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編集・削除(編集済: 2024年09月10日 18:37)

松島や  ピロット

どんな船に乗ったのか
瞳に映ったのはどんな島だったのか
何もかもが曖昧で
白いヴェールの内に霞んでいる
昨日みた夢の記憶のように

 松島や ああ松島や 松島や

目前に広がる海原 点在する島々
これが絶景なのかしら
首を傾げながら乗り込んだ遊覧船
遠ざかる岸 藍色の海
船の道筋は どこまでも白く続いている

陽光を反射させ 輝く水面
潮の香り 島を指差すあなたの横顔
あなたの肩越し広がる景色は 確かに絶景
波立つ胸に 絶景をも霞ませる あなたを描く

田舎臭い民謡 エンジン音
かき消されぬように
島々の名を 奇怪な形の不思議を
あなたは 熱心に語ってくれたっけ 

波に洗われ浸食した 岩肌の灰白色
頂きの松の緑 橋の朱の色

近付く島に目を見張り 
船立てる波の後 遠ざかってゆく島を見送った…

 *

懐かしい記憶の中
船は進んでゆく
あの島々の名 どれ一つ
今はもう 思い出すことができない

二人で船に乗っていた……
潮風に吹かれ 並んで佇んでいることすら
恥ずかしかった
あの頃……

観光地の宿命か
時の流れの中で
絶景とは似つかわない 可笑しみと哀しみを
抱き重ねる 松島

私たちもまた
あの頃 思いもしなかった
可笑しみと哀しみを抱き
毎日を 送っている

時折 ふと思い返す
遥か遠い 松島の風景

絶景の海 牡蠣が抱く真珠のような
小さいけれど 甘いあの煌めき
胸の奥 今日も抱きしめて

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ミューズ(詩神)  エイジ

ある、まだ肌寒い日
精神科デイケアに行くと
三人のうら若き女性たちを
紹介された

彼女等がデイケアのスタッフに
新しく加わる
毎週火曜日の散歩にも
一緒に行くことに

僕の担当は
キラキラした瞳の小柄な女性
最初の散歩で
彼女に詩について語った
彼女は甲斐甲斐しく
話を聞いてくれた

絶好の散歩日和に
中央公園に行った
二人共 小さな太陽のように
微笑みあっていた

来週は詩を見せることに
できれば感想など欲しい
嗚呼、貴女は
僕のミューズになってくれるだろうか

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彼を構成するものたち

床の上の赤紫のしみ
しみからは泡と薬のような甘たるい匂い
床を埋め尽くす服
割れたペットボトルの破片
積みあがった彼の記憶のような書類たち
飲み残しを洗ってないコップ
中にはドロドロとしたヨーグルトになり損ねた牛乳
いつかのコンサートチケット
ポテトチップスの空き袋がカサカサ音を立てる
留まることを知らない彼の欲求
この怠惰な毎日が彼を構成する

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不思議  朝霧綾め

夜、眠りながら見るものと
朝、ひっそりと呟くものが
おなじ夢という言葉で表されるのは
とても不思議

このほの暗い部屋には
眠ろうとしている私と
眠っている二人の子どもがいるのに
真昼の、星の反対側には
畑を耕す人々がいる
私が朝になり、その人達が夕方になれば
農具を仕舞って一緒に踊ろう

小さな星に
さらに小さな私がいて
ここに夜があるのは
とても不思議

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あたまのわるい私は  荻座利守

あたまのわるい私は
いつも霞がかかったように
うつくしいものが
よく見えない

あたまのわるい私は
散らかった部屋のように
うつくしい言葉を
見つけられない

あたまのわるい私は
寒さにかじかんだ手のように
うつくしく
言葉をつづれない

例えば
老婆の手のような
プラタナスの葉や

陽光の欠片のような
たんぽぽの花や

龍の鱗のような
硬い柊の葉や

愚直なロボットのような
働き蟻の姿を
眼に留めて

風に飛び散り
消えてなくなるような
けし粒をかき集めるが如く

空を這いまわる雲や
風雨を呑み込んだ奇岩に
見る人が形を与えるが如く

とらえどころのない靄に
形をもたらそうとして

現れたものは
できのわるい紙風船
隙間だらけで
歪んだまま地に落ちる

それでも私は
なおも
紙風船を膨らまそうとする
あたかも命の息吹を
吹き込むかのように

そう
あたまのわるい私にも
ひとつだけ言えること

言葉に命を
与えてみたい

命を吹き込まれた
言葉そのものこそが
この世界に隠された
見えない次元の影法師
ほんの時折にしか現れない
真実への扉だから

隙間だらけの紙風船に
あたまのわるい私は
なおも
息を吹き込む

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おっさん  晶子

四月一日
夜のSL広場で
酔っ払いのおっさんが
一人でずっと騒いでた

誰かあいつを知らないか
名前なんかは知らないよ
呑み友達ってそうだろう
なんつうの
女性経験っつうの
あんまりなさそうだったから
ここは俺が兄貴となっていろいろ教えてやろうとさ
思っていたわけよ
弟みたいなもんだから
おっさんとでもしとくか
まあ俺もおっさんだけど

あいつはちょっと変だけど
いい奴なんだよ本当に
まあ俺もいい奴だから
いろいろ話してやったわけ
そんで俺元漁師っつったら喜んじまって
人をとる漁師になろうなんていいだしやがった
本当に変な奴
でもね
時々淋しそうな顔すんだわ
俺も淋しいからね
なんとなくわかるんだわ
俯いて
たぶんあん時は泣いてたな
えりとかさばとかいいながら

そしたら神の子になるとか言って急にいなくなっちゃうんだもん
心配するべ
大丈夫かよって思うべ
やめた方がいいよ
神様になるなんて
石投げられるぞ
大嘘つきって
でもあいつはいいんだって
大嘘つきでいいんだって
人がつかなきゃ誰が大嘘つくんだって
馬鹿が

もし見かけたら言ってやって
神様になんかにならなくていいから
俺はお前の呑み友達だから
待っててやるから
また来いよって

言うだけ言っておっさんは
SLの中に消えてった
消えてった

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雨の声  cofumi

空から降ってきた誰かの涙が
傘を伝って落ちて来る
ありがとうとか
さようならとか
許せないとか

  春の雨は冬の寒さを残しながら
  夏への希望を含んで

  夏の雨は何もかもに色をつけ
  空にも心にも虹をかける

  秋の雨は冷めかけの珈琲に似て
  残したものをどうしようかと思いを巡る

  冬の雨は静かに時間の上に降り
  一粒一粒が語りかけてくる

過去を振り返ったり
過去が追いかけて来たり
グチャグチャの本棚を整理するように
上手く並べられたら
心も落ち着くのかな

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えがお  じじいじじい

さいたさいた
おうちのにわに
きいろいはなさいた
チョウチョやアリンコ
いっぱいあつまる
やさしいえがおの
きいろいはな

さいたさいた
クラスのなかに
えがおのはなさいた
おとこのこおんなのこ
いっぱいあつまる
やさしいえがおの
なかまってはな

さいたさいた
せかいじゅうに
へいわのはなさいた
せかいのひとたち
いっぱいあつまる
やさしいえがおの
へいわってはな

きいろいはな
なかまってはな
へいわってはな
どれもみんな
しあわせってはなのたねから
さいたはなだね
みんなもさかそうよ
いつだってどこだって
しあわせってはなは
だれでもさかせられるから

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裸の胸  妻咲邦香

静かな夜には
裸の胸がよく似合う

抱き合って
抱きしめ合って
一つになるのに
裸の胸がよく似合う

毛が生えてても
生えてなくても
固くても
柔らかくても

膨らんでても
へこんでいても
ほくろがあっても
よく似合う

始まる時でも
終わる時でも
愛し合ってても
憎んでいても

静かな夜には
何もない夜には

お腹が空いてても
喉が渇いても
月が見えても
見えなくっても
雨が降っても
晴れてても
二人きりになったなら

本当に
本当に
裸の胸がよく似合う
今この時だけは

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手紙  小林大鬼

手紙よ手紙
迷子の手紙

人から人へ届けるはずだった
切手が泣いている


手紙よ手紙
迷子の手紙

誰かの思いを伝えるはずだった
インクが滲んでいる


手紙よ手紙
迷子の手紙

忘れられるのが一番辛い
消えるのが悲しい

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