アイビーの感想 その2
アイビーの感想 その2
8 ありたけの日差しを集め冬野菜 (てつをさん)
38 大根引くひねくれものも混ざりゐて (てつをさん)
両句とも前々回から参加されたてつをさんの句で、句意については全く説明の必要が無い。互選トップの木の葉髪の句もそうだが、とても分かり易く句の情景にすんなり入って行ける。難渋な言葉を使わないで気負わず、それでいて言葉の選択の一つ一つが的確だ。この作句態度は大いに見習いたいものだ。
24 甘辛く夫の好きな芋を煮る (蓉子さん)
中年以上の男性の味の好みは、大雑把に言っておふくろの味に言い尽くされる。中でも里芋と烏賊を甘辛く醤油で煮れば、あとは何もいらない。飯の菜に、酒の肴にとよくぞ男に生まれけるとなる次第。おふくろの味はとりもなおさず古女房の味でもある。男の味覚はすべからく保守的なのだ。
56 出番待つ畑の四隅の糠袋
農業にも家庭菜園にも不案内なアイビーは糠袋の意味が分からなかったのだが、ネットで調べた結果発酵させて肥料にするとのこと、ようやく得心した。実際に農業体験の豊富な作者ならではの実感がこもった句で好感が持てるのだが、季語が見当たらない。そこで、上五に別の季語を立て取り合わせの句にすることを提案したい。一案として 冬晴れや畑の四隅に糠袋
23 温め酒一献受くる割烹着 (胡桃さん)
文人墨客や俳人のたまり場だった「卯波」の女将で、自らも俳人だった鈴木真砂女を彷彿とさせる。71番の句もそうだが凛とした風姿のよい俳句が胡桃さんの句風と見た。
71 木の葉髪鏡の中の幾山河 (胡桃さん)
特にご婦人は毎日鏡を覗くから体調の一寸した変化にも敏感なのだろう。それだけに身だしなみには細心の注意を払う。ある日、鏡に映る吾が姿に元気のない木の葉髪を見つけた。一本の木の葉髪から来し方のあれこれに思いを巡らす作者。この間の時間の経過に思いを経せる馳せる時、感慨ひとしおのものがある。
81 二枚目の考の笑顔や落ち葉焚く (悦ちゃんあらさん)
考は亡くなった父。読みは同じちちである。亡くなったお父さんは、落葉の降り積もる庭を掃くのが日課だったのだろうか、笑顔を浮かべて庭を掃く温厚な父の日常を回想する作者。中七で切れ字「や」を使っているので、回想シーンとは別に、現実の世界で作者自身が落葉を掃いているとも読める。そう解釈した方が句に深みが出ると思うがどうだろう。二枚目は少し判りにくいので「ハンサム」ぐらいにしたい。
87 湯豆腐や老老介護てふ課題 (ABCヒロさん)
長寿社会は目出度いことながら、一方で老老介護という問題が表面化している。評論家のきれいごとでは済まない事例が、それこそ枚挙に遑が無いほどだ。深刻な内容をはらんでおり、重苦しい句になりかねないところ、季語に湯豆腐を持ってきたあたりが手練れの手腕だ。私自身、大変参考になる季語の斡旋だ。
83 石垣に固まって居る枯蟷螂 (ちとせさん)
「蟷螂の斧」という諺があるように、カマキリは弱いくせにめっぽう威勢がよい。斧をかざして威嚇するパフォーマンスが恰好の句材になる。俳人に人気のある所以だ。そんな蟷螂も秋から冬にかけて枯葉色に変色し、枯草そのものの擬態を装う。微動だにしない。それをちとせさんは「固まって居る」と言い留めたが、言い得て妙だ。本当に、秋のあの威勢は何処へ行ってしまったのか。
以下次号 不定期掲載