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スレッドNo.193

大森浩のカウンセリングケースから

家庭内暴力をめぐるケースから

1,はじめに
 このケースの特徴は、はじめに母親とのカウンセリングがあり、後に子どもとの授業や教育相談室でのつきあいがあり、親子両方に関われたことです。母親との1回限りのカウンセリングは、滑らかに展開したかに見えながら、実は失敗していたことが、後でIPが語ることから判明しました。それにもかかわらず、その後、IPと深く関わることができたおかげで、結果としては、母親でなくIPを援助することになりました。このころ相談室はいわゆる“アザラシ村”になりつつありました。アザラシ村は当時のアドラーギルド(大阪)につけられたアダナです。アドラーギルドには大研修室という大部屋があって、そこで研修や講座や事例検討かなどが開かれますが、行事がない空いた時間には、何気なくふらっと若者などが立ち寄って、くつろいでいきます。別に相談事があるわけでもなく、ただ、ごろごろと一定の時間くつろぐと勝手に帰っていきます。この「ごろごろ」に治療効果があることから、いつしかここは“アザラシ村”と呼ばれるようになりました。
 “アザラシ村化”が進むにつれて教育相談室はとても治療的・援助的空間となり、多くの生徒や教師が来室するようになりました。“アザラシ村化”の発端は、私が授業を担当する土木科1年生の男子生徒2名が休憩時間に私をたずねてくるようになったことです。大した用事もないのに、ただ世間話をしに来ます。そのうち短い10分間の休憩だけでなく、お昼休みにも必ず来室するようになりました。私はお昼を食べながら、彼らと談笑します。あるとき教頭さんが用事があって来室されて、その様子をご覧になりました。彼らに「どうしてここへ?」とたずねると、彼らは即「大森先生のおっかけです」と答えました。教頭さんはにこやかに退室していかれました。そのうち、土木科に限らず、私が授業に行く他の科からも徐々に来室する生徒が増えていきました。このケースはその“アザラシ村”の果たす役割が大きいです。
 ケースに関しては、プライバシー保護のため、内容を可能な限り改変し、登場人物名はすべて仮名(かめい)にしてあります。


2,ケースの記録
□イニシャル・レポート
☆クライエント:竹中米子
 49歳、無職。夫の死後、生活保護を受けながら3人の子どもを育てる。あとでIPの話から、「ボーイフレンド」がいることが判明した。
☆IP:竹中千春
 母親とのカウンセリングのとき16歳。高校1年生。3~6歳まで施設へ預けられていた。
☆他のきょうだい
兄(+8歳)
 親戚へ預けられていた。現在、建具師として独立。
妹(-3歳)
 よそへ預けられることなく、ずっと母親と同居。
☆面接形態:集団カウンセリング(母親、担任教師)

□Subjetive Program
クライエント(以下“CL”):家で、私に暴力をふるい、妹をいじめる。家の中のものを壊したり、私を叩いたりする。妹をいじめるので、私がかばって外へ連れ出す。暴力が出たのは息子(千春)が中1のときから。「親らしいことを何をしたか。復讐してやる!」と言う。「親子の縁を切ったろうか」とも言う。
カウンセラー①(以下“CO”):一番最近、どんなことがありましたか?
CL:1週間ほど前、「ビデオデッキを買え」と言うので、「一度に支払うのは無理、知り合いの店へ分割払いで頼もうか」と答えたら、「どこまで腹が腐っているのか!」と、私の胸を激しく叩いた。そのため、骨にひびが入るほど負傷した(アザを見せる)。このとき、担任の先生に相談しました。担任の先生から、ここを紹介されました。ほんとに正気の沙汰とは思えない(と、かなり激昂)。
CO②:復讐というのは穏やかでないと思いますが、何か思い当たることがありますか?
CL:施設へ預けていたので、母親の愛情が薄かったのではないかと思います。後ろめたい気がして、一生懸命親らしいことをしようと思うのですが、逆効果みたいです。
CO③:後ろめたいのは、子どもに?世間に?
CL:両方あります。
CO④:きょうだいの仲はどうですか?
CL:兄には一目置いているようです。妹とは仲が悪い。親としては公平に扱っているつもりですが……。
CO⑤:それはそうでしょうね。3人のうち、施設に預けられたのは?
CL:千春だけです。兄も一時親戚へ預けたことがあります。
CO⑥:お兄ちゃんもよそへ預けられたが、それも親戚で、妹さんはずっとお母さんと一緒。そうすると、千春君はどんな思いを抱くでしょうか?
CL:ひがんでも不思議はないですね。そう言えば、胸を叩いたあと、決まり悪そうに、「許してはもらえんだろうなー」と言ってきました。
CO⑦:で、何とおっしゃいました?
CL:何よ、今さら!と言いました。
CO⑧:その言い方、今はどう思われますか?
CL:うーん(笑い)。
CO⑨:他にどんな言い方が考えられますか?
CL:うーん、思いつきません。
CO⑩:「謝りに来てくれたのね。お母さん嬉しいわ」とは言えませんか?
CL:まさか(笑)。「何よ、親を叩くなんて」とも言いました。
CO⑪:「お母さんは叩かれるのはイヤ」とは言えませんか?
CL:はー?言えませんよ、そんな。
CO⑫:もしかしたらお母さんと仲良くしたいなんてことはないでしょうか?
CL:(認識反射)あ、そう言えば、時には肩をもんでくれることもあるんですよ。
CO⑬:そういうこともありますか。
CL:(表情がかなりなごんで)あまりないのですが、それでも、担任の先生が面白いとか、部活が楽しいとか話してくれます。
CO⑭:そういうとき、どんなふうにして聞いていますか?
CL:あまり本気で聞いていませんね。
CO⑮:できたら、そういうときはしっかりと聞いてあげませんか。さて、では暴れたときはどうすればいいでしょうか?
CL:まず、逃げているのですが…
CO⑯:良い方法だと思いますよ。
CL:こちらにもいくらか、叩かれても仕方ないという思いがあったと思います。
CO⑰:お母さんは、ご自分を大切になさらないと…。
CL:(しんみりと)親だから何とかしようという思いが強くて、叩かれても無理強いしてしまうんですね。
CO⑱:ごもっともです。で、これからどうしましょう。
CL:……。
CO⑲:お母さんが決めて押しつけるのでなく、息子さんに決めてもらいませんか?
CL:それなら楽なんですが、この前なんか、「この家は俺でもっているんだ」と大きなことを言っていました。
CO⑳:で、何とおっしゃいました?
CL:何を馬鹿なことを!と言いました(大笑い)。
CO㉑:「ほんとねー、頼りにしてるよ」とは言えませんか?
CL:(笑)今度からはそう言います。先生、「親子の縁を切る」と言ったらどうしましょう?
CO㉒:「そしたら、どうなるんだろうね?」とだけおっしゃるのはどうでしょうか?学費や食事の心配があるので、まあ、本心ではないのではありませんか?
CL:そうですね。やってみましょう。

□Objective problem
 生傷の痕が痛々しい。

□Assesment
 子どもがひがんでいるのは、親の責任ではないと、親を勇気づけた上で、子ども側の思い込みを一度理解してみるように提案する。3人のきょうだいのうち、IPだけが施設を経験していて、これは親を責める手段に使える。妹を嫌うのも納得できる。1日24時間暴れ回っているわけではなく、穏やかな会話のできるときもあるのだから、そういうときしっかり関わって、乱暴を始めたら逃げると言う方針でうまくいくのではないか。IPとは授業で面識があり、関係も良いので、将来直接IPと会う機会もあるかもしれない。もっとも、こちらからは動かないが。

□Planning
 当分、助言を実行して、様子を見るとのことで、しばらく凍結する。

□Supervisor's Comment
1)親子両方に会えるとカウンセリングは早い。ただし、親が子どもを引っ張ってきては駄目。復讐期の子どもは手間がかかる。学校ではニコニコしていても、家に帰ると怒っているかもしれない。
2)このケースは、母親を気分良くして帰しているが、拒食や家庭内暴力の母には厳しく悔い改めてもらわないといけない。こういう親は性格は強いから、永続する効果を望むなら、初回で顔面パンチをくらわすのがいい。良い気分では帰さないこと。暴力をふるう親の子は、明るく元気で自分は絶対正しいと思っている。子どもが高校以上なら、家から出すのも手。育児途中なら子どもとのコミュニケーションを変えてもらう。
3)家庭内暴力児は辛抱している。手加減している。親はそれを知らないから気づいてもらう。メチャクチャをしているのは親のほうだから。(以上すべて野田俊作先生のコメント)
・・・・・つづく

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