選句鑑賞
8 どんど焼き餅焼く手には火の匂い (和談さん) 6 ◎ラガーシャツ
左義長、どんど、注連貰ひなどと呼ばれ正月15日神社などで松飾り、注連縄、書初めなどを焚き火の粉《子》を浴びながら残り火で餅や芋などを焼いて食べる。土地によっていろいろな伝承があるが本来はその土地の年頭の子供が子供組から若衆組へ移るいわば成人式である。どんどの火は紅い。
いとけなの貌灯につらね注連貰ひ《香田浮薔》青樹同人
30 落椿割烹名残の井戸ありて (ABCヒロさん) 4 ◎ナチーサン
割烹とあるから有数の日本料理の老舗だろう。それも昔の話。今は知る人も少なくなった。敷地には名残の井戸があるばかり。そこにははらはらと落ち椿が。切ない。特選に戴いた。
35 窓越しに懐炉手渡す始発バス (ヨシさん) 10 ◎明楽寺
この句も自然な句だ。作為も何も感じられない。始発バスが良い感じ。相手は誰か。親子愛、夫婦愛、なんとでも想像できる家族愛。読むだけで温かくなる素直な句だ。トップにふさわしい。
36 ヒヤシンス意外と話し易き人 (弥生さん) 8 ◎てつを
最近は卑近なところから句材を捜しての句づくりを心掛けているが思うに任せない。当たり前、平凡の域を出ない。と思っている時この句に出会った。力むわけでもなく自然だ。冒頭の季語が効いている。見習いたい。
42 飾取る床の間広くなりにけり (いちごさん) 2
床の間は家の中でも別格、広くもないその空間は一種の神域でもある。新年を迎え飾り物が床の間を占めた。松も過ぎ飾り物が取れもとの静寂を取り戻した床の間、この一瞬を捉えた作品。
57 ここも熊出たよと義姉の山暮らし (ちとせさん) 3
志摩の田舎では海を渡って猪が芋を目指して上陸、畑を荒らしたとか。熊ですか。共存を目指しての議論が紛糾している地域もあるようですが、そんな緊張感は微塵もないこの句。伸びやかな田舎暮らしが想像されます。熊さんによろしく。
80 狛犬にもたれ竹馬一服す (明楽寺さん) 4
面白い。迷わず採った。今の竹馬は孫の幼稚園だったかの親子工作で作った竹馬と異なり材料がプラスチック。靴でも乗りやすくなっている。竹馬は本来草履で乗るものか。この竹馬乗り手はおそらく昔の子供だろう。一服の場が良かった。句になった。狛犬を驚かせた罪な竹馬だ。
82 節分や炒り豆踏んで猫無粋 (茶々さん) 2
茶々さんの猫好きは有名だ。今回も節分で登場、「豆踏んじゃった」と来た。茶々さんの雅号の元となったにゃんこ茶々は最近落ち着いて小屋にいる様子。畑の小屋には数匹巣食って茶々さんのご馳走を待っているようだ。話は変わるが最近読売新聞のコラムに長谷川櫂氏が一茶の句を連載でしている。もちろん茶々さんには届けた。写真入りだ。一茶さんも猫好きだったのか。
とぶ工夫猫がしにけり恵方棚 一茶