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草罠に転びて空と草いきれ

小学校の隣の山に水戸黄門の別荘跡があり、海門橋と太平洋が見渡せ、大きな松の名残の周りは一面の草っ原で、草を結んで草の罠を作り走り回ってはよく草罠に足を取られてひっくり返ったものだ。わたくしは非常に運動神経が鈍い子どもだった。

本ばかり読んでいると両親が心配して、近所の水産学校の数学の教師として父が頼まれ講師をしていた時に同僚の体育の平根先生に頼んで、小学校三年から六年まで夏休みと冬休みは平根先生の水府村の実家で体操を習うことになった。長男が国体の体操選手で双子の次男の実君と誠君と一緒に体が柔らかくなる柔軟体操や鉄棒など三年間みっちり鍛えられ、娘が美大に行っていたので休みに帰郷したから画の手ほどきも受けて、本ばかり読んでいた末成り瓢箪のようなひ弱な子どもは水府流の泳ぎも覚え、足の全開脚や胸を付ける体の柔らかさで模範演技や全校生の前での鉄棒演技を披露させられるまでになったので初代鼓笛隊のリーダーにまで抜擢されてピアノの披露までする羽目になり、体を鍛えるだけのつもりがいつの間にか地元新聞にも載ることになって、一人遊びが好きなわたくしはこの矛盾に翻弄されて、以降極端な人間嫌いになって、人生の裏街道、と言ってもヤクザになるとかいうのではなく、ひたすら「隠れて生きることこそ良く生きる者である」というギリシャ哲学の教えを守って古稀まで生きて来たわけです・・・が、どういうわけかやることなすこと目立ってしまうので、とにかく有名になるという庶民の暮しを逸脱することだけは絶対に避けたいと、その代わり黒子として助けるので絶対に名前は出さないでと隠れて生きて来たので、こうしてハイヒールの軒先で野良猫暮らしをしているわけです。

「草いきれ」という季語は、「夏草」と言うと「夏草や兵どもが夢の跡」という芭蕉の有名な句をみな連想するから比較されるので手垢の付いた季語であり、もっと手垢の付いていない良い季語があるではないかと波多野爽波が弟子たちに言った季語が「草いきれ」でした。俳聖芭蕉と張り合うなど思いも寄りませんが、自分に合った等身大の言葉で自分にだけは噓をつかないという生き方をしてきたわたくしにはなるほどなあと合点する着眼点でした。

俳句をわたくしが好きなのは世界で一番幸せの目線が低いことで、地べたを這いずり回る虫や雑草ごときで幸せを感じることが出来る文藝はそうそうあるものではありません(ねえって)。ミミズやオケラや亀を鳴かせて喜ぶとは馬鹿丸出しですが、金はかからないし、しかもネット俳句だと顔を合わせる必要がないので人間関係の軋轢もなく非常に快適です。

そうそう、波多野爽波は名句の季語は手垢が付いているからもっと身の周りの身を入れられる季語を見つけよと教えてくれましたが、季語そのものの本意に甘えないという俳人もいるので、これはこれで凄い力量なのでお話しておきましょう。季語の本意を信じるというのはきっこさんもそうですが、大方の有季定型の俳人は歳時記重視です。しかし、高柳重信、その弟子の澤好摩、盟友の三橋敏雄などの句を見ると、彼らの季語は歳時記に載っている季語の本意とは異なります。例えば「春の海」。と言えば、

  春の海ひねもすのたりのたりかな 蕪村

が頭に浮かびます。勿論いつも春の海がのたりのたりしているわけではない。わたくしは大洗で生まれ那珂湊で育っているので生まれた時から海に繋がれた暮らしを見ているので、むしろ春先は荒れる海の方が実際は多い。しかし、文藝上の本意はのどかな海という約束事が建前として背景をなすことは誰も否定はしないでしょう。しかし、彼らは安易に本意に凭れ掛からないという意志を持っている。高柳重信が即興即吟で詠んだ句が、

  軍艦が軍艦を撃つ春の海

お題が出て砂時計二分以内でどんどん句を作る袋回しなどよく遊んだもので、ハイヒールだとチャット句会で皆さんも早打ち俳句にチャレンジしたことがあると思いますが、「春の海」という御題が出て高柳重信が詠んだ句を見て若き澤好摩は驚いたそうです。「六十になったら俳句はやめろ」と言われて「七十過ぎても詠んでるよ」と笑っていましたが、澤好摩が詠んだ句が、

  空砲に煙ありけり春の海 『返照』

この句も伝統的な季語を変容させています。また高柳重信の急逝で「俳句研究」を澤好摩と支えた三橋敏雄の有名な次の句。

  あやまちはくりかえします秋の暮 『疊の上』

これも「秋の暮」といえば「三夕の和歌」からの伝統的な本意からは変容しています。定家の「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ」の幽玄のにおいはありますが。そう言えば三橋敏雄の弟子の池田澄子さんも四回、詠んだ句を変容させて自分の言葉にする密室の推敲を繰り返しているから、この師にして、という季語に凭れないという意志の伝承はあるのでしょうね。

というわけで季語にどう向き合うか、違う立場ですがどちらも真摯な俳人たちだということをお伝えしておきます。

引用して返信編集・削除(編集済: 2023年06月09日 13:06)

草いきれ墓標の並ぶ峠前

こんにちは。

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空缶の中に闇あり草いきれ

おはようございます(^^)

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ひとりだけひと区切りして草むしり

おはようございます😃

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山里は早寝早起草を刈る

きっこさん、みなさんこんばんは。

引用して返信編集・削除(編集済: 2023年05月24日 21:55)

近づけど遠山遥か大夏野

きっこさん、ハジメ2018さん、皆さんこんばんは。

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遠ざかる右後方へ夏の富士

おはようございます。

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夏の富士大きな傘を被りたる

おはようございます😃

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富士山へ微かに掛かる虹の橋

おはようございます(^^)

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山際を羽ばたくごとし夏の雲

きっこさん、猫髭さん、皆さんこんばんは。伊勢路の雲も面白いですねえ。

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