アイビーの俳句鑑賞 その1
アイビーの俳句鑑賞 その1
15 初蝶や動きの止まぬ牛の顎 (春雨さん)
35 名人の無駄なき一手亀鳴けり (春雨さん)
いずれも互選高点句。二句一章の見本のような句。前句は牧歌的な農村風景、後句は凛とした佇まいの中の時間の経過を詠んだが、季語の「初蝶」、「亀鳴く」が微妙に離れ微妙に適っている。この辺りの呼吸は口で説明できるものでなく、場数を踏んで体得するしかないだろう。
23 昭和の日巨人大鵬卵焼き (てつをさん)
74 たかんなの鼓動高なる土の中 (てつをさん)
前句は一定の年齢以上の世代にはすぐわかる。いやになる程強くて面白みが無い。昭和の高度成長期の象徴だろう。後句は私が特選に頂いた句。筍がまだ地中にあって少し頭を出そうかという時、「鼓動高なる」の表現が筍の力が漲って来るようで、まことに秀逸。かな混じりでの表記だが、漢字で書けば「鼓動高鳴る」になろうか。
27 寂しいね雨に負けそな桜たち (ラガーシャツさん)
上五にいきなり「寂しいね」と置いたのが新鮮。「負けそうな」を「負けそな」と、実際に使う口語のかたちに近づけた。これが気取りのない平明さにつながったように思う。ラガーシャツさんは初投句だが、ご自分の確たる俳句スタイルをお持ちのようにお見受けした。
31 マスク無き卒業式の笑顔かな (ふうりんさん)
今年の卒業式はマスク着用の義務が外された。去年まではマスクのため、表情のない、淡々と式次第を消化するだけの無味乾燥な卒業式にならざるを得なかった。マスク無しの今年は卒業生の泣くにしても笑うにしても、多感な世代の表情がストレートに表れる。
50 花筏のんぼり洗い五条川 (和談さん)
桜の名所の五条川。鯉幟や武者幟を染めて晒すのんぼり洗いでも知られる。桜が散って花筏が川を流れる時とのんぼり洗いの時期が重なった。清冽な川の流れ、青や黒様々な色の幟が何本も晒されている。そこへ淡いピンクの花筏。想像するだに鮮やかな一大ペイジェントだ。
8 春うらら句に苛まれ早や三年 (無点)
惜しくも無点となった。言わんとするところはよく分かるのだが、言葉の取捨選択にも気を使いたい。問題の言葉は「苛まれ」だ。国語辞典でも虐めるとか辛く当たるとかのネガテイブな意味しか出てこない。作者の真意はそうではなく、句作に推敲に、ああでもない、こうでもないと苦心しているとの意味だろう。苦心もまた楽しいのが俳句だ。アイビー流に うららかや句に没頭し早や三年 としてみた。
7 うららかや土管坂より海の見える (無点)
これも惜しくも無点となったが、これは推敲の時のちょっとした不注意が原因だろう。原句では座五が「海の見える」と字余りになってしまい、リズムが壊れた。上五で「うららかや」と切れを入れたのだから、座五は「海の見え」と流せば十分だ。
以下次号、不定期掲載
アイビーの俳句鑑賞は今後4回くらいに分けて掲載しますが、次回が何時になるかも本人も分かりません。新規の投稿が途絶えてしまうのが管理人としては一番辛いことです。内容がかぶっても構いませんので積極的な書き込みを期待します。