“筋肉カウンセリング”と呼ばれたケース
1,はじめに
筆者が初めてアドラーギルドでスーパービジョンを受けたケースです。
クライエントは高校1年、授業を担当しているクラスの男子生徒です。教室の後ろの隅の薄暗い席に、いつもボーッと座っていて、土色の顔をしていました。授業中しばしばトイレに行きました。欠席・遅刻が多く、1学期末が近づいて出席時間数が気になり、クラスメートにたずねると、彼は工業高校でなく普通科の進学校に行きたかったそうで、この学校が嫌なのではないかと話してくれました。
2学期になってまもなく、担任から、母親を呼んでいるので会ってほしいと依頼されました。母親の話によれば、父親が警察官で何かにつけ口うるさく、箸の上げ下ろしにまで注文をつけるとのこと。そのため子どもが神経質になってしまったそうです。
翌日から、生徒本人のカウンセリングを始めました。
2,カウンセリングの経過
ケースはPOSシートの形式で報告します。守秘義務の関係で、名前はすべて仮名とし、またケースの特徴を損なわない範囲で内容を大幅に改変してあります。
◆クライエント名:高松仁志(仮名 16歳)
◆同居家族
父親(43歳)、母親(40歳)、クライエント(以下CL 16歳)、妹(-2歳)、弟(-4歳)
【1回目】
>> 状態記述 <<
記述診断:□健常 ■神経症的 □精神病 □身体病 □非行 その他
対人問題:■親子関係 □夫婦関係 □対人関係一般 その他
面接形態:■個人 □夫婦 □全家族 □集団 その他
<Subjective Ploblem>(以下<S>)
#1 主訴
高校受験準備を始めた去年11月頃から、朝になると下痢してトイレに駆け込むようになった。息苦しくて部屋にうずくまることもたびたびあった。
入学後も症状は続き、病院で消化器・循環器等あらゆる検査を受けたが、異常はなかった。その後、肛門から粘液が出て困ったので医者に診てもらったら、「しばらく苦しみなさい」と、意味のわからないことを言って何もしてくれなかった。
<それでどう思った?>(以下、カウンセラーの発言は<>で示す。)
他のことはともかく、粘液はほんとに出ていて困るので、これだけでも何とかしてほしかった。
<これまでに似たようなことは?>
中学の卒業式のとき、急に腹の調子が悪くなったけど我慢していた。式が終わって家に直行した。すると母が帰ってきて、「どーして勝手に早く帰ったりするの!」と言われた。
<で、どんな気がした?>
咎められたように気がした。
#2 最近あったこと
おととい欠席した。最近、吐き気もする。朝8時から9時の間が一番苦しい。粘液も出る。起きた途端に苦しくなってトイレに走った。朝食を食べに台所へ行くと、妹と弟はもう来ていた。少し遅れて父が「お早う」と言って入ってきた。みんな「お早う」と応えた。他には、父とは何も話さなかった。
学校へ行こうとすると、また吐き気がしてトイレにしゃがんだ。落ち着いてから母に、「今日は休む」と言うと、「そう」とだけ言った。昼前にはかなり楽になり、夕方にはすっかり良くなった。
#3 症状があるために困ること
①計算ができない。
②人の話を聞けない。
③ものを忘れる。
④トイレに通うのが煩わしい。
#4 治ったら一番に何をしたいか
①自転車で玩具屋や本屋に行きたい。
②プールで泳いだり、体を動かしたりしたい。そうしていると、肛門のことは忘れている。何もしないでいると、どうしても気にしてしまう。
<Objective Problem>(以下<O>)
落ち着きがない。いつもおどおどしている。視点が定まらない。こちらが話しかけると、体がピクッと反応した。
顔色が悪く、目のまわりに黒い隈ができている。声は小さい。服装はきちんとしている。
<Assessment>(以下<A>)
病院の診断結果では異常がないので、今ある症状が対人関係の中で使われていることは間違いなかろう。
前日の母親との面接で得た情報によれば、母親はCLが症状を出してからは、他の2人の子どもを放置して、CLの症状除去のために奔走している。母親は、夫が口うるさいので子どもが神経質になっていると言ったが、相手役はどうやら母親のようである。
<Planning>(以下<P>)
きょうだい競合を知りたいので、次回は「家族布置」を聴取する。
<Supervisor's Comments>(以下<SVC>)
・躓いているのはどのタスクか?仕事のタスクではないか。それなら、運動能力を高める方向でカウンセリングモデルで行なう。(A氏)
・交友タスクではないか。それなら、友だち作りのスキルを学んでもらう方向で、カウンセリングモデルで進める。(B氏)
【2回目】(前回の4日後)
#1 乳児期の病気
春休みに病院の先生から、「赤ん坊のとき自家中毒だったので、それで神経質になっているのではないか」と言われた。先生、そんなことってあるんですか?
<君はどう思う?>
そんなことはないと思います。
<それで何か困ったという記憶は?>
まったくありません。
<なら、関係ないと思ってもいいのでは?>
はい。
<何か、症状があるんで、助かっているというようなことは?>
(<A>これは愚問。時期早尚で見事に治療抵抗に遭った。)
・・・・・・・・(長い沈黙)・・・・・・・・
<ごめん。話したくないことは話さなくていいです。きょうだいのことなら話してもらえる?>
#2 誕生順位ときょうだいの特徴
自分(16歳)、妹(-2)、弟(-4)。
<妹は、子どもの頃どんな人だった?>
覚えていない。……よくしゃべる。父に叱られたら、言い返す。よくあんなに言えると思う。うらやましい。
<弟は?>
よくしゃべる。よく言い返す。母に口先でうまいことを言っては何か買ってもらう。自分は、貯めた小遣いで買うのに。
<君は親をあまりあてにしないで、自分の力でやるほう?>
(にっこり)はい。
#3 きょうだい競合
成績、外見、話がうまい、しっかりしている、人の悪口を言う、反抗的などで、弟がトップ。
運動能力、友だちが多い、明るい、積極的、努力家、きっちりしている、意志が強いなどで、妹がトップ。
手先が器用、引っ込み思案、従順、まじめ、慎重、神経質、堅実などは、自分がトップ。
小学校の体育の成績は、1妹~2弟~3自分の順。
<競争したのはどんなことで?>
①運動能力。
②ファミコンゲーム。
旅をするとき、自分は、傷を癒す魔法使いを大勢連れて出る。弟は、魔法で相手そのものを攻撃しようとする。味方の安否は考えない。
#4 ウエイトトレーニング同好会の勧め
体を鍛えたいという希望に応えて、筆者が顧問をする「ウエイトトレーニング同好会」への入会を勧めたら、快諾した。
<O>
時間どおりに入室。目が澄んできて、前回ほど顔色も悪くない。授業のとき、教室で様子を見たら、ずいぶん存在がはっきりしてきた。
<A>
・クライエント自らが乳児期の病気の話をしたのは、原因探しをすることで、今の自分の責任を免れるためか。
・今回は、前半で強い抵抗に遭った。これは強烈な解釈投与をこの段階で行ったため。
・運動能力について語るときは、積極的になった。父親が警察官であることも考慮して、この家の家族価値として、運動能力が優れていることをあげてもよいと考えられる。
・競合相手は主に弟である。
<P>
親子関係の様子を聞く。
<SVC>
・性急に進みすぎである。もっと、ラポールづくりに努めること。(A氏)
・今の状態でクライエントを勇気づけできることを探すこと。例えば、学校へ来ていること、ウエイト同好会に入ったことなど。
粘液対策を話題にする。生理用品、洗浄器などのPRもする。繊維の多い食事に改善することも。
スクールカウンセラーの役割は、ケースワークをすること。つまり、カウンセラーが解決に乗り出すのではなく、すでに動いている社会資源につなぐこと。この場合は、ウエイト同好会への入会がそれにあたる。
学校で、カウンセラー自らがカウンセリングをすることの害は、まず、クライエントとカウンセラーが校内で孤立して、被害者同盟ができる。さらに、カウンセラーは結局、学校側の代弁者とならざるをえないので、結果的にクライエントを圧迫することになりかねない。(野田先生)
【3回目】(前回の8日後)
<S>
#1 トレーニングプラン
おとといジムへ行った。靴を忘れたので、40分ほどやって帰った。脚に意外なほどパワーがあることがわかった。明日からできれば毎日通いたい。
<毎日やれば、3か月もすると見違えるようになるよ。ただ、同じことを繰り返すよりも、きちんとプログラムを組んでローテーションしていくほうが、より効果的です。何かわからないことは?>
大腿の裏側の筋肉が固くならない。どうしたらいいですか?
<レッグ・カールという種目があるので、明日ジムで直接教えてあげましょう。
#2 粘液対策
夏に医者から、「肛門の粘液は出るのが当たり前で、出ないと大便が詰まってしまう」と言われた。自分の粘液は無色透明だから、パンツにシミなんか残らない。気になるときはティッシュを詰めている。一度、紙が硬すぎて肛門が切れたことがあった(笑い)。人によっては、ズボンが濡れるほど多く出るそうだが、自分のはせいぜいパンツまで。前は、授業中我慢できなくて、トイレへ行かせてもらっていたが、今は次の休憩まで待てるようになった。運動していると出ない。特に水泳をしているときはまったく出ない。
<今日は、体育祭の準備がこれからあるので、時間が少ししかないけど、何か話しておきたいことがあればどうぞ。>
またファミコンの話ですが、弟や妹は兵隊8人全部使うが、自分は意のままに使いこなせる2人を有効に使う。攻め方も弟はメッタ打ちにするが、自分はまず守りを固めて、自分の体力をチラチラ見せて、敵をおびき出して、引っかかったとき叩く。以前は、弟に負けてバカにされた。その晩は、夜中にひとりで練習した。近頃勝てるようになった。自分が勝つと、弟は怒って出ていく。弟は、ものの言い方が父にそっくりで恐かった。子どもの頃は2人とも父そっくりの顔をしていた。今はかなり違う。いつ頃からか、何事でも優れているように思えたが、今はかなり追いついたように思う。
プラモデルの作り方も違う。弟は、マニュアルどおりにしか作らず、仕上がりも雑。手に糊や塗料が付くと嫌がる。自分は、マニュアルも見るけど、いろいろ工夫して、他から部品を持ってきたりして、独創的なものを作ります。仕上がりも丁寧で、その代わり手はいつも塗料で汚れていました。本でも、一度読むとそれっきり。自分は、同じ本でも何度も読む。
<今日はたくさん話してくれてありがとう。さっきのゲームはなんて言うの?>
ストリートファイターⅡです。
<O>
ためらいながら話すことがなくなった。顔色がとても良い。催促しなくても自分からどんどん話してくれる。それも嬉しそうに。
<A>
今日は体育祭の準備のため、開始が遅くなった。それでも約束どおり来室した。粘液の話をとてもフランクにするし、他の人に比べて自分のはさほど大したことはないので、何とか対処できている、と受け取れる。ゲームやプラモデルの話を生き生きと語った。ゲームやプラモデルの話から、クライエントと弟のライフスタイルの違いがよく読める。
体育祭の出場予定がなかったのを、急遽、綱引きに加えてもらったそうで、ここにも好転のあとが見られる。こうした改善の方向にあることを、クライエントに伝えるのは勇気づけになるだろうか?
ラポールと勇気づけに専念していると、クライエントのほうから熱心に語ってくれることがよくわかった。
<P>
トレーニングプラン作りの援助をする。
<SVC>
このケースは、カウンセリングで進んでいるのか、ケースワーキングで進んでいるのか、はっきりしない。
クライエントの行為が改善の方向にあることを伝えるべきかどうかの疑問について。
ひと言言って様子を見るのもよいが、疾病利得があるかどうか、クライエントの行為との兼ね合いで判断すること。うかつに「よくなりましたね」と告げると、症状悪化を訴えてくることがあるので要注意。(野田先生)
・・・・・つづく
51 <「ここで一番の占い師は誰か」をたずねるには>
#キーフレーズ
Who is the best fortune-teller here ?
#練習
Who is the funniest person here ?
Who is the youngest person here ?
Who is the kindest person here ?
#データベース
This is the best place for fireworks. ここは花火には最高の場所。
When is the best season to eat oysters ? 牡蠣の旬はいつ?
Where is the best place in the world to live ? 住むのに世界で一番いいところはどこですか?
Kyoto is the best place in the world to live. 京都が一番です。
What is the best TV program to learn English ?
52 <「一度やってみたかった」と相手に伝えるには>
#キーフレーズ
I've always wanted to try it. 一度はやってみたかった。
#データベース
I've always wanted to try those sneakers.
ずっとあのスニーカーを履いてみたいと思っていた。
I've always wanted to learn how to make a cake.
ずっとケーキの作り方を習いたいと思っていた。
#応用
I've always wanted to work wirh Matsumoto Sensei on an English program.
I've always wanted to meet you.
I've always to wanted to study English.
53 <「ごちそうします」と伝えるには>
#キーフレーズ
It's on me. おごります。
#応用
(食事が終わりました)
Here is the bill. お勘定です。
Don't worry. It's on me.
※Itを具体的に言うこともできる。
Lunch is on me. ランチをおごります。
Let's split the bill. 割り勘にしましょう。
But don't worry. It's on me.
#データベース
The rest is on me. 残り(端数)は払います。
This time it's my treat, okay ? 今回は私のおごりです。
#フィナーレ
However, last time we came, it was my treat.
Do you want to split it ?
This time it's my treat. Next time it will be on you.
54 <中身が何かをたずねるには>
#キーフレーズ
What's inside ?
※まわりが覆ってあって中が見えないときはinside、中が見えるときはinがつく傾向がある。
(スープに入っているものをたずねるには)
What's in this soup ?
#応用
(トランクを見て)
What's inside this trunk ?
#データベース
What is in his hand ? 彼の(片方の)手の中には何があるんですか?
What's that outside ? 外にあるあれは何ですか?
What's under the desk ? 机の下に何がありますか?
What's behind the wall ? 壁の裏側に何がありますか?
What's behind the sofa ? ソファの後ろに何がありますか?
55 <「今までで一番おいしい飲茶だった」と伝えるには>
#キーフレーズ
That was the best yum cha I've ever had.
(人生最高の飲茶だった)
#応用
Last year I went to a sushi restaurant in Nakameguro.
That was the best sushi I've ever had.
#データベース
It is one of the best videos I have ever seen.
今まで見てきた中で最高のビデオのひとつです。
It's the worst baseball weather. 野球には最悪の天気だ。
#フィナーレ
You are the prettiest lady I've ever met.
You are the most handsome guy I've ever met.
You are the best teacher I've ever met.
勇気づけの威力(野田俊作)
・・・シミュレーション夫婦カウンセリング
92年9/11の事例検討会。
夫婦カウンセリングのシミュレーションをしました。夫役は岡山の大森浩さん、妻役は宮野栄ちゃん、カウンセラー役はシガリちゃん(田中貴子さん)です。私(野田)はカウンセラーの背後霊になって入れ知恵をしています。
C01:どちらからでもいいんですけれど、何かご夫婦でお話し合いしたいことを言っていただけますか?
妻02:夫婦で話し合いたいってんじゃないんですけどね、この人ね、マザコンなんです。それでね、自分の母親ばっかりベッタリでね、こんなことで夫婦やっていけるのかな、って思って。
夫03:そんな話だったら、私は帰る。
最初から荒れ模様。そこで、最初のカウンセラーの発言を工夫します。
C01:今日はよりよい夫婦関係を築いてゆこうということでお見えになったんですね。でも、お2人でおいでになるって、とても勇気のいることだったと思います。どうもありがとうございます。あるいは少しハードなお話しになるかもしれないんですが、できるだけ建設的になるように私も協力してゆきたいと思いますので、お2人も冷静ないい話し合いになるようにご協力ください。で、どんなお話しでしょうか?
妻02:(夫に)いいですか、私から言っても?
夫03:私に聞くなんて、なんか、家と全然違うじゃないか。
夫婦カウンセリングというのがどういうものかを、カウンセラーが定義してあげないと、クライエントは「不満を言い合う場」だと思い込んでしまいます。夫婦カウンセリングとは、「より良い夫婦コミュニケーションを考えるための、冷静で建設的な、研究と実験の場」なのです。最初にそう定義しておけば、そうなります。これは夫婦カウンセリングに限らず、どのようなカウンセリングの場合でも必要な手続きです。こうしないと、カウンセリングを「グチを聞いてもらうこと」だと誤解してしまう人が多いのです。
C04:ご主人は、奥さんにこんなふうにふるまっていただくと嬉しいということなんでしょうか?
夫05:なんか新婚時代みたいですね。
C06:ということは、こういう芽を伸ばしてゆけば、お2人はまた新婚当時のような関係になってゆけるということですね。
妻07:そうなれたらと思って来たんです。
夫08:僕はもう駄目かと思っていて、ここで白黒決着つけてスパッと別れられるかと思って来たんです。
C09:今の奥さんを見て、気が変わられましたか?
夫10:まあ…。
ここでは、カウンセラーは、夫婦の建設的な芽を見つけて勇気づけています。そうして、これからの話し合いの方向性をより強く定義しようとしているわけです。しかし、最後のC09がちょっと消極的で、夫があまり乗り気にならなかったので、やり直し。
C09:でも気が変わられて、ご主人は仲良くしていく方向で最大限の努力をしてゆく気になられたわけですね。
夫10:まあ、そういうことです。
C11:もちろん、奥さんは、最初から仲良くすることが目標で、そのためにはお互いにどういう努力をすればいいかを考えるためにおいでになったわけですね。
妻12:はい。
C13:これはとてもいいカウンセリングになりそうですね。
ここから本題に入ります。
C14:さて、お1人づつ、現在最も大きな問題だと考えておられることを教えていただきたいんですが。
妻15:不満は1つだけなんですけどね、自分のお母さんよりも私のことをもう少し考えてくれたらなと思うんです。
C16::奥さんはご主人からもっと愛されたいなと思ってらっしゃるわけですか?
妻17::気持ちでは愛してくれているとわかるんですけれど、もっと行動で表してくれるといいなということです。
C18:ご主人が愛してくださっていることはよくわかるのですね。
カウンセラーは故意に、提示された問題の中から、ポジティヴな部分だけを繰り返しています。これは、妻への勇気づけよりも、むしろ夫への勇気づけのためです。
C19:では、ご主人のほうが問題だと思っておられることをお聞きしたいのですが。
夫20:今のままでかまいませんがね。むしろ騒がれると、イヤになるんですよね。母親がいることは結婚する時からわかっているんですし。
C21:ということは、奥さんがもっと穏やかに話し合ってくださると嬉しいということでしょうか?
夫22:僕にということもありますが、むしろ母親にもっと穏やかに接してくれるといいんですが。
C23:奥さんのご主人への接し方には満足しておられるということですね。
ここでも同じことをしています。最初にポジティヴな芽をたくさん発見しておかないと、カウンセリングがヘビーになってしまいます。
次に、アドラー心理学のカウンセリングの原則に従って、具体的なエピソードを聞きます。
C24:さて、ここ1~2週間で、「これはイヤだ」とか「やめてほしい」とか思われた具体的な出来事があれば、教えていただけますか?
妻25:この前、2人でいっしょに7時半にご飯を食べようねと言っていたのに、この人はお母さんの所へいって話し込んでしまって、時間になっても帰ってこないんです。結局私は1人でご飯を食べなければならなかったんですね。
夫26:なんだ、そんなことを気にしていたのか。
妻27:あなたにとってはどうでもいいことでしょうね。
このままでは喧嘩になりそうです。そこで、カウンセラーの介入のデザインを考えます。
C28:(夫に)すみませんが、今奥さんがおっしゃったことを、まとめていただけますか?
夫29:どのことを言っているかはわかっていますが、でも、あんなことがこういう場にまで来て言う不満だとは思っていませんでした。
C30:奥さんとの感じ方の違いが1つわかってよかったですね。申し訳ありませんが、奥さんのおっしゃったことをまとめてみていただけますか?なんだったら、奥さんにもう一度説明していただきましょうか?
夫31:いえ、言っていることはわかります。僕といっしょにご飯を食べたいと思っていたのに、僕が母親の所へ行ってしまったので食べられなかったということです。
C32:奥さんがご主人といっしょにご飯を食べたいと願っておられることを、ちゃんと感じとっておられたんですね。
夫33:それはわかっていました。
C34:奥さん、これは嬉しいですね。
妻35:わかってくれているだけではねえ、伝わりませんからねえ。
C36:わかってないほうがいいですか?
妻37:いや、それはわかってくれているほうがいいですが。
「相手の言ったことを復唱してもらう」とか「相手が言ったことのより深い意味を当ててもらう」とかいうゲーム(“Are you saying?”)は、夫婦や親子のコミュニケーション・トレーニングの初期に使うとよいゲームです。
それと、C34は、故意に妻の感情をカウンセラーが作っています。妻は別に「嬉しい」などとは思っていないかもしれないのですが、カウンセラーが「これは嬉しいことだ」と定義すれば、多少ともそうなります。放っておくと憎しみしかないのですから、ポジティヴな感情を少しずつでもこしらえてゆかなければなりません。
C38:では、次はご主人のほうから、奥さんに「イヤなこと」や「やめてほしいこと」があれば。
夫39:私が食事の味に文句を言うのがいけないかもしれないんですが、「どうせ私はお母さんのようにはできません」と言うんです。そんなこと思ってもいないので、そう言われるとカチンとくるんです。
C40:(妻に)今のお話をまとめていただけますか?
妻41:言いたくありません。
機械的にゲームをさせて、こういう話をいきなり相手にふると、このように抵抗に遭います。そこで、妻を支えるために、次のように工夫しました。
C40:(妻に)そんな気はないのについ言ってしまわれたんですね、きっと。
妻41:そうそう、そうなんです。
C42:それはそれとして、ご主人が言われたことをまとめていただけますか?
妻43:この人が「ご飯の味がまずい」って言った時、私が「お母さんのようにはできませんからね」と言うのが、この人はイヤだ、ってことですね。
C44:(夫に)それでいいですか?
夫45:そのとおりです。
C46:こうして冷静にお話し合いさえすれば、本当によくわかり合えるご夫婦なんですね。
これはシミュレーションですが、実際の夫婦カウンセリングもおおむねこんな調子です。短期間で目に見えて効果が出るので、夫婦カウンセリングは大好きです。いろいろの技法があるのですが、今回は、導入部での勇気づけの役割の話だけにして、あとはまた機会があれば。
完
老子第37章
道の常に無為にして、而も為さざるは無し。侯王(こうおう)、若(も)し能(よ)く之を守れば、万物、将に自(おのずか)ら化せんとす。化して欲作(おこ)らば、吾れ将にこれを鎮むるに無名の樸(ぼく)を以てせんとす。無名の樸は、夫れ亦た将に無欲ならんとす。欲っせずして以って静なれば、天下将に自ら定まらんとす。
道の本来的な在り方は、人間のような作為がなく、無為でありながら、しかも為さぬということがない。もしも支配者がこの無為の道を守っていけるならば、万物はおのずからその徳に化せられるであろう。もしも万物がその徳に化せられながら、なお欲情を起こすとすれば、私はそれを「無名の樸」─荒木のように名を持たぬ無為の道によって鎮めよう。荒木のように名を持たぬ無為の道であれば、さても万物は無欲に帰するであろう。万物が無欲に帰して心静かであるならば、天下はおのずからにして治まるであろう。
※浩→「上篇・道経」最後の章です。第32章とも共通するところが多いですが、「無為にして為さざるはなし」と、後世、老子哲学のキャッチフレーズのように用いられたこの言葉は、ここに初めて登場しています。
「無為にして為さざるはなし」という言葉はまず、天地大自然の営みを説明する言葉でした。天地自然の造化の営みは、人間のように特定の目的意識や打算的意図を持って何かをしてやろうと力んだり騒いだりするのではない。雲はただ漂うべくして大空を無心に漂い、風はただそよぐべくして野末に無心にそよぎ、水はただ流れるべくして地上を無心に流れていく。何のためにと問うてみたところで雲は答えず、何の意味かと問うてみたところで風や水は何も語らない。それらの現象は人間を喜ばせるためにあるのでも悲しませるためにあるのでもなく、人間がただ己れの感情を移入して、勝手に喜び悲しんでいるに過ぎない。このことは野を駆ける獣、地にうごめく虫を考えてみるとき一層はっきりするでしょう。獣が何も人間に食われるためにこの世に生まれてきたのではなく、虫は何もこの世を価値ありと見て生きているわけでもない。彼らはただ生まれてきたから生きているだけであり、死が訪れれば、ただ死んでいくだけである。天地大自然の造化の営みは、ただあるがままであり、ただおのずからにしてそうである。しかもそこれは万象は一瞬といえども停止せず、刻々に新しい様相が展開され、絶えず創造的な神秘が繰り広げられていく。老子はこのような天地大自然の造化の営みを「無為にして為さざる無きもの」と理解します。
また老子は、その無為を「道」─天地大自然の造化の営みの根源にあるもの─に目ざめを持つ人間の在り方として説明します。人間はいろいろな知恵を働かせ、さまざまな理屈をこねて、人類の意志を理想化し、社会の在り方を規範づけます。難しい言語概念をでっちあげて、複雑な技術技巧を考え出し、輝かしい文明を築き上げ、華やかな文化を作り上げます。しかしそれによって、人間がはたしてどれほど幸福になったのでしょうか。あるいはまた人間の生がそのためにどれほどの安らかな充溢を得たのでしょうか。そこに見られるものは虚しい観念の洪水と浅薄な文化の氾濫、安直な文明の怠惰だけではないのか。もしくはまた、人間の清新を白痴化する度外れの多忙と騒々しい雑踏、人間の肉体をミイラ化する蒼白い博識と不毛な饒舌だけではないのか。老子はこれらをすべて生命の衰弱現象と理解し、それを道に目ざめを持たぬがための、“知に驕る無知”として批判します。それで彼は人間が道に目ざめを持って、己れの本来的な在り方に帰れと警告します。本体的な在り方に帰るためには、人間の作為的な営みがすべて一度否定されなければなりません。作為的な営みをすべて一度否定して、道つまり天地造化の営みの根源にあるものに、己れを虚しくして随っていくことができると教えます。そのとき人間は道と1つになり、道の無為がそのまま己れの無為になるとともに、道の為さざることなき自由さがまた、そのまま己れの為さざることなき自由さとなります。つまり、道と1つになった人間─無為の聖人は、人間的な作為を否定する無為によって道の無為と1つになり、道の無為と1つになることによって、道の無不為を己れの無不為として体現します。老子において“無為にして為さざる無し”ということは、天地造化の営みの根源にあるもの─道の在り方であるとともに、道に目ざめを持つ者─無為の聖人の在り方でもありました。
土着思想という先入観にさいなまれながら、『老子』前篇を読み終えました。後篇は「道徳経」の「徳の部」になって、無為自然の道を体得した、重心を下にした乱世を生き抜く柔軟な処世法が説かれますが、ここで一旦休憩します。
上篇完
第44課 意向を伝える表現、相手の意向をたずねる丁寧な表現
<意向を伝える表現>「~(し)ますよ」「~(する)つもりです」
#キーフレーズ
「ひとりでやりますよ」
ホンジャソ ハrレヨ
혼자서 할래요.
#公式「~(し)ますよ」「~(する)つもりです」
・動詞の語幹 + ㄹ래요/을래요 (パッチム型)
・パッチムはㄹ取って + ㄹ래요
@「する」「やる」=하다 →「しますよ」「やりますよ」=할래요
@「住む」=살다 →「住みますよ」=살래요
#比較「~するつもりです」
・-ㄹ거에요 / 을거에요 :計画や予定などについて述べる
・-ㄹ래요 / 을래요 :話し手の意向を述べる
何を召しあがりますか?
무엇을 드실래요?
カルビを食べます(食べるつもりです)。
カルビルr モグrレヨ
갈비를 먹을래요.
#練習
「この本を読むつもりです」
イ チェ’グr イルグrレヨ
이 책을 읽을래요.
「サムゲタンを作るつもりです」
サムゲタ’ンウr マンドゥrレヨ
삼계탕을 만들래요.
<相手の意向をたずねる丁寧な表現>
#キーフレーズ
「明日来てくださいますか?」
ネイr ワ ジュシrレヨ?
내일 와 주실래요?
#公式「~なさいますか?」「お~になりますか?」
・動詞の語幹 + 실래요/으실래요 (パッチム型)
・パッチムㄹは取って + 실래요
@来てくれる=와주다 →来てくださいますか?=와주실래요?
#練習
「この本をお読みになりますか?」
イ チェ’グr イrグシrレヨ?
이 책을 읽으실래요?
「一緒にサムゲタンをお作りになりますか?」
カッチ サムゲタ’ンウr マンドゥシrレヨ?
같이 삼계탕을 만드실래요?
<ワンポイント> 漢字語
@준비 チュンビ=準備
※日本語と同じ漢字を使うもの;
@計算=계산 ケサン、 約束=약속 ヤkソk、 無理=우리 ムリ
※日本語と異なる字を使うもの;
@勉強=공부 コンブ(←工夫)
@切手=우표 ウピョ’(←郵票)
<エクササイズ>
1,カフェで待ちます。
カ’ペ’エソ キダリrレヨ
카페에서 기다릴래요.
2,宿題をしたあと遊ぶつもりです。
スクチェルr ハン フエ ノrレヨ
숙제를 한 후에 놀래요.
3,ここにお座りになりますか?
ヨギエ アンジュシrレヨ?
여기에 앉으실래요?
<ひとこと>
よかった=다행이다 タヘンイダ
(運がいい、幸いだ)
@다행 =多幸
※丁寧に「よかったですね」=다행이네요. タヘンニエヨ
<発音>
@성격 [성껵] ソンッキョ =性格
@물가 [물까]ムrッカ =物価
@여권 [여꿘]ヨックォン=旅券
<フィナーレ>
「召しあがりますか?
トゥシrレヨ?
드실래요?
「これを食べます」
イゴr モグrレヨ
이걸 먹을래요.
「トモさん召しあがりますか?」
トモッシ トゥシrレヨ?
도모 씨 드실래요?
「これを食べます」
이걸 먹을래요.