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スレッドNo.140

筋肉カウンセリング

“筋肉カウンセリング”と呼ばれたケース

1,はじめに
 筆者が初めてアドラーギルドでスーパービジョンを受けたケースです。
 クライエントは高校1年、授業を担当しているクラスの男子生徒です。教室の後ろの隅の薄暗い席に、いつもボーッと座っていて、土色の顔をしていました。授業中しばしばトイレに行きました。欠席・遅刻が多く、1学期末が近づいて出席時間数が気になり、クラスメートにたずねると、彼は工業高校でなく普通科の進学校に行きたかったそうで、この学校が嫌なのではないかと話してくれました。
 2学期になってまもなく、担任から、母親を呼んでいるので会ってほしいと依頼されました。母親の話によれば、父親が警察官で何かにつけ口うるさく、箸の上げ下ろしにまで注文をつけるとのこと。そのため子どもが神経質になってしまったそうです。
 翌日から、生徒本人のカウンセリングを始めました。

2,カウンセリングの経過
 ケースはPOSシートの形式で報告します。守秘義務の関係で、名前はすべて仮名とし、またケースの特徴を損なわない範囲で内容を大幅に改変してあります。

◆クライエント名:高松仁志(仮名 16歳)
◆同居家族
 父親(43歳)、母親(40歳)、クライエント(以下CL 16歳)、妹(-2歳)、弟(-4歳)

【1回目】
>> 状態記述 <<
記述診断:□健常 ■神経症的 □精神病 □身体病 □非行 その他
対人問題:■親子関係 □夫婦関係 □対人関係一般 その他
面接形態:■個人 □夫婦 □全家族 □集団 その他

<Subjective Ploblem>(以下<S>)
#1 主訴
 高校受験準備を始めた去年11月頃から、朝になると下痢してトイレに駆け込むようになった。息苦しくて部屋にうずくまることもたびたびあった。
 入学後も症状は続き、病院で消化器・循環器等あらゆる検査を受けたが、異常はなかった。その後、肛門から粘液が出て困ったので医者に診てもらったら、「しばらく苦しみなさい」と、意味のわからないことを言って何もしてくれなかった。
<それでどう思った?>(以下、カウンセラーの発言は<>で示す。)
 他のことはともかく、粘液はほんとに出ていて困るので、これだけでも何とかしてほしかった。
<これまでに似たようなことは?>
 中学の卒業式のとき、急に腹の調子が悪くなったけど我慢していた。式が終わって家に直行した。すると母が帰ってきて、「どーして勝手に早く帰ったりするの!」と言われた。
<で、どんな気がした?>
 咎められたように気がした。

#2 最近あったこと
 おととい欠席した。最近、吐き気もする。朝8時から9時の間が一番苦しい。粘液も出る。起きた途端に苦しくなってトイレに走った。朝食を食べに台所へ行くと、妹と弟はもう来ていた。少し遅れて父が「お早う」と言って入ってきた。みんな「お早う」と応えた。他には、父とは何も話さなかった。
 学校へ行こうとすると、また吐き気がしてトイレにしゃがんだ。落ち着いてから母に、「今日は休む」と言うと、「そう」とだけ言った。昼前にはかなり楽になり、夕方にはすっかり良くなった。

#3 症状があるために困ること
①計算ができない。
②人の話を聞けない。  
③ものを忘れる。
④トイレに通うのが煩わしい。

#4 治ったら一番に何をしたいか
①自転車で玩具屋や本屋に行きたい。
②プールで泳いだり、体を動かしたりしたい。そうしていると、肛門のことは忘れている。何もしないでいると、どうしても気にしてしまう。

<Objective Problem>(以下<O>)
 落ち着きがない。いつもおどおどしている。視点が定まらない。こちらが話しかけると、体がピクッと反応した。
 顔色が悪く、目のまわりに黒い隈ができている。声は小さい。服装はきちんとしている。

<Assessment>(以下<A>)
 病院の診断結果では異常がないので、今ある症状が対人関係の中で使われていることは間違いなかろう。 
 前日の母親との面接で得た情報によれば、母親はCLが症状を出してからは、他の2人の子どもを放置して、CLの症状除去のために奔走している。母親は、夫が口うるさいので子どもが神経質になっていると言ったが、相手役はどうやら母親のようである。

<Planning>(以下<P>)
 きょうだい競合を知りたいので、次回は「家族布置」を聴取する。

<Supervisor's Comments>(以下<SVC>)
・躓いているのはどのタスクか?仕事のタスクではないか。それなら、運動能力を高める方向でカウンセリングモデルで行なう。(A氏)
・交友タスクではないか。それなら、友だち作りのスキルを学んでもらう方向で、カウンセリングモデルで進める。(B氏)


【2回目】(前回の4日後)
#1 乳児期の病気
 春休みに病院の先生から、「赤ん坊のとき自家中毒だったので、それで神経質になっているのではないか」と言われた。先生、そんなことってあるんですか?
<君はどう思う?>
 そんなことはないと思います。
<それで何か困ったという記憶は?>
 まったくありません。
<なら、関係ないと思ってもいいのでは?>
 はい。
<何か、症状があるんで、助かっているというようなことは?>
(<A>これは愚問。時期早尚で見事に治療抵抗に遭った。)
 ・・・・・・・・(長い沈黙)・・・・・・・・
<ごめん。話したくないことは話さなくていいです。きょうだいのことなら話してもらえる?>

#2 誕生順位ときょうだいの特徴
 自分(16歳)、妹(-2)、弟(-4)。
<妹は、子どもの頃どんな人だった?>
 覚えていない。……よくしゃべる。父に叱られたら、言い返す。よくあんなに言えると思う。うらやましい。
<弟は?>
 よくしゃべる。よく言い返す。母に口先でうまいことを言っては何か買ってもらう。自分は、貯めた小遣いで買うのに。
<君は親をあまりあてにしないで、自分の力でやるほう?>
 (にっこり)はい。

#3 きょうだい競合
 成績、外見、話がうまい、しっかりしている、人の悪口を言う、反抗的などで、弟がトップ。
 運動能力、友だちが多い、明るい、積極的、努力家、きっちりしている、意志が強いなどで、妹がトップ。
 手先が器用、引っ込み思案、従順、まじめ、慎重、神経質、堅実などは、自分がトップ。
 小学校の体育の成績は、1妹~2弟~3自分の順。
<競争したのはどんなことで?>
①運動能力。
②ファミコンゲーム。
 旅をするとき、自分は、傷を癒す魔法使いを大勢連れて出る。弟は、魔法で相手そのものを攻撃しようとする。味方の安否は考えない。

#4 ウエイトトレーニング同好会の勧め
 体を鍛えたいという希望に応えて、筆者が顧問をする「ウエイトトレーニング同好会」への入会を勧めたら、快諾した。

<O>
 時間どおりに入室。目が澄んできて、前回ほど顔色も悪くない。授業のとき、教室で様子を見たら、ずいぶん存在がはっきりしてきた。

<A>
・クライエント自らが乳児期の病気の話をしたのは、原因探しをすることで、今の自分の責任を免れるためか。
・今回は、前半で強い抵抗に遭った。これは強烈な解釈投与をこの段階で行ったため。
・運動能力について語るときは、積極的になった。父親が警察官であることも考慮して、この家の家族価値として、運動能力が優れていることをあげてもよいと考えられる。
・競合相手は主に弟である。

<P>
 親子関係の様子を聞く。

<SVC> 
・性急に進みすぎである。もっと、ラポールづくりに努めること。(A氏)
・今の状態でクライエントを勇気づけできることを探すこと。例えば、学校へ来ていること、ウエイト同好会に入ったことなど。
 粘液対策を話題にする。生理用品、洗浄器などのPRもする。繊維の多い食事に改善することも。
 スクールカウンセラーの役割は、ケースワークをすること。つまり、カウンセラーが解決に乗り出すのではなく、すでに動いている社会資源につなぐこと。この場合は、ウエイト同好会への入会がそれにあたる。
 学校で、カウンセラー自らがカウンセリングをすることの害は、まず、クライエントとカウンセラーが校内で孤立して、被害者同盟ができる。さらに、カウンセラーは結局、学校側の代弁者とならざるをえないので、結果的にクライエントを圧迫することになりかねない。(野田先生)


【3回目】(前回の8日後)
<S>
#1 トレーニングプラン
 おとといジムへ行った。靴を忘れたので、40分ほどやって帰った。脚に意外なほどパワーがあることがわかった。明日からできれば毎日通いたい。
<毎日やれば、3か月もすると見違えるようになるよ。ただ、同じことを繰り返すよりも、きちんとプログラムを組んでローテーションしていくほうが、より効果的です。何かわからないことは?>
 大腿の裏側の筋肉が固くならない。どうしたらいいですか?
<レッグ・カールという種目があるので、明日ジムで直接教えてあげましょう。

#2 粘液対策
 夏に医者から、「肛門の粘液は出るのが当たり前で、出ないと大便が詰まってしまう」と言われた。自分の粘液は無色透明だから、パンツにシミなんか残らない。気になるときはティッシュを詰めている。一度、紙が硬すぎて肛門が切れたことがあった(笑い)。人によっては、ズボンが濡れるほど多く出るそうだが、自分のはせいぜいパンツまで。前は、授業中我慢できなくて、トイレへ行かせてもらっていたが、今は次の休憩まで待てるようになった。運動していると出ない。特に水泳をしているときはまったく出ない。
<今日は、体育祭の準備がこれからあるので、時間が少ししかないけど、何か話しておきたいことがあればどうぞ。>
 またファミコンの話ですが、弟や妹は兵隊8人全部使うが、自分は意のままに使いこなせる2人を有効に使う。攻め方も弟はメッタ打ちにするが、自分はまず守りを固めて、自分の体力をチラチラ見せて、敵をおびき出して、引っかかったとき叩く。以前は、弟に負けてバカにされた。その晩は、夜中にひとりで練習した。近頃勝てるようになった。自分が勝つと、弟は怒って出ていく。弟は、ものの言い方が父にそっくりで恐かった。子どもの頃は2人とも父そっくりの顔をしていた。今はかなり違う。いつ頃からか、何事でも優れているように思えたが、今はかなり追いついたように思う。
 プラモデルの作り方も違う。弟は、マニュアルどおりにしか作らず、仕上がりも雑。手に糊や塗料が付くと嫌がる。自分は、マニュアルも見るけど、いろいろ工夫して、他から部品を持ってきたりして、独創的なものを作ります。仕上がりも丁寧で、その代わり手はいつも塗料で汚れていました。本でも、一度読むとそれっきり。自分は、同じ本でも何度も読む。
<今日はたくさん話してくれてありがとう。さっきのゲームはなんて言うの?>
 ストリートファイターⅡです。

<O>
 ためらいながら話すことがなくなった。顔色がとても良い。催促しなくても自分からどんどん話してくれる。それも嬉しそうに。

<A>
 今日は体育祭の準備のため、開始が遅くなった。それでも約束どおり来室した。粘液の話をとてもフランクにするし、他の人に比べて自分のはさほど大したことはないので、何とか対処できている、と受け取れる。ゲームやプラモデルの話を生き生きと語った。ゲームやプラモデルの話から、クライエントと弟のライフスタイルの違いがよく読める。
 体育祭の出場予定がなかったのを、急遽、綱引きに加えてもらったそうで、ここにも好転のあとが見られる。こうした改善の方向にあることを、クライエントに伝えるのは勇気づけになるだろうか?
 ラポールと勇気づけに専念していると、クライエントのほうから熱心に語ってくれることがよくわかった。

<P>
 トレーニングプラン作りの援助をする。

<SVC>
 このケースは、カウンセリングで進んでいるのか、ケースワーキングで進んでいるのか、はっきりしない。
 クライエントの行為が改善の方向にあることを伝えるべきかどうかの疑問について。
 ひと言言って様子を見るのもよいが、疾病利得があるかどうか、クライエントの行為との兼ね合いで判断すること。うかつに「よくなりましたね」と告げると、症状悪化を訴えてくることがあるので要注意。(野田先生)

・・・・・つづく

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