アイビーの感想 その3
頑固爺されど団扇で寝る孫に (淑子さん)
夫のことだろうか、日頃は頑固一徹な夫も、祖父としての顔は全く異なる。孫が寝ていれば、かいがいしく団扇で風を送っているではないか。妻の私にはついぞしてくれたことなどないのに。そんな夫を淑子さんは微笑ましく見つめている。よき家族に囲まれた幸福を感ずるのはこういう時なのだろう。俳句は17音しかないので、一句の中にあれもこれも詰め込むと、せせこましい印象になる。思い切って捨てることも俳句上達の要諦だ。
炎昼や梅干しゃぶり庭師かな (無点)
疲労回復、血液さらさらなど梅干の効能は広い。炎天下に作業をする庭師、よく見れば口に梅干を含んでいる。長年の職業的な体験に裏打ちされた生活の知恵なのだろう。惜しくも無点句になったが、作者の目のつけどころに感心した。
立秋や数学九十点の夢 (萩さん)
作者自身の解説にあったので句の背景はよく分かった。この句は広い意味では孫俳句になろうが、孫という言葉を使っておらず、孫俳句に通弊とされる大甘の俳句にはなっていない。適度の距離感があり、この辺りは作者のウデ。一概に孫俳句はいけないと言われるが、私は与しない。あくまで作品次第だろう。ただ、立秋はもっとよい季語がありそうだ。一例として、 銀漢や数学九十点の夢
転た寝の子よりプールの匂ひかな (ヨシさん)
プールで遊び疲れたのだろう。子どもが転た寝を始めた。プールに匂いは無いのだが、子を思う母親の気持ちが「プールの匂ひ」と言わせた。「プールの匂ひ」と強く断定したところにこの句のよさがあると思う。5点を集め、私も特選にいただいた。
風鈴や軒に生まるる陸奥の風 (かをりさん)
中七、座五の「軒に生まるる陸奥の風」、思わず『うまい』と声をかけたくなる。陸奥の風というからには、この風鈴は南部鉄の風鈴なのだろう。澄んだ風鈴の音色に一服の涼を感じ、遠く陸奥に思いを馳せる作者。風鈴の音に留まらず、広がりを感じさせる句と私は思った。
アイビーの感想 完