論語でジャーナル’24
子曰く、君に事(つか)えて礼を尽くせば、人以て諂(へつら)えりと為(な)す。
先生が言われた。「君主に仕(つか)えるにあたって礼の義務を尽くせば、人はそれを君主のご機嫌取り(へつらい)だと言う」。
※浩→吉川幸次郎先生の解説が素敵です。人間の善意の表現としての礼の生活、それは身分の差異に応じて、その表現を変えるものであったが、それを美しい秩序として、数学者が数学の秩序に対して感ずるような、美しさを、孔子は感じていたのだと思われる、と。
主君をないがしろにして政権を専横していた魯の三家老(孟孫・叔孫・季孫)を孔子は嫌い、正統な主君である定公に礼を尽くしてお仕えしました。しかし、実力者である三家老に肩入れしている人が多い魯では、孔子は「君主のご機嫌を取って出世を狙っている人物だ」と見なされることもあったそうです。美しい秩序を保持しようとする自分の気持ちを知らない、と孔子は嘆きます。
数学者が数学の秩序を美しいと感じるといえば、映画の「博士の愛した数式」を思い出します。高校の数学の教師、通称“ルート”(吉岡秀隆さん)が生徒に、自分がなぜ数学が好きになったのかを語るところから物語は始まります。原作は、母・杏子が「私」として語る形だそうです。
ルートの母親、杏子(深津絵里さん)は、家政婦として働くシングルマザーでした。杏子は新しい派遣先で「博士」と出会います。博士は交通事故によって記憶が80分しか保てないのだという。そんな博士は、杏子とその息子にさまざまな数式について語るようになり…。杏子は、結婚できない人を愛し、そしてルートを身ごもりました。家政婦として働き、女手一つでルートを育てたのです。家政婦紹介所でのキャリアは10年とベテラン家政婦だった杏子は、9人も家政婦を交代させたワケありの客のもとに派遣されることになります。雇い主はその家の未亡人(浅丘ルリ子さん)。義弟=博士(寺尾聰さん)の世話をしてほしいとの依頼でした。その未亡人から出された条件は午前11時から午後7時までの勤務と、離れと母屋を行き来しないこと。そして義弟が起こしたトラブルは必ず離れの中で解決すること。弟さんに会わせてほしいと話す杏子でしたが、依頼人に義弟は事故の後遺症で10年前までの記憶で止まっていてそれ以降の記憶は蓄積されないのだと言われてしまいます。記憶が持つのは80分。だから今あなたと会っても明日には忘れているのだと。杏子が担当することになった依頼人の義弟・通称博士は、今は亡きひとまわり上の兄のお陰で留学して数学を研究し、日本に帰国したのちは大学で教授を務めていました。しかし事故後は大学を辞めなくてはならず、未亡人となった義理の姉に援助してもらって生活をしていました。杏子が初めて博士の家に出勤すると、いきなり靴のサイズを聞かれます。「24です」と答える杏子に、博士は「実に潔い数字だ。4の階乗だ」と答えます。その後、電話番号の数も聞かれ、博士は数学の研究者らしくその数についての蘊蓄を話します。杏子には何がなんだかさっぱりわかりませんでしたが、その日から最初の挨拶は数字の話をする毎日でした。記憶が保たない博士にとって、杏子はいつでも初対面の相手だったのです。他人と交流するための会話が数字の話でした。そして、80分で記憶がリセットされてしまう博士のジャケットにはたくさんのメモ貼り付けてあり、毎日初対面の杏子ともそのメモを通じて会話を進めていました。杏子は、博士と数学の話をしながら打ち解けていくなか、自分に10歳の子どもがいるという話をします。博士は、杏子が仕事をしているときに子どもが一人でいると聞き、息子をこの家に連れてくるように言います。そして、そのことを忘れないためにジャケットに張り付けてあるメモにそのことを書き足します。翌日、博士の家に来た杏子の息子(齋藤隆成)の頭が平らで記号の√に似ていたので博士に「ルート」と名付けられました。次第に打ち解けながら、博士、杏子、ルートは毎日穏やかな時間を過ごします。ルートと好きな野球チームの話になった博士は、お互いタイガースファンだとわかると好きな投手の話をします。しかし、その投手はもう引退したとルートから聞くとひどく落ち込んでしまいます。記憶が80分しか保たない博士と、ルートのタイガースの好きな時代は違ったのです。その帰り、杏子は博士に悲しい思いをしてほしくないから、「もうその話は聞きました」と決して言わないとルートと約束をします。博士、杏子、ルートの楽しそうな団らんを母屋から見つめる博士の義姉。昔、博士からもらった秘密の手紙を大切そうに読み返します。……あとは映画をご覧ください。これ以上のネタバレはまずいでしょうから。