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何故、離れるのか
何故、一緒に眠らないのか
私の魂よ
何故、君だけが自由で
何故、私だけが叫ぶ
さよならも言わないで
涙も流さずに
何処へ行ってしまうのか
こんなに求めているのに
何故、眠るのか
何故、一緒に来ないのか
私の肉体よ
何故、拒むのか
何故、黙っているのか
声も届かず、目は閉じたまま
どんな夢を見ているのか
私にも見せないで
近くにいるというのに
古城に夜が来ないまま、私が夜になり
古城は朝も知らぬまま、私が朝になる
何故、一つでいられたのか
何故、巡り会えたのか
此処でこの手を離しても
また会える時が来たなら
その時はきっと思い出そう
そして再び歩き出そう
もう一人の私と共に
さらば古城を離れ行く舟の
君こそが私にとって
かけがえのない
たった一つの
実家の本の虫干しをしなけりゃならない
気をつけなければ
死番虫のせいなのか
私たちの扱いが荒かったのか
糸綴じ本の糸が緩んで
ばらばらになってしまうことがあるから
ずっとあると思っていた
私たちの歴史の本が
離されることはないと思っていたページたちが
いとも容易く離れていくことがあるから
必要ならば破れていない部分を切り開き
これまで懸命に繋ぎ止めていた糸を切って
新しい糸で
また新たに綴じ直し
しっかり締めなければならない
残された私たちの手で
死番虫よ
私たちの紡ぐ歴史はお前と共にあるけれど
失うということを教えてくれる者だけれど
蒸し暑いこの国の夏に
お前たちは増え過ぎる
もういいだろう
お前たちが多くを貪り過ぎるから
遠くに見える木陰さえ
喪服の色に見えるのだ
ケーンと
雉はひと声鳴いて
蜜柑畑から飛び立ち
向こうの丘の藪に降りて
灰褐色の翼をたたんだ
空は丘に別れを告げるように
ずっと遠くまで青く
夏の終わりの太陽の下
無花果の樹と萱の茂みの間の
涼しい風の通り道に
立っていたのは誰だったのか
蜜柑畑で過労で倒れても
木陰で休んで何でもないと笑い
また働いた父だったのか
幼い私を見守りながら
額の汗を手甲で拭い
摘果作業をする母だったのか
電信柱の上に止まって
弁当を狙う烏に話し掛けながら
草取りをする祖母だったのか
あるいはまた
流れて行く白い雲を掴もうと
空に向かって手を伸ばす
幼い私だったのか
それから
幾つも
幾つも
幾つも年月は
過ぎて行ったけれど
ケーンと
雉はひと声鳴いて
蜜柑畑から飛び立つ
空は丘に別れを告げるように
ずっと遠くまで青く
みんなが行ってしまった国へ
白い雲が流れて行くから
私は今日もまた
涼しい風の通り道に立って
空に向かって思い切り
手を伸ばしてみる
アパートの駐車場
三輪車
ベルの音が夏空に近づく
ぼんやりとそれを聞いて
溶けゆくからだを脳みそで受けとめる
熱いのに寒いのは初めてだ
あべこべな身体で気づくのは
現実が本当のことだらけってこと
蝉が外で鳴いてたり
夏の匂いが今までしていたこと
君がそばにいたことも
脳みそが記憶の受け皿になっていて
少し壊れて
いくつかこぼれ落ちていっている
それでも平気
掛け布団を抱きしめて
もう行儀悪く寝れるんだ
身体があるってことなんだ
お久しぶりです、少し前にコロナウイルスにかかってしまいました。また陽性者が多くなっておりますのでみなさまもお気をつけください。
「雨の焼きそば屋」に感想と批評をありがとうございます。
まずご指摘されていた2つの欠陥を説明します。
五月一日祖母が亡くなった〜母から聞いたのは雨の水海道駅
つまり水海道駅に着いて、初めて祖母が亡くなったことを聞いたばかり。
葬儀の予定はこの後知らされました。葬儀云々の話になるとは。
またなぜ店を探したのかが書かれていないとの事ですが、
五月一日は日曜日〜水海道駅周辺は食事をする所を見つけるには
携帯で探すしかありません。その一軒が焼きそば屋でした。
ここには描かれていませんが、亡くなった祖母は専業主婦で、
祖父が家を建ててから、千葉を出ることはほぼありませんでした。
そのため、自分には祖父母の家で過ごした記憶しかないので、
思い出の店はありません。古い焼きそば屋を切り盛りするお婆さんが
自分の祖母の姿と重なり、また生活感溢れる店が祖父母の家とも
重なったのだと思います。炬燵に入る老夫婦の姿も含めて。
ただそこまで詩に盛り込むのはその時には考えておらず、
説明的で長くなりそうなので、余計なものを省いたかと思います。
「軒下の燕達」に感想をありがとうございます。
職場の軒下には燕の巣があり、毎年この時期になると、
燕が飛来して子育てに忙しい毎日を送っています。
その度に詩を書いています。燕を見るたびに家族を思いながら。
短い恋をした
蝉の寿命よりは長く
夏が終わる前に消えた
暑さがみせた幻影だったのかもしれない
それは恋と呼ぶには
現実的で生々しく
体に絡みついて離れないのに
突然のゲリラ豪雨にさらされて
呆気なく
流れていった
私は立ち尽くす
傘もなく濡れたまま
やがて雨はやみ
雲間から日がさしてきた
けれど濡れた頬にはまだ
雨粒は残ったまま
「システムエラーです
致命的なエラーです」
突然出たメッセージ
Excel が動かない
そんなことがたまにある
そんなときいつも思う
コンピュータって
ほんとに機械なのかな
もちろん機械に決まっているけれど
何と言うのか
多分に人間的であるような
だってこのファイル
昨日は普通に開けたし
データが壊れるような
無茶な操作はしてないし
つまり動かないわけがないのだ
なのに動かないわけってもしや
パソコンの単なる気まぐれだったりして
今日は機嫌が悪いとか
何かやる気が出ないとか
データ、データ、データ
今や何でもデータの時代
ペーパーレスはいいことだけれど
データなんて電子レベルの
目にも見えない
手にも取れない
霞(かすみ)みたいな代物に
すべてを託していいのだろうか
だいじょうぶかな
このバーチャルな霞のお城
考えたら脳もそう
僕の思考(CPU)
僕の記憶(メモリ)
僕の思い出(ストレージ)
この不確かで
あやふやなモノたちよ
今にも消えてなくなりそうな
数ミクロンの細胞(ニューロン)たちよ
出るだろうか
このパーソナルなコンピュータにも
いつかあれが
いや
もう出てる?
「システムエラーです
致命的なエラーです」
真夏の陽射し
真昼の熱歩道
年々つらくなる
外回り
木陰を見つけ
寄りかかる
青い葉脈が
光を遮る
全力の鳴き声が
全身に沁み響く
立ち止まると
汗が噴き出る
夏空に
たゆたう夏雲
命懸けで鳴く蝉
命懸けで働く俺
命が輝き
命が霞む
目を閉じて
水筒の麦茶を飲む
水を飲むなと叱られた
夏合宿は遠い昔の記憶
蹴って走った仲間も
同じ空を眺めているのだろうか
僕は下手くそな透明人間。
人混みをすり抜けて歩いてる。
上手く足を出せなくて転んだりして。
……でも誰にも見られてないし。
顔が赤くなったって知る人はいない。
生まれてこの方ずっと僕はこう。
泥水を浴びたりしたって濡れるだけ。
……でも誰にも知られてないし、
呟く独り言だって空気だけが聞いてる。
綺麗なタンポポが道端に咲いていた。
摘んで眺めてみる。
黄色い花びらがとってもおキレイ。
ふわふわ浮いてるタンポポなんて見間違い。
……気にする人なんていやしないし、
世界の片隅に僕ひとり。
天気予報通りの雨が降り。
傘を忘れてタンポポ片手に僕は小走り。
『雨に唄えば』の真似なんかしちゃったり、
楽しくなってステップしたり。
……たららん、らったんたん、たんたん。
たらんらんらん……。
誰かの傘が僕の花を吹き飛ばす。
あ、なんて声は雨音に消えてった。
拾ってみたって元には戻らない。
……なんでだろう、心が痛い。
通り過ぎてく傘の群れ。
……どうしてかな、胸が締め付けられる。
透明人間が流す涙は誰にも見えない。
散った黄色の花びらに落ちるのは、
雨粒だけじゃないってこと。
知ってるのはこの僕ひとり。
ごめんね、ごめんね。
摘んだのが僕じゃなければ、だったね。
今更遅いね。