揃いの友禅柄を腰に巻いて、揃いの黒留袖を着ているようにみせる。この方は、それにとどまらず、平凡すぎる五三の桐の紋の上から、なんと鼓の絵柄のしゃれ紋を染めてある。お吟さんと同年代なのに、お姉さんが卒寿でお母さんが明治生まれの着物好きだったというから、発想が違う♪
いにしへを知る石ひとつ実千両 伊藤敬子
