アイビーの俳句鑑賞 その2
アイビーの俳句鑑賞 その2
タッチして拳叩きし競泳者 (えっちゃんあら)
実際に競技に出場した水泳選手の立場から詠んだ句。泳いでいる間は自分が何位を泳いでいるのか分からないが、ゴールにタッチして初めて順位が分かる。で、ライバルの選手はどうだったか、実際の競技者ならではの描写が、中七の「拳叩きし」に凝縮された。私は、しのぎをけずってきたライバルに勝ったことで、思わず拳を叩いたと解釈したのだが。
裏切りも不倫もなくて竹夫人 (ABCヒロ)
竹夫人はちくふじんと読み、竹を編んでほゞ等身大に筒状にしたもの。竹かごとも言う。夏の寝苦しい夜などに抱いて寝る。先行句には性的な連想を呼び起こすような句もある。作者はそれを逆手にとって「裏切りも不倫もなくて」とシャレのめした。作者の機知が楽しい。7月句会のトップに並んだ句。
蝉時雨鳴き止む時の恥ずかしさ (ラガーシャツ)
蝉の声がうるさい季節になった。あっちでもこっちでも蝉が鳴きだす。蝉時雨というやつだ。ところが、どういう加減か蝉が鳴き止む一瞬がある。その一瞬の空白を作者は「恥ずかしさ」と把握した。なかなか難しい形容だが、分かるような気もするし、そうかなあという気もする。言うまでもなく、恥ずかしさは蝉が感じるのではなく、作者の心象そのものを表現している。
父の日の殿様盛りの鰻飯 (ふうりん)
おそらく鰻屋がネーミングしたのだろうが、殿様盛りがすごい。松や竹ではなく、特上でもなく殿様盛りなのだ。なんとも豪勢な鰻飯、きっとお値段も張るだろうが、不味かろう筈がない。至福の父の日だったことだろう。アイビーのポリシー、食べ物の句は旨そうに、にドンピシャリ当てはまる。
嬰児の寝息のリズム夏座敷 (弥生)
何の屈託もなくスヤスヤと寝息を立てて嬰児が寝ている。見守る家族全員が至福を感じるひと時だろう。後味のよさが読み手にも伝わってくる佳句。季語の斡旋も申し分ない。
駆け上がる忍者屋敷の守宮かな (弥生)
同じ作者の句で、一転して滑稽な味を狙った一句。狙い通りの滑稽さ、軽みを醸し出しているが、難を言えば忍者屋敷と守宮では即きすぎかなあ。
宵山や警察官の京言葉 (尾花)
絢爛豪華な京都祇園祭のクライマックスの山鉾巡行を見に群衆が押し掛ける。群衆の整理に当たるお巡りさんは当然ながら京都の言葉だ。京都の人には不思議でもなんでもないが、他県の観光客からすると、絢爛豪華な祭りと警察官の京言葉はミスマッチもいいとこだ。てきぱきと群衆を捌かねばならんのに、はんなりとした京言葉、そのギャップが可笑しい。そこに得も言われぬ俳味を感じたのが作者の尾花さん。アイビーが特選に頂いた句。
向日葵や子犬迎へる大騒ぎ (無点句)
ペットショップか知人の斡旋かは知らないが、我が家に子犬が来ることになった。たかが犬ころ一匹と言う勿れ、犬小屋はどうする、食べ物、食器はと、受け入れ準備に朝からてんやわんやの大騒ぎ。向日葵との取り合わせも悪くはないのだが、意外にも無点句となった。俳句にも運不運があると割り切るしかなさそうだ。
以下次号、不定期掲載
宵山や警察官の京言葉
アイビーさん、この句の感想をありがとうございました。
コンコンチキチン コンチキチンの宵山を見物に行ったのは7~8年前のことです。豪華絢爛の山鉾や、各商家もその家に代々伝わる家宝というものを店に置いて見せて頂けるということでお店を回ったものでした。
お店のご主人とかお巡りさん、群衆の中追い越していく、特に男性の京言葉のミスマッチにほのぼのとした可笑しみを覚えました。