アイビーの感想
野の風さんの思わぬアクシデントで、変則的な句会になりましたが、一日も早い復帰を祈念します。
アイビーの感想です。
日輪もものうげにして黄砂降る 野の風さん
黄砂が降ると中天にヴェールをかけたようになる。その様を「日輪が物憂げな」表情をしていると捉えた作者の感性は素晴らしい。
花吹雪あれよあれよといふ間かな 野の風さん
皆が待ち望んだ桜。ようやく咲いたと思ったら、もう散り始めた。なんと慌ただしいことよ。日本人の実感に即した一句。
集団に居て孤独なり大試験 泉也さん
一つの会場に多くの受験生が集まっての試験当日。若者は「受験」という括りはあるものの、すべて他人で、恃むのは自分以外にありようがない。そこから厳粛で孤独な闘いが始まるのである。「集団に居て孤独」と言い留めた作者の眼差しは優しい。
鳥一羽流れに沿いて春の川 新之助さん
なんの鳥かは分からないが、川沿いに一羽飛んでいる。静止画の中に、動いている一羽の鳥。静と動、一瞬のシャッターチャンスを狙ったカメラマンの冷徹な目がそこにある。季語の「春の川」は動くようで動かない。
初蝶の吾が菜園にたづね來し てつをさん
菜園に初蝶がやってきた。農作業の合間に珍客の訪れは、農作業の疲れを癒し、「春になったなあ」と実感するひと時だ。日本人はこのようにして季節の移ろいを感じ、緩やかな時間の経過に身を任せることの至福を感ずるのである。