選句候補作品鑑賞
8 たましひの抜けし軽さや蝉拾ふ (玉虫さん) 10
当初空蝉かと思いましたが下五からどうやら成虫として全うできなかったセミかまたは命を全うした蝉との理解に至りました。いずれにしても意味合いが全く異なります。それで魂の重さですがこれがまた難題、悩ましい。作者は魂の重さを中七から証明しています。いずれにしても理屈ではなくあくまでも心象の問題、掌にした骸に軽さを実感した作者、命の尊さを思う暖かな視線を注いでいるのでしょう。
29 雲海やこの世の果てに立つてゐる (ヨシさん) 5 ◎ゆめ
季語は雲海。中七、下五には感心させられました。遥か昔富士の山頂から眺めた雲海を思い出しました。雲に乗ってみたい誘惑に駆られたものです。「この世の果て」とは言いえて妙。下五の素朴な表現も好感が持てます。
37 赤岳の登山小屋より眺む富士
私の登山経験は富士登山のみです。したがって他の山からの眺望の体験はありません。富士登山は4回ほどですが大学のスクーリングでの5合目からを除き全て下から登っています。いわゆる今でいう弾丸登山です。登山道は瓦礫ばかり。頂上は寒いし唯一心に残っているのはご来光と雲海です。「NO29の雲海や」の心境です。この話60年前の話。
赤岳からの富士山眺望、句の鑑賞で豊かな気持ちになりました。感謝!
64 愛猫の死を悼む老い沙羅の花 (茶々さん) 1
作者は大の猫好きで飼い猫の他7キロほど離れた畠の小屋には数匹ののらちゃんが棲み付き飼い主の餌を心待ちしています。ほぼ毎日車で1反ほどの畑を見回るとか。凡ての猫に名を付けそのうちの茶々と名付け雅号にもした猫が時折いなくなりその都度飼い主を悩ませています。この度天に召されたのは飼い猫の1匹で隣家で死にそのまま処理場へ。
そのことを知った飼い主はすぐさま引き取り火葬場へ。卒寿の茶々さんますますお元気です。
87 ハンモック天動説に一理あり (アイビーさん) 4
面白い句ですね。ハンモックと天動説。 ハンモックは吊り床、ハンモックに身をゆだねながら地球のありようを身に感じている作者。何と豊かな想像力。ブランコなら何と詠むのでしょう。改めて思います。愉快な句だと。
101 原爆忌一人にひとつ物語 (にゃんこさん) 6
忌日の句はむづかしい。この重い句材をどう詩的に表現するか。この句、思いのたけを言い留めて余りあるのではないでしょうか。読後の想像力を読者に迫っている味わい深い句だと思います。
104 夕凪や暮れゆく色を海に置く (弥生さん) 6
中七、下五に惹かれました。海に置くとは思い切りの良い表現。読後爽やかな気分にさせてくれます。季語も効いています。落ち着いた佳句だと思いました。