タンポポで学ぶ土地の利用
こんにちは。
私の住むいの町本川地区でもたんぽぽの盛りの時期になりました。
ただ当地には水田も土手も無いので在来のたんぽぽは見られず、延々セイヨウタンポポや在来総苞型のよくわからないものを観ています。
石鎚山を超えた向こう側、愛媛県西条市では点々と在来のたんぽぽが記録されており、勉強がてらシコクタンポポ (Taraxacum shikokianum Kitam.) を捜していますが、たんぽぽを取り巻く厳しい現状を実感させられました。
シコクタンポポは横峰山で採られた余吾一角氏の標本に基づいて北村四郎が記載し、後に北村自身がツクシタンポポの異名としたたんぽぽと理解しておりますが、愛媛県のタンポポ調査2015でもその実態の把握が課題に挙げられています。
安直に林道通行料1500円を払って横峰寺を探索してみましたが、そもそもたんぽぽが生えるようなオープンな環境はほとんど無く、延々陰湿な杉植林地が続きます。伐採跡地、駐車場、奥の院星が森遥拝所はセイヨウタンポポが侵入し、境内は丁寧に整備されていてたんぽぽすらありませんでした。
納経所でお話を伺うと、植林は大分進み、今ある道も最近均してこしらえたものだということでした。ただし、昔は山全体が草原だったというようなことは無く、昔から植林地ではあったようです。
落胆して帰宅し、手掛かりを求め余吾一角氏について調べていると『周桑郡植物誌』の存在を知りました。幸い国会図書館のNDLで読めたのでキク科のところを見てみるとビンゴ! 「カンサイタンポポ?」という記述で横峯山と戸石山が挙げられており、環境として"山地の乾地"とありました。戸石は西条市丹原町楠窪、志河川ダムの奥の集落です。さらに愛媛県のタンポポ調査2015でもちょうどいい感じの位置のメッシュにヤマザトタンポポとしてのマークアップがありました。ヤマザトタンポポであれば余吾氏の「カンサイタンポポ?」の表記も納得です。2015年の調査で確認されているわけで、山奥の集落なんだから雰囲気のある場所を当たればまず観られるだろうとウキウキで観に行きましたが、延々あるのはセイヨウタンポポ。戸石、影無、借宿、小谷などの集落をしらみ潰しに回りましたが、シロバナタンポポが辛うじてあるくらいでセイヨウタンポポがほとんどです。
どうしてこんな山村にセイヨウが侵入しているのだろう。地元の方に聞きとりをしてみると、余吾氏の歩いたであろう90年ほど前は一体に野稲、アワ、小麦、イモ類の畑があり、戸石の集落も尾根筋まで家が見えるほど広がっていたそうです。通学路ではセンブリやリンドウなども普通に観られたとのこと。ただ現在その集落跡にはスギが植えられ、全面植林地となっており、辛うじて残る影無のクリ・ユズ畑も除草剤をたくさん使うとのお話でした。なるほど道理で写真のような”ありそうな環境”にたんぽぽがまったく生えていないわけです。さらに悲しいことに、ここ10年での土地の変化をお伺いしてみると天ヶ峠と余野に抜ける林道が全通し、台風等で山の上に続く道の管理が断念され、また繰り返される氾濫対策で川原が嵩上げされたとのことでした。セイヨウタンポポが多い理由もハッキリしました。
植物誌の感覚では2015年というと最新情報のように感じてしまいますが、10年もあれば消えるものは消えるのかと勉強になりました。これで余吾氏にまで遡れる産地は絶望的になりました。余吾氏と交流のあった山本四郎氏の『愛媛県産植物の種類』でも特に新事実は追加されていません。もっとも、単純に私が見落とした可能性もありますが、草原性の在来たんぽぽは今後ますます観るのが難しくなっていくのかもしれませんね。