私の「花の折鶴笠」は・・・ #2015.12.3
S37年12月封切 映画「花の折鶴笠」
以前に長谷川一夫さんの「折鶴笠」「かげろう笠」という映画がありました。風来とが盲目の娘との物語だそうです。私は見たことはないのですが、ちょっとお年を召されている方はご存知の人も。橋蔵さまは、「かげろう笠」で香川京子さんの目があいている盲目の娘が凄く色気があってよかったと感じられたそうです。
S37年8月明治座1か月公演の東映歌舞伎の演目に入って居たことは先日のお話などからお分かりになっていらっしゃいますね。この時に好評を得たので、映画化されたようです。
橋幸夫さんとの共演も話題になりました。橋さんは大映で雷蔵さんとは兄弟分として時代劇を一緒に撮っていらっしゃいました。橋蔵さまは雷蔵さんとの映画の話を聞いて一度共演してみたかったようです。
作詞の先生の息子さんが「花の折鶴笠」のプロデュースをするということで、橋さんに話がいったようです。ですから、主題歌、挿入歌もそういうことで。
舞台のお芝居には橋さんの役朝吉はない役でしたから共演が決まって橋さんのために作ったようです。
この映画はオープニングから目を離せませんでした。スタッフ、キャストの名前の後ろでは橋蔵さま演ずる苫の半太郎の歩く姿が映っているのです。
お腹がペコペコのため畑の大根を抜いてかじりながら、呑気に丘を越え、砂浜を歩き気ままに旅する半太郎です。初めて見た時、えっ何なの、オープニングと同時に現れた橋蔵さまの扮装は・・三度笠ではないし、着物も旅烏の衣装ではないし、どういう風に展開してゆくの?と思ったものです。
でも、つぎに映し出された場面に3枚目を演じているのだけれど3枚目では終わらせない可笑しさと楽しさを感じたのでした。
橋蔵さまの大根を食べるのを見ていると美味しそうで、見ている私も食べてみたくなってしまいます。砂浜を歩く姿、半太郎の明るいとても優しさが伝わってくる顔なので、吸い込まれてしまいます。砂浜を歩いている橋蔵さまの笑顔大好きです。
川を渡るにも舟に乗るお金がない為船頭に交渉しているところへ、鳴海屋の盲目の娘お菊がお金を出してくれて一緒の船に。そこに鳴海屋の番頭の懐をずっと狙っているお芳が絡んでの江戸までの珍事件珍道中。お芳が番頭から摺った財布がひょんなことから半太郎の懐に入ってしまい、大金を持った半太郎はお殿様と間違えられひと騒動。
番頭とはぐれたお菊を江戸まで連れていくことになったが、お菊を江戸へ連れていってお金を狙っている者たちからどう逃れようかとしている時、お芳が半太郎に味方してくれてラストへと。
お菊は大店の娘、半太郎とは月とすっぽん、半太郎はお菊の幸せを祈って去っていくのです。
苫の半太郎は、前にも書いたように大根をかじり、農家のとり小屋から玉子を盗んで食べたり、
柿を枝から取って食べたりと、やくざでも今まで橋蔵さまが演じてきたような颯爽としたところはありません。
汚れた手拭いを首に巻き、着物は着た切り雀、素足に藁草履、刀の差し方もひどいものです。
立回り?も染色の桶や鉢を投げたり、水をかけたり、といった具合。
でも、贔屓目ではなく、魅せられるところが沢山あります。
いつもの立回りを見慣れていると、物足りないところはあります。声を出して笑ってしまうところが随所に出てきて楽しい。
また、橋蔵さまの表情が豊かだから何回見ても飽きないし、発見があります。
この映画は、まさに娯楽、考えずただ楽しめばよいと思います。
ファンとしての物足りなさを、お菊の夢の中での舞踊として見せてくれているのです。
📍ここで撮影の時のことを少し。
鶏小屋で玉子を盗むシーンで
農家の庭はスタジオに作ったもの。玉子を取りに行くとき鶏を泣かせようと、橋蔵さまのアイデアで後ろから熊手を突っ込んで鳴かそうということでこれは上手い具合にいったようです。が、半太郎が玉子を掴むシーンの半太郎の手のアップシーンは、鶏小屋の中を明るくするために、豆電球がいくつも入れられたそうなんです。それで余りの眩しさに鶏がコッコッコッと逃げ回り大変だったようです。見学の人達からは、あんなに玉子を暖めたら・・、という声も聞こえたとか?玉子は作り物でしたと。
カットの合間には、鶏を抱いてしきりにあやしている橋蔵さま、紐につけた餌で鶏を釣ろうとするスタッフ。半太郎が農民に追い回される時鶏を抱いてるのです。
✐(映画を見た時、よく鶏をだいていられるなぁ、と思ったものですが、そういう努力があったのですね。)
「いい年をしてこんなことやっているんだからなぁ、長生きするよ」と橋蔵さまの独り言に、セット中が爆笑の渦だったそうです。
鶏騒動から逃げて来たお堂の撮影は夜間撮影だったようです。リハーサルはスムーズに行っていたのですが、本番になると何度もポッポッーと列車の汽笛の音がなり、この日の夜間撮影は随分かかったようです。
✐(撮影所のそばを列車が通っていたんです。外でのセットや近くのスタジオの時は、本番になるとスタッフ列車の通る時間との調整でたいへんだったようですね。「恋山彦」で無二斎が捕り手に囲まれの立回りの時は長~い立回りを通しで撮るために、真夜中の撮影だったとも聞いています。)
旅の風来坊が主人公ですから道中撮影が随分あります。そのため3泊3日のスケジュールで伊良湖岬でのロケになったようです。11月5日夕方スタジオを出てロケ隊は伊良湖へ。橋蔵さまはというと・・。
この年の11月5日は美空ひばりさんと小林旭さんの結婚式でした。橋蔵さまは撮影があるので出席するのは無理かもしれないと思って半分あきらめていたそうなんです。でも、ひばりちゃんの幸せな顔がどうしても見たい、橋蔵さまは5日の撮影を終了すると、会社にお願いして飛行機で東京にいかせてもらったようです。結婚式のパーティーに出て、翌朝急行に乗り、豊橋から車で、みんなが待つ伊良湖のロケに合流されたということです。「ひばりちゃんの幸せそうな顔を見ていると、無理をして出席したかいがあったよ」とみんなに言っていたそうです。
🐦この映画でカットされてしまったところかな?お菊をおんぶして楽しそうに砂浜を歩いているシーンを取っていたようなのですが、時間の都合でカットされたのかしら、それともスチールようだったのかしら。
画像、私が気にいっている場面の内の3点載せました。
👆(下記URLをクリックすると画像にリンクします)
https://sugi-nami.blog.jp/archives/14626433.html
①畑から大根を抜いて・・・そのあと手拭いで大根を吹いておいしそうにかじります。
②私の好きな笑顔のところです。この笑顔は後のストーリーを見てからだと、よけいに救われます。
③盲目のお菊を江戸まで送ってやると啖呵を切ったものの、「よわった」と、柿をもぎって食べようとして、宿屋の床の間の柿を食べたら渋柿だったので「渋柿だ」と。
えっちゃん 様
当時は東映歌舞伎も、舞台収録したものをテレビで放送をしていました。
私は、舞台上演が始まった後には新聞のテレビ欄をチェックしていたものです。
橋蔵さんが長谷川一夫さんの映画を見ていて、雑誌に載ったシナリオを読み、ぜひ舞台でやりたいとお願いしたのですから、明治座での上演が決まったときは、うれしかったでしょう。
舞踊は「第4章幻想」の場ですね。舞台背景も美しいし、衣装も舞台映えするもので、橋蔵さんの若衆姿に気品を添え素晴らしかったと思います。映画の中で、あの衣装では合わないことはわかります。そこが舞台と映画での構成の違いがわかるところですね。また、生の舞台は、その日の役者さんの気分や体調、客席の雰囲気によっても変わりますから、毎日がそのときだけにしか味わえないものとなりますので、生きた芝居が見られるわけです。
私は後援会のお手伝いをしているときは、チケットで最低2回、そのほか売店手伝いの日は必ず客席後ろで時間の許す限り見せてもらっていました。
舞台は景色が動かない分だけ想像をはたらかせながら、そして舞台に引き込まれていく、そういうところを味わえるところに醍醐味がありますね。
この第一回は昼夜取りは橋蔵さん主演の「濡れつばめ」と「花の折鶴笠」、その「花の折鶴笠」の前に千恵蔵とんの「いれずみ判官」にも出られるというスケジュールでしたが、橋蔵さんご自身は舞台を楽しんでおられたでしょう。
北条きく子さんは嵯峨美智子さんタイプの新人ということで期待された人でした。舞踊は藤間流でしたから橋蔵さんとはしっくりきたと思います。
この上演に水谷良江さん(当時)が出演していて「花の折鶴笠」でも女摺り役で橋蔵さんとの絶妙な絡みを見せていてすごく芝居を盛り上げていたようです。
✋(画像をクリックすると拡大できます)
「花の折鶴笠」は私にとって初めて舞台(東映歌舞伎)を見たお芝居でした。東京では橋蔵さんを生で見ることはできません。
夢に見た橋蔵さんが目の前でお芝居している。
なんと幸せなことでしょう。
あの頃は学生なので、夜は無理で、たしか後半は
昼夜入れ替えでしたので、後半を15日以後に見るそんな感じでした。浜町まで池袋からバス一本1時間位で着きました。
「花の折鶴笠」の劇中の橋蔵さんと北条きく子さんの踊りの衣装が映画のときよりも好きでした。あの音楽が時々聞きたくなることがあります。
北条きく子さんが綺麗で姿がよく橋蔵さんとお似合いでした。時代劇にピッタリの女優さんでした。毎年の夏休みがとても楽しいころでした。