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編集・削除(編集済: 2026年05月30日 02:08)

中有を彷徨ふ

果たして中有でも此の世と同じ時間が流れてゐるのだらうか。
真夜中まで起きてゐると不意にそんなことが頭を過るが、
例へば中有で道に迷ったならば、彼の世へ旅立った衆生は
此の世を彷徨ふのかもしれない。
それといふのも迷子の御霊といふものは、
衆生の誰もが死は初めて経験することで、誰も死の達人はゐないのだから
中有で迷へば誰しもが此の世を彷徨ふ亡霊として
いつまでも踏み留まってゐるかもしれないし、
或ひは何かに転生するのを頑なに拒んだものは
自ら敢へて中有を逃げ出し、
成仏せぬままに此の世を彷徨ふのが道理だらうと思ふ。
だからとていって幽霊が此の世にゐるとは言ひ切れる筈もなく、
唯、言へるのは、此の世とは思ってゐるほどに秩序だってをらず
物理法則が成り立つ程度に渾沌としてゐる、
或ひは物理法則を少しでも外れれば、其処は最早渾沌の世なのかもしれないのだ。

ならば、中有を彷徨ひし御霊は強力な力をして何かに転生させられるのであれば、
たぶん、迷へるものへと転生させられるに違ひない。
此の世で一番迷へるものと言へば
それは自死を胸に秘めたる人間だ。
多分、中有で迷ふと言ふことは転生しても
すぐにまた、自死して中有に戻る定めなのかもしれない。

さうして迷へる衆生は病死や天寿を全うしたものよりも
転生の回数が多く、また、此の世にゐられる時間も少なく、
いつまで経っても自死する人間に転生するのかもしれない。
さうだから自死は禁じられてゐるのかも知れず、
その転生の回数の多さに比べていつまで経っても自死から逃れられぬ定めならば、
いっそ中有に行くことそのものを已めて
唯、此の世を彷徨ふ霊として、或ひは悪霊として
留まることを選ぶに違ひない。
その霊が衆生に憑依すれば、
それは恐怖でしかないのであるが、
しかし、吾らはそんな渾沌の中で生きてゐるのであらうから
甘受しなければならないのかもしれない。

南無阿弥陀仏。
此の世を彷徨ふ霊たちよ、自死した己を呪ふべし。
他に憑依すること勿れ。

――ぷふい。ちゃんちゃら可笑しいぜ。南無阿弥陀仏だと。そんな呪文は彷徨へる御霊には何の御利益もありゃしない。吾らができるのは只管祈ることだ。それしかできぬ無能な存在が人間だと早く気付けよ。ちぇっ。

編集・削除(未編集)

がんばる頑張る  じじいじじい

きょうしっぱいした
がんばっていれば
だいじょうぶあしたはできる

きょうないちゃった
なみだをぜんぶだしたら
だいじょうぶあしたはえがお

きょうあめふっていた
ぬれるひもあるよ
がんばっていればあしたはれるよ

がんばっていれば
あしたはげんきになれる
がんばることがたいせつなんだ

今日 失敗した
いいじゃないか失敗したって
歯を食いしばって頑張っていれば
明日は出来るよ

今日 泣いた
泣きたい時は泣いたらいいよ
身体中の涙を全部だしたら
明日は笑えるよ

今日 雨が降っていた
雨でびしょ濡れになる日もあるよ
身体全部に雨でびっしょりになればいい
明日の太陽でカラッカラになれるから

人ってさ頑張れる生き物なんだよ
失敗とか雨とかちっぽけなんだよ
そんなこと気にしてないで
頑張っていれば明日は晴れるよ

編集・削除(未編集)

嘘つき 喜太郎

見つめ合い流れる時間の川の中で
いつも溺れそうな私に手を差し伸べてくれました
それに あなたは『愛おしむ心』を教えてくれました
どんなに傷ついても立ち上がり争う強さも
あなたは優しく教えてくれました
あなたは知っていたのですね
命の短さを
一人でも悲しみに飲み込まれない様に
そっと そっと
私の心を悲しくても笑顔で包みながら
二人の重なる心をあなたは
少しずつ 少しずつ
私が傷つかぬようにずらしてくれました
だから私は一人でも大丈夫と言ってしまった
全てを知るのがサヨナラの後なんて
あなたはひどいくらい優しすぎて
きっと一人で寂しかったんでしょう?
あなたは嘘つきだけど
あの笑顔も優しさも真実でした
だって私は前を向いて歩けてるから
私 幸せになるからね

編集・削除(未編集)

介護の現実

もとより
親に育てられた自分であってみれば
考え方も感じ方も
親と似ていて当たり前

「穏やかな心で
 誠実に人と接し
 悪口を言わない」
そんなモットーで生きてきた母親を
ごく当たり前のように尊敬してきたし
自分もそうありたい、
いや、そればかりか
自分も十分に誠実な人間だと
うぬぼれていた

ところが
米寿を目前にした母が
とつぜん大腿骨を折ってしまったその日から
歯車がすっかり狂いはじめる

不幸中の幸いで
手術もうまくいき
あとは、しっかり病院でリハビリすれば
もとのように歩けそう…
周りが喜んだのも束の間
なぜか母がリハビリを拒否して
「もうこれ以上どうしても
 病院に居たくない!」
そう言って聞かない

「あのね、母さん
 入院が長くなって
 つらいのはわかるけど
 せっかくお医者さんや看護師さんのおかげで
 ここまで元気になったんだから
 あともう少し入院して、リハビリがんばろう」
「絶対にイヤ!とにかく家に帰りたい
 いつまでもこんなところに押し込んで、
 お前たち、よってたかってわたしに何する気なの!」
いったいどうしたというのだろう?
別人と入れ替わってしまったのだろうか?

やむを得ず
病院から家に連れ帰った後も
見知らぬ他人は母の中に居座り続ける…
わがままを通り越して
傲慢で
猜疑心が強く
誰彼となく悪口を言う
手に負えない隣人だ
誠実がモットーだった人の
優しい面影はもうどこにも見当たらない

寝たきりになった母の介護を続けながら
なにもかも骨折と高齢のせいだとは
頭ではわかっていても
恐ろしくも悲しいことに
母に対していつの間にか憎悪を抱いている
そんな自分に気づいてしまう
わたしの「誠実」とは
しょせん、その程度のものだったのか?

ただ
もし仮にこの人が
まったくの赤の他人であったなら
愛憎の狭間で苦しむことも
複雑な感情に悩むこともなかったろう
親子だからこそ、
これまでの思い出に囚われすぎて
却って母も自分も追い詰めてしまってはいないか?

お互いに似ていなくてもかまわない
ごく最近出会った同居人のように
あまり期待しすぎることなく
ゼロから始めるつもりで
相手に向き合うしかない

編集・削除(編集済: 2023年05月26日 14:38)

言葉などいらない  朝霧綾め

言葉などいらない
散歩をしに外に出る
雨上がりの空
かすかに揺れる風見鶏

どこかの家から聞こえる
昼食をつくる音
しめったアスファルトの匂い
子供たちの遊ぶ声
空では少しずつ
晴れ間が広がっていく

水たまりに映った木々を見て思う
言葉などいらない
大切なことはみな
ずっと前から
語り尽くされていた
今更私がつけ加えることなど
もうない

無言のまま
雲がのこる青空に手をのばす
太陽で少し影になった 自分の手を
見上げるようにする

私と同じ気持ちを抱き
私と同じように
こうして空に手をのばした人だって
数えきれないほど たくさんいたのだ

私が語らずとも
ずっと昔の人々が
私よりもっと知的で美しい言葉で
書き残してくれた
だからもう十分だ
言葉などいらない

そうして家に帰った
自分が取るに足らない存在である
ということに
安心感さえ覚えた 日曜の午後

でも私は家に帰ってから
この出来事を詩にしてしまった
けれど また気が付いた
その小さな罪をも
ゆるしてくれそうな寛容さで
世界は存在しているということに

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昨日の夜のこと  まるまる

夕飯を済ませて
一緒にテレビを観るのは
下の息子
特に何か 話すでもなく
ソファに座って 並んで観る

玄関に 高一の娘
音がいつもより 大きい
おかえり
食事はこれからだね
ソファの後ろの食卓に
私も 移動

箸を口元に運びながら始まる
娘の愚痴
 先生の授業 わかんないんだよねー
 そうなの?
 だってさあ・・・・・・ 

椅子の背もたれに寄りかかる
がっかりしているのか 脱力
掛ける言葉を探す 私

 どしたのー?
テレビを観てた息子は
そう言って ソファから身を乗り出した

知りたいよね
わからなくても
入りたいよね

自分のことじゃないのに
ひとつになろうとして

ありがとうね

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公園にて  ベル

公園の木
新緑を見上げると
その向こうに青空があった

そこはよく晴れた日曜日
回るグローブジャングル
揺れているブランコ
遠い記憶を駆け巡る風の匂いが
時の流れを遡る

この道を歩いていけば
もう一度あなたに逢えるの?
答えなどなく頬を伝うものは
これまでの歩いてきた道

ふと気づけば
ゆりの花が咲いているよ
公園の水道で水をがぶ飲みしてた
入道雲も笑ってた
あの日に帰ろう
新緑を見上げた先に
青空があったあの日

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ふるさと  山雀詩人

ねえ
何うつむいてるの

忘れてたでしょ
僕のこと

いいんだよ
忘れてて

君が忘れてるときも
僕はここにいるから

ふるさとみたいなものかな
いつもは気にもしないけど
ふだんは正直忘れてるけど
変わらずにただそこにある

僕もそう
いつもずっとここにいて
いつだって君を見ている
ビルとビルのすきまから
屋根と屋根のすきまから

いろいろな色に染まり
いろいろな雲を浮かべ
時々刻々と星を巡らせ
四季折々で風を薫らせ

いいんだよ急にそんな
見上げたりしなくても

君は君のままでいい
君の道を行けばいい

僕も何もしないから
寄り添いもしないし
優しい言葉をかけて
励ましたりもしない

ただいつもここにいて
遠くから見守っている

ふるさとみたいなものかな

いつか君が
帰るふるさと

君の翼で
帰るふるさと
 

編集・削除(編集済: 2023年05月22日 11:59)

話し合い 大杉 司

祭りでもないのに
地元は賑わっている
警察官が出勤するほど
やけに賑やかだ

交通規制が実施されても
人々は見物をしに出掛ける
黒い車に乗った
沢山のお偉いさんを見るために

そのお偉いさんたちは
大きなホテルに移動し
自国のことや他国について
話し合うそうだ

その話し合いで
全て変われば良いが
分かり合えれば良いが
そうはいかないのだろうか

そんなことは誰も分からない
皆望むばかりで
この望みさえも
良いことなのかさえ分からない

せっかくの話し合いだ
出来れば入念に慎重に
話し合ってもらいたいが
今日が最終日

三日間で話が付くのかと
不思議に思ったが
もう過ぎたこと
何も言わない

地元はいよいよ静まり
人々は家に帰る
今回の話し合いで
全て変われば良いが
そうはいかないのだろうな

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老人とピアノ  エイジ

その老人は
どこからともなくやって来て
小さな部屋の
ピアノの前にそっと座った
そしておもむろにピアノを奏で始めた

言葉では容易に形容できない
とても優しい旋律だった
そして転調して徐々に
旋律は次の展開に入ってゆく

やがて私は彼の弾くピアノ曲が
無上の喜びをたたえた旋律を
紡ぎだすのに気が付いた
その時老人は身体に
明るいアウラを纏っていた
この世界のものとは思えぬ
アウラで光り輝いていた

彼はまさに
どこか違う世界で生成された
彼の中に沸き起こるメロディーを
この地上で奏でるシャーマンとなった

目には見えない
けれど確かに存在するピアノの音
その音色は
遠くの世界の扉を開く鍵となり
老人は遠くの世界と
地上との媒介となり
ピアノの前で崇高に輝く

彼はもう知っているのだ
自分の肉体がもう間もなく
滅びてしまうと
桜の蕾が膨らんでいるのが
窓から見え 風に揺れている
彼は知っているのだ
もう一刻の猶予もないと

やがて彼はその
小さなピアノ曲を弾き終わった
最後の一音まで弾き終えた時
その手つきは柔らかで
指はそっと鍵盤に添えられていた

彼は全て終わったと言うように
ピアノに座ったままで
天を仰いだ
部屋に置かれたピアノから
まだ余韻の音が鳴っているようだ
部屋の時間は
静かに厳かに流れていた

編集・削除(編集済: 2023年05月20日 09:18)
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