アイビーの感想 その1
アイビーの感想 その1
1 箒垣に閉ざす古民家冬日影 (ちとせさん)
不勉強で箒垣なるものを知らなかったが検索してやっと分かった。おそらく豪農か在郷の旧家の屋敷であろう、箒垣で周囲を囲い端然とした佇まいを想像する。季語の冬日差が穏やかな雰囲気を醸し出している。
62 葱抜いて友いっぱしの農婦なり (ヨシさん)
友はかつて同じ職場で働いていたのだろうか、無論、農家の出ではない。久しぶりに再会し、積もる話に花が咲き時の経つのも忘れた。帰りがけ、畑に出て葱を抜いてくれた、その動作がいかにも手際が良く、まるで本職のお百姓のようだ。時間の経過は容赦ない。しみじみとした味わいのある句。
82 底冷えの錦市場にぐじを買ふ (ヨシさん)
ぐじは甘鯛の一夜干し、京都のおばんざいの定番だ。京都といえば錦市場、それにしんしんと冷え込む底冷え、まさに京都の庶民生活の雰囲気を髣髴とさせる一句となった。
59 洗われて干されて大根旨み増す (ABCヒロさん)
懸大根といえば冬の風物詩として、この辺りでは武豊町が有名だ。真っ白ではち切れそうな大根が、日にちとともに萎びてベージュ色に染まってくる。これが大根の旨味で、太陽の恵みを感じさせる。「洗われて干されて」と、対句にすることにより、リフレインの軽快なリズムが生まれた。
35 自信作漏れて陥る枯葎 (神林亮さん)
会心の作と自信をもって出した句が、予想に反し入点が伸びない。誰しも身に覚えがあり、思わず頬が緩んでしまった。そこが俳句の玄妙なところで、奥の深いところでもあろう。作者の亮さんは落ち込んで枯葎に入り込んでしまったが、なに気にすることはない。逆に、員数合わせで出したような句が、思いがけず点が入ることだってあるのだから。
58 行く道はシャンソン如く枯葉舞う (和談さん)
枯葉が舞っている様をシャンソンに喩えたところが何ともユニークで秀逸だ。そういえば、昔イブモンタンのシャンソンがあったのを思い出した。中七の「シャンソン如く」は不自然なので「シャンソンのごと(如)」としたい。
74 功徳積むための石段冬木立 (尾花さん)
神社仏閣の長い石段。私などは寄る年波で最初からギブアップしたい気持ちだ。そんな怠け心を見透かすように「功徳積むため」とピシャリやられては仕方ない。気を取り直して登るとするか。
93 忘れ物多き婿殿ちゃんちゃんこ (尾花さん)
婿殿は直ぐ近くに住んでいると想像される。鷹揚であくせくしない性格の婿殿。忘れ物多きと作者は言っているが、決して非難する調子ではない。むしろ、そんな婿殿を好ましく見守っているに違いない作者。揺るぎない信頼を窺わせ、アットホームな味わいを楽しめる句になった。
39 顔見世や空群青の隅田川 (無点)
隅田川が出てくる以上、この場合の顔見世は東京歌舞伎座の顔見世だろう。顔見世という難しい季語に敢然と挑戦されたことを諒としたい。ただ、空が群青色なのは分かるが、それと隅田川がどういう関係にあるのかが不分明で、読者としては若干、消化不良気味と私は思うがどうだろう。
アイビーの鑑賞3原則 ①作品に対するリスペクトの気持ちを忘れない ②入点の少ない句、無点句であっても取り上げるべきは取り上げる ③いわゆる仲間褒めをしない
以下次号 不定期掲載
箒垣に閉ざす古民家冬日影
アイビーさん感想有り難う御座います。山梨県北杜市光の美術館で箒垣を初めて見ました。古いお宅でも見て良い物だなと思い俳句にしました。
きしめんの鰹節躍る十二月
名古屋に嫁いできしめんを知りました。息子などは小さい頃大の好物で近くでお祭りの出店があれば小遣い握り締めて飛び出していったものです。関東では「ひもかわ」と言っていましたが今や全国区できしめんで通じまね。注文して運ばれて来るとまさに鰹節躍っていて美味しさがほとばしります。
特選に頂きました。
アイビーさんのあたたかな感想楽しみに読ませて頂いています。有り難う御座います。
74功徳積むための石段冬木立
93忘れ物多き婿殿ちゃんちゃんこ
アイビーさん、感想をありがとうございました。
忘れ物・・・の句を投句するとき、どこかで婿さんの目に触れ誤解されるといけないと思い季語に悩みました。 アイビーさんの感想を読ませていただき「ちゃんちゃんこ」で良かったんだと思い安心しました。 ヨシさん採って下さりありがとうございました。
かをりさんの句とは知らずご無礼を申しました。(本当は知ってたけど)
私めの個人的な感想に過ぎませんので、どうぞご放念下さい。
元句の 大川の空群青や初芝居
よく分かる名句で、この句なら特選で取らせていただいたのに。
アイビーさん、お纏めお疲れさまでした。
39 顔見世や空群青の隅田川 (無点)
早速、感想をいただき、感謝です。
元句は 大川の空群青や初芝居 でありましたが、
初芝居と顔見世を混同し、慌てて泥縄に顔見世に修整し、墓穴を掘りました。
ここは顔見世の子季語を用いて
大川の空群青や足揃 とすべきでありました。
選句観賞は、また頑張ります。