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スレッドNo.137

勇気づけの威力(野田俊作)

勇気づけの威力(野田俊作)
・・・シミュレーション夫婦カウンセリング


 92年9/11の事例検討会。
 夫婦カウンセリングのシミュレーションをしました。夫役は岡山の大森浩さん、妻役は宮野栄ちゃん、カウンセラー役はシガリちゃん(田中貴子さん)です。私(野田)はカウンセラーの背後霊になって入れ知恵をしています。


C01:どちらからでもいいんですけれど、何かご夫婦でお話し合いしたいことを言っていただけますか?
妻02:夫婦で話し合いたいってんじゃないんですけどね、この人ね、マザコンなんです。それでね、自分の母親ばっかりベッタリでね、こんなことで夫婦やっていけるのかな、って思って。
夫03:そんな話だったら、私は帰る。

 最初から荒れ模様。そこで、最初のカウンセラーの発言を工夫します。

C01:今日はよりよい夫婦関係を築いてゆこうということでお見えになったんですね。でも、お2人でおいでになるって、とても勇気のいることだったと思います。どうもありがとうございます。あるいは少しハードなお話しになるかもしれないんですが、できるだけ建設的になるように私も協力してゆきたいと思いますので、お2人も冷静ないい話し合いになるようにご協力ください。で、どんなお話しでしょうか?
妻02:(夫に)いいですか、私から言っても?
夫03:私に聞くなんて、なんか、家と全然違うじゃないか。

 夫婦カウンセリングというのがどういうものかを、カウンセラーが定義してあげないと、クライエントは「不満を言い合う場」だと思い込んでしまいます。夫婦カウンセリングとは、「より良い夫婦コミュニケーションを考えるための、冷静で建設的な、研究と実験の場」なのです。最初にそう定義しておけば、そうなります。これは夫婦カウンセリングに限らず、どのようなカウンセリングの場合でも必要な手続きです。こうしないと、カウンセリングを「グチを聞いてもらうこと」だと誤解してしまう人が多いのです。

C04:ご主人は、奥さんにこんなふうにふるまっていただくと嬉しいということなんでしょうか?
夫05:なんか新婚時代みたいですね。
C06:ということは、こういう芽を伸ばしてゆけば、お2人はまた新婚当時のような関係になってゆけるということですね。
妻07:そうなれたらと思って来たんです。
夫08:僕はもう駄目かと思っていて、ここで白黒決着つけてスパッと別れられるかと思って来たんです。
C09:今の奥さんを見て、気が変わられましたか?
夫10:まあ…。

 ここでは、カウンセラーは、夫婦の建設的な芽を見つけて勇気づけています。そうして、これからの話し合いの方向性をより強く定義しようとしているわけです。しかし、最後のC09がちょっと消極的で、夫があまり乗り気にならなかったので、やり直し。

C09:でも気が変わられて、ご主人は仲良くしていく方向で最大限の努力をしてゆく気になられたわけですね。
夫10:まあ、そういうことです。
C11:もちろん、奥さんは、最初から仲良くすることが目標で、そのためにはお互いにどういう努力をすればいいかを考えるためにおいでになったわけですね。
妻12:はい。
C13:これはとてもいいカウンセリングになりそうですね。

 ここから本題に入ります。

C14:さて、お1人づつ、現在最も大きな問題だと考えておられることを教えていただきたいんですが。
妻15:不満は1つだけなんですけどね、自分のお母さんよりも私のことをもう少し考えてくれたらなと思うんです。
C16::奥さんはご主人からもっと愛されたいなと思ってらっしゃるわけですか?
妻17::気持ちでは愛してくれているとわかるんですけれど、もっと行動で表してくれるといいなということです。
C18:ご主人が愛してくださっていることはよくわかるのですね。

 カウンセラーは故意に、提示された問題の中から、ポジティヴな部分だけを繰り返しています。これは、妻への勇気づけよりも、むしろ夫への勇気づけのためです。

C19:では、ご主人のほうが問題だと思っておられることをお聞きしたいのですが。
夫20:今のままでかまいませんがね。むしろ騒がれると、イヤになるんですよね。母親がいることは結婚する時からわかっているんですし。
C21:ということは、奥さんがもっと穏やかに話し合ってくださると嬉しいということでしょうか?
夫22:僕にということもありますが、むしろ母親にもっと穏やかに接してくれるといいんですが。
C23:奥さんのご主人への接し方には満足しておられるということですね。

 ここでも同じことをしています。最初にポジティヴな芽をたくさん発見しておかないと、カウンセリングがヘビーになってしまいます。

 次に、アドラー心理学のカウンセリングの原則に従って、具体的なエピソードを聞きます。

C24:さて、ここ1~2週間で、「これはイヤだ」とか「やめてほしい」とか思われた具体的な出来事があれば、教えていただけますか?
妻25:この前、2人でいっしょに7時半にご飯を食べようねと言っていたのに、この人はお母さんの所へいって話し込んでしまって、時間になっても帰ってこないんです。結局私は1人でご飯を食べなければならなかったんですね。
夫26:なんだ、そんなことを気にしていたのか。
妻27:あなたにとってはどうでもいいことでしょうね。

 このままでは喧嘩になりそうです。そこで、カウンセラーの介入のデザインを考えます。

C28:(夫に)すみませんが、今奥さんがおっしゃったことを、まとめていただけますか?
夫29:どのことを言っているかはわかっていますが、でも、あんなことがこういう場にまで来て言う不満だとは思っていませんでした。
C30:奥さんとの感じ方の違いが1つわかってよかったですね。申し訳ありませんが、奥さんのおっしゃったことをまとめてみていただけますか?なんだったら、奥さんにもう一度説明していただきましょうか?
夫31:いえ、言っていることはわかります。僕といっしょにご飯を食べたいと思っていたのに、僕が母親の所へ行ってしまったので食べられなかったということです。
C32:奥さんがご主人といっしょにご飯を食べたいと願っておられることを、ちゃんと感じとっておられたんですね。
夫33:それはわかっていました。
C34:奥さん、これは嬉しいですね。
妻35:わかってくれているだけではねえ、伝わりませんからねえ。
C36:わかってないほうがいいですか?
妻37:いや、それはわかってくれているほうがいいですが。

 「相手の言ったことを復唱してもらう」とか「相手が言ったことのより深い意味を当ててもらう」とかいうゲーム(“Are you saying?”)は、夫婦や親子のコミュニケーション・トレーニングの初期に使うとよいゲームです。

 それと、C34は、故意に妻の感情をカウンセラーが作っています。妻は別に「嬉しい」などとは思っていないかもしれないのですが、カウンセラーが「これは嬉しいことだ」と定義すれば、多少ともそうなります。放っておくと憎しみしかないのですから、ポジティヴな感情を少しずつでもこしらえてゆかなければなりません。

C38:では、次はご主人のほうから、奥さんに「イヤなこと」や「やめてほしいこと」があれば。
夫39:私が食事の味に文句を言うのがいけないかもしれないんですが、「どうせ私はお母さんのようにはできません」と言うんです。そんなこと思ってもいないので、そう言われるとカチンとくるんです。
C40:(妻に)今のお話をまとめていただけますか?
妻41:言いたくありません。

 機械的にゲームをさせて、こういう話をいきなり相手にふると、このように抵抗に遭います。そこで、妻を支えるために、次のように工夫しました。

C40:(妻に)そんな気はないのについ言ってしまわれたんですね、きっと。
妻41:そうそう、そうなんです。
C42:それはそれとして、ご主人が言われたことをまとめていただけますか?
妻43:この人が「ご飯の味がまずい」って言った時、私が「お母さんのようにはできませんからね」と言うのが、この人はイヤだ、ってことですね。
C44:(夫に)それでいいですか?
夫45:そのとおりです。
C46:こうして冷静にお話し合いさえすれば、本当によくわかり合えるご夫婦なんですね。

 これはシミュレーションですが、実際の夫婦カウンセリングもおおむねこんな調子です。短期間で目に見えて効果が出るので、夫婦カウンセリングは大好きです。いろいろの技法があるのですが、今回は、導入部での勇気づけの役割の話だけにして、あとはまた機会があれば。

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