落ち込まない方法は?
Q
私は「楽観的」な人間だと思っていましたが、「楽天的」だったみたいです。私は感情の起伏が激しく、よくハイになったり落ち込んだりするのですが、別に今までライフタスクを意識していたわけではありませんが、落ち込んでいる自分は、自分であまり好きな状態ではありません。今まで、誰かと話をしたり、素敵なものに出会ったりして、その状態を抜け出しているのですが、他に何か早く抜け出せる方法とか、落ち込まない方法があれば教えてください。
A
なぜわれわれは落ち込むかというと、1つは無意識からの警告なんです。感情が暗いほうへ向いているのは何かというと、1つは人生の設計を間違えているからです。今行っちゃいけない方向へ進み始めているから。だから何を間違えているのか、ちょっと点検してみないといけません。絶対に不可能なことを実現しようとしていたりすると、だんだん疲れて落ち込みます。
例えば、「すべての人から好かれよう」とか、「誰よりも偉い人になろう」とかしていると、まぁしばらくはいいんですけど、そのうち息切れして、「誰かに嫌われたら…」と思うと落ち込むんです。なんでこんなに落ち込んでいるのか原因を探すと、原因は見つからなくて、“きっかけ”が見つかります。「あの人に嫌われたから」とか、「仕事をやりすぎたから」とかいうのが見つかるけど、それは原因じゃなくてきっかけです。
落ち込む原因は人生の方向性の誤りです。しなくていい仕事を片っ端から抱え込んだとか、好かれなくてもいい人にまで好かれようとしたとか、しなくていいお節介をいっぱいして回ったとか、そういう「自分の人生の方向性の誤りがあるんだよ」という警告です。
ですから、せっかく落ち込んだのだから、まず一度“方向性”の点検をします。「何か間違っているのかな?」って。今と違う生き方を少し考えてみるんです。そうすると人生の方向が開けることがあります。みんな、感情が行動の原因だ、落ち込んでいるから動けないと思っているんですが、感情よりまだもっと前に原因があるんですね。それは何かというと、1つは「人生の向き」が間違っているから変な感情が出てくるんです。もう1つは人生の向きと関係していますが、「考え方」の間違い。しちゃいけないことをしようとしているとか、しなきゃいけないことをしないでおこうと、何か変な理屈をこねているとか。そんな理屈をこねている結果、頭の中に変な呪文ができているんです。「私って駄目だ!私って駄目だ!…」とか、「あの人が悪い!あの人が悪い!…」とか、「悪いあの人、かわいそうな私。悪いあの人、かわいそうな私……」とか、「人生って暗くて思いどおりにならない」とかというのを、まるでお経みたいに頭の中で唱えているんです。
そんなことしていないと思うかもしれませんが、朝起きた瞬間はそれがよくわかります。朝お布団の中で、ムニャムニャって目が覚めてくるでしょう。そのときに自分は何をしているのか考えてみて、ちょっと頭の中を点検するんです。そしたら、「あ~ぁ、何てイヤなんだろう!今日も1日が始まるなー。仕事に行っても、同僚は馬鹿ばかりだし、上司は無理解だし、お得意先は偉そうにしているし、給料は安いし、また交通事故に遭うんじゃないか……」なんてことを思うと、憂鬱になります。これは良くない。そういう言葉が、実は朝ばかりじゃなくて、1日中ずっと無意識の中で動いているみたい。それを探し出すこと。特に朝方はわかりやすいから、朝方に探してほしい。
すると、相当間違っていることがわかります。だって、仕事に行くのはイヤなことかいいことかというと、価値相対主義ですから、イヤでもあるし良くもある。イヤな面もあるしいい面もある。物事には良い面と悪い面と両面あって、その良い面と悪い面のうち、われわれは勝手に悪い面を選んだりしている。無意識的に。でも良い面だって、もしも選ぼうと思えば選べるわけで、良い面を選ぶほうが問題解決につながりそうならそれを選ぶ。別に良い面のほうが本当だから選ぶわけではなくて、どっちも嘘なんです。けれど、良い面を選んだほうが今動き出せそうなら、良い面を選んで動き出せばいいじゃないですか。
そうやって、ブツブツブツブツ唱えている呪文みたいな考え方、勝手に考える「自動思考」(浩→行動療法の用語)、それを引っ張り出すこと。それが2番目の方法です。
それから第3番目の方法は、もしもこれができればですけど、意欲とか気分とかいうのは、「気分が良くなったら仕事をしよう」とか、「気分が良くなったら運動しよう」とか、みんな思うけど、あれって因果性が逆さまなんです。仕事しているとだんだん気分が良くなるんです。運動しているとだんだんやる気が出てくるんです。だからどうしても動かなきゃならないときは、“イヤな気分のままで”動き出す訓練をします。
雑誌の原稿ですと、だいたい2か月後が締め切りです。でもときどき「急ぎ」で、2週間とかいうのがあります。雑誌社のほうで頼りにしていた著者が1人断ってきて、「先生、何とか15枚ぐらい書いてくれませんか」「締切はいつ?」「再来週」。真っ青になります。そんなの、気が向かないことおびただしい。「2週間でそんなの書けるかしら。原稿は多いし、イヤだなあ」なんてことを思っている間に、とにかく書き始めるんです。
最初2時間くらいは無意識が抵抗しています。「こんなことしていないで、あんなことしよう。あれしよう、面白いことしよう」とブウブウ言うんですけど、「お黙り!」と言ってやっていると、2時間目くらいから、カーッと燃えます。
けれど、誰でもそうなんですが、あんまりこの手を使うと、ストレスが溜まります。そのうち十二指腸潰瘍になったりするから、いつも使う手ではないけれど、どうしてもというときは使えないことはない。動き出せば、気分は動くために良くなってきます。
だいたいそんな克服法というか、抜け出すための方法を知っていると便利です。実はこれについて書いた本が何冊かあります。そのうちの1冊、『嫌な気分よさようなら』(誠信書房)は、私(野田俊作)の友だちが翻訳した本ですが、面白い本で、イヤな気分よさようならのための、ありとあらゆる細かい小ワザ・テクニックがいっぱい書いてあります。まあそんな本もありますので、もし興味があったら本屋さんで探してみられたらどうでしょうか。(回答・野田俊作先生)