菊炭の櫟の香る気品かな
今日は善福寺川で出会う脳梗塞で体が不自由な者たちが土曜日の午後2時からクリスマス会をやるから出てくれないかと乞われて断るのも相手を失望させるし土曜日は休日なので尾崎橋のそばにある「桜通り」という野外のショット・バーに顔を出した。驚いたことに「和田堀のギタリスト」と呼ばれるアコースティック・ギター弾きのHさんがBGMでボサノヴァやジャズを奏でてくれるという粋さで、電動車椅子のSさんの声掛で参加してくれたというわけで彼とわたくしだけが健常者で、あとは松葉杖のMさんと四年前に引っ越してきたKさんとマフィアのボスのような貫禄のあるJさんの六人会で、Mさんは下戸なので甘酒を飲んでいたが甘酒は酒粕で作るからアルコールは1%以下だが入っているのでそう教えると、え、アルコール入ってるのと驚いていたが、だから顔が赤いんだよとみんなに笑われていたが、それでも寒いのでお替りしていた。わたくしは生ビールを飲んでいたが、ここはアサヒのションベン麦酒スーパードライしかなくていやいや飲んでみたら、これが飲めて驚き。缶ビールのスーパードライは口中で暴れるだけで喉越しが無くてアサヒの缶ビールでは「アサヒ生ビール」(通称マルエフ)はまろやかでおいしいし、業務用の樽生もすっきりしておいしく、スーパードライの不味さは論外だったが、生のスーパードライは業務用の樽生に近かったので首を捻った。Mさん以外はみな良く飲むがJさんが一番良く呑み、甘酒の焼酎割を飲んでいたのには驚いた。わたくしがドイツのクリスマスは「Glühwein(グリューワイン)」というホットワインを呑んで「Stollen(シュトレン)」というケーキを食べるのが風物詩ですと教えると、ホットワインならここで呑めると言うのでSさんが頼むとJさんも頼んで、ブルーベリーとイチジクと洋梨と苺のタルトケーキを食べながら飲んでいたが、Sさんは麦酒を三杯飲んでいたので、Mさんの話だと四杯目から壊れると言うので、慌ててそれ以上呑むなと皆が止めていたのが面白かった。
Fさんの弾く曲名を聞かれるとわたくしがほとんど中てて演奏者まで「禁じられた遊び」は映画ではナルシソ・イエペソで監督は『太陽がいっぱい』のルネ・クレマン、『第三の男』のテーマはアントン・カラスでこの曲は恵比寿麦酒のCMで使われたので恵比寿駅の電車の発車メロディに採用されているとか、何でも話せるので、初対面のKさんとJさんは「本職は何をやってる人?」と驚いていたが、MさんとSさんは「ヘルパーさんなんだけど凄いでしょう。何でも知っていて面白いから呼んだのよ」と笑っていたが、彼らのトイレの介助をわたくしが手伝ったらその手際にほんとだと、いろいろ困りごとを相談してくるので答えてあげると、是非個人的な飲み会にも出て欲しいと言うので、それはヘルパーが障害者に酒飲ませているとチクラレルから駄目だよと答えると、非常に残念がっていた。彼らにとってはこんなに笑えて元気になる話をしてくれるのに、そういう陰口を言う連中がいるのである。知的障害のある子どもをバスから小学校の特殊学級に届ける仕事をやっていた時に、子どもとわたくしが追いかっけこをしながら歩いているのを見た人から危険なヘルパーがいると通報があり、母親はあなたにすごくなついていたので残念ですと言っていたが、大きなケア会社からの委託業務だったのでケア会社が面子を気にして打ち切ったので、ケア会社は大きくなると、子どもがどれだけわたくしと一緒に嬉々として遊んでいる姿は見えずに世間体だけを気にするようになる。子どもたちもわたくしの顔を見ると遊んでくれると喜び、その日はみな満足して良く寝るというのに。これは駄目、あれは駄目では子どもは育たない。
度が過ぎると困るが、ほどほどの楽しいお酒の会は高齢の障害者にとっては良い気晴らしになるのである。「和田堀のギタリスト」さんはコーヒーだけで、本当はお酒が好きだけど飲むと弾けなくなるからとみなが薦めても断り続けていたので、散会時にわたくしが差し入れに買って来たピザ・マルゲリータとアップルパイを彼と娘さんにプレゼントした。ショット・バー「桜通り」は持ち込み禁止だったのでみんなもどうしようかと悩んでいたので、わたくしのはからいは全員からさすがのタイミングと拍手喝采。わたくしもひとりで持ち帰っても量が多すぎるので困っていたので喜んで受け取ってもらって助かった。「待ってる娘さんにクリスマスプレゼントとしてお父さんのギターが喜んでもらえたお礼と渡されたと御一緒に召し上がってください」というのが効いたかも。わたくしは娘と会えないから。
MさんとJさんはわたくしがタクシーを呼んであげて一緒に帰って行った。Kさんは近くなので杖をつきながら、今日は楽しかったと帰って行った。電動車椅子のSさんは店のママに飲酒運転で捕まらないでねと笑って送り出されていた。今日はほんとに来てくれてもらって良かったと言っていた。彼はわたくしと同じ一人暮らしらしいが、わたくしは根っからの「ひとり上手」だが、体の不自由なSさんはこういう会を開いて余生をみんなで楽しく孤独ではなく暮らしたいのだろう。袖擦りあう縁というべきか。
