即興で店の名の曲燈涼し
宵越しの銭は持たぬお吟さん、今日は、田んぼの中の一軒家カフェに出没。この辺りの青田は水を湛えていて、いくぶん風が涼しい。樽木栄一郎というシンガーソングライターの弾き語りを聴く。いつも幼稚園の先生のスカートを握って隠れて下を向いて歌っていた男の子が、あるとき周りのたくらみにまんまと嵌り、下を向いたまま気づかず、学芸会で一人で大声で歌う羽目に。しかし、男の子の声は素晴らしく、大喝采をあびる。この日を境に、男の子はガキ大将とも対等に喧嘩ができるようになる。
無名のまゝ、歌だけで食べてゆくには、相当の苦労があったと思われるが、幼い時に浴びた大喝采の記憶がいつも背中を押してくれたみたいだ。全国どこへでも、海外へも、ギターをかかえてチャンスを求めて歌いに出かけるので、出会った人々との、事実は小説よりも奇なる話は山ほどある。歌の合間の語りが、短編小説のようで聞かせる。
偶然、「夏こそ着物でしょ」の強者さんも来られていた。紗のつばめの小紋に、紅型の半巾帯を結び。帯留はあさがおのお細工物。この人がいれば、客のレベルがぐんと上がる♪
寄せて来て返すことなき青田波 大久保和子
