Q
学習障害児について教えてください。
A
あのね、僕はこういう病名づけは嫌いなんです。この前、あるお母さんが僕(野田)のところへ来て、そのお母さんの一人息子さんが、大学の保健室で統合失調症ではないかと言われたんです。すごく心配されて、「あの子は統合失調症でしょうか、どうでしょうか?」と聞かれる。僕は本人と会ったこともないんでわかるわけないんですが、まずこのおばさんはいかんと思う。そんなのはどうでもいいじゃないですか。僕は20年近くも精神科医をやっていますが、いまだかつて1人の統合失調症者にも会ったことがなければ、1人の神経症患者にも会ったことがないし、1人の非行少年にも会ったことがない。会ったことがあるのは、あの患者さん、この患者さん、この人、あの人であって、統合失調症者という人が「こんにちは」と言って来たことは1回もない。
自分の息子とどうつきあうかが問題なのであって、統合失調症者とどうつきあうかが問題ではないんです。統合失調症だからとか統合失調症でないからといって、つきあい方が変わるんだったら、その人は自分の息子とつきあってないんです。そういう人は、もしも今、会社の部長さんと結婚していたとして、会社がつぶれたりクビになったりして、ご主人が部長さんをやめたとたんに離婚したりするんです。その人はご主人と結婚してたのでなく、部長さんと結婚していたんだ。
それは良くないでしょう。あの男と結婚しているのであって、どっかの会社の部長さんと結婚しているわけではないですね。この子どもと一緒に暮らしているのであって、学習障害児と暮らしているわけではないですね。学習障害児であろうが、知恵遅れであろうか、統合失調症であろうが、不登校児であろうが、何も関係ない。この子と一緒にどう暮らすかだけが問題です。
「これは何病か?」と気にするのは医者だけです。なんで気にするかというと、保険の請求をしなければいけないからです。病名をつけておかかないと、保険がおりないんですよ。まぁお薬のことはありますがね。僕は薬を出さない精神科医なので、全然気にしない。
「えっ!学習障害児、えらいことや」と、学習障害児の本を読みあさろうというのは、やめたほうがいい。もうやられていると思うけど(笑)。
本なんか読んだって、勇気づけてくれる本なんて滅多にないです。僕が精神科医になったころ、大学の教授と雑談しているときに、「君はどんなことしたいか」って聞くから、「本を書きたいです」って答えた。専門が不登校とか非行だからそんな本を書いてみたかったんです。「それはいいことだけども、それは親たちが読むんだから、読んだ親たちが安心するような本を書けよ」って言われた。それからずっとそのことは心がけているんです。でも、たいていのお医者さんたちは、そんなことは心がけていない。ますます親を不安にさせ、パニックに陥れるような本を書いている。新聞もそうです。あんなもの読まないほうがどれだけいいか。知識があるということは、時に助けにならない。それよりも、「何も知らないけど、この子と暮らそう、この子と今日1日楽しく暮らそう。この子がこの子でいられるようにしよう」と思っている親が一番いい親です。だから学習障害児のことなんて知ろうとしないで、この子と一緒に楽しく暮らそうと思ってください。(回答・野田俊作先生)
Q
授業中緊張するとお腹が痛くなったり、尿が近くなるのは、どんな心理状態なんでしょうか?
A
あのね、人の心理状態を推し量ろうなんて、とても失礼なことだと思うんです。僕は、他人に「あの人はほんとは何を考えているんだろう」って思われたくない。だから、子どもも思われたくないはずです。どうしても心配だったら、僕に聞かないで、子どもに聞いてみればいいと思う。「あなた、どんなふうに感じているの?」って聞けば、何か答えてくれるかもしれない。「別に」と言えば、別にないんです。
不思議ですね。みんな、「こんなときにはどうしたらいいんでしょうか、うちの子は高校に行けばいいんでしょうか、専門学校に行けばいいんでしょうか?」と聞く。なんで私に聞くんでしょうか。子どもに聞けばいいと思うんです。
子どもが何かしているときに、こっちが突然手伝うと、子どもはイヤがるんです。ちゃんと「手伝っていいですか?」って聞いてからでないとイヤがる。僕は、子どもに何かお説教したくなったり、助言したくなったら、最初に聞くんです。「ちょっと、言いたいことがありますが、聞きますか?」。すると、99パーセント、「いいえ、聞きたくありません」って言われる。
どんなときでも、「私の言うことを聞いてみますか?」とか「お手伝いできることはありますか?」とか「してほしいことがあったら、いつでも言ってくださいね」って言っておきたいんです。何も言ってこないんだったら、何もしないんです。
だからこの子にも、そう聞いてあげてほしい。「何かお母さんにできることある?」って。何も言わないんだったら何もないんです。人間には、黙っている権利がありますから。でも、黙っている権利を主張しますと、責任が伴う。どんな権利でも責任が伴うんですが、黙っている権利を主張して伴う責任は、誤解されてもいいという責任です。黙っていると、人に誤解されるでしょう。それでもかまいませんという責任を取るなら、黙っていてもいい。黙っているのに、わかってほしいというのは、厚かましい。子どもが黙っているということは、こっちが勝手に誤解してもいいわけです。そのことを子どもに学んでもらいたい。だから、黙っているなら、放っておこう。(回答・野田俊作先生)
Q
子どもは現在、中1の男子です。昨年ごろから反抗期に入り、金額の無理な物をねだって困ります。たとえ無理して物を買ってやっても、ますますエスカレートしていくのではないかと心配です。
A
まず、反抗期になったというのは間違いですね。反抗期なんてないんです。自分を主張する「自己主張期」というのはありますが、「反抗期」というのはない。自分を主張することを反抗だととらえている親がいるだけですね。
それから物をねだるということですが、わが家もいろんなことを実験したんです。まず、家計を全部公開しました。家のお金で、生活費とか貯金とかを差し引くと、みんなが自由に使えるお金というのが出ますね。それをある場所に置いておきまして、そこに出金伝票も置きました。誰が出してもいいんです。「何月何日、誰それ、いくら」と書いておけばいい。ただ、もともと10万円あったら、持っていく分だけ引き算して記入しておかないといけない。子どもは一番下の子が小学校2年生くらいのときでした。子どもたちは喜びましてね、千円でも1万円でも持ち出し放題ですから。
3日目に子どもたちが3人で来まして、「お父さん、お母さん、お願いだからあれはやめてください。前みたいにお小遣いをください」と言うんです。「どうして?」って聞くと、「おうちのお金がどんどん減っていくのを見るのはイヤだ」と言うんです。
で、お宅の子はこの感覚がないんでしょうかね。つまり親がお金を全部管理していて、家にだいたいどれくらい自由にできるお金があるのか、自分の使うお金が家計の中でどういう意味があるのか、何にも自覚していないんです。こういう育て方はしないほうがいいですね。
だから全部公開しちゃえばいい。「わが家は、月間これくらい使えます。それで、あなた方がこれだけ使ったら、これくらい減って、食費にこれだけ食い込む。だから今晩は、ご飯に醤油をかけて食べましょうね」って。
それから、こんなふうに無理な要求をして、親からお金を引き出すことでしか、親が私を愛していることを確かめられないんだと思います。お話をしたり、一緒に遊んだり、悩みを聞いてあげたり、楽しいことを一緒にやったりとか、そんなことでもって親とはつきあえないだろう。親は基本的に自分(子ども)のことをあまり好きではないんだろう。だから親はどれくらい自分(子ども)のことを好きなのか確かめてやろうと思って、お金をねだる。それでお金をくれたら、「やっぱり見捨ててはいないんだ」と思う。これが彼の目的です。
こういう子への僕のお勧めメニューは、「機嫌良くお金をあげなさい」ということです。「えっ10万円?ハイハイ10万円ね、ハイどうぞ」。「こんなことしたら、子どもはどんどんエスカレートします」って言われるかもしれません。では、今までエスカレートしてなかったんでしょうか?してるんですよ。今までのやり方でエスカレートしてきたんだったら、今までのやり方を続ける限り、まだまだエスカレートしていきますよ。
では、今までと全然違うやり方を、とにかくやってみる価値はあります。今までと全然違うやり方として、まず考えられることは、機嫌良く与えることです。子どもはお金が欲しいのではなく、親が自分の言うことを聞くかどうかを確かめたいんです。だいたい子どものことを反抗期だと思うような親だから、かなり親のほうに要求があって、この子をこう改造したいとか、ああしたいとかと思っているに違いなくて、そのあたりのことを子どもはきっとイヤがっている。それで親を屈服させようとしているんだから、あっさり屈服してしまえばいい。そしたら、そのように、いらないところでエネルギーを使わないで、本当に大事な話が始められると思うんです。
「貯金通帳を丸ごとよこせ」と言った家庭内暴力児がいました。で、そのお父さんが僕のところへ来て、「困った困った」と言うから、「全部あげたらいいですよ、ハンコごと。何でしたら家の権利書も付けてあげればいい。株券も付けましょうか。とにかく全部あげたらいい」って言ったの。そのとおりしたら、今度は子どもが困った。そんなものですよ。ケチをしてはいけない。(回答・野田俊作先生)
Q
子どもは中学1年生の男子です。今は、「自転車が欲しい欲しい」と毎日のように言っています。今ある自転車は、まだ十分乗ることができます。次々に欲しいものが多くてとても困ります。
A
これもね、似たようなことがわが家でもありました。うちでは、ルールを作りました。
家族全員で会議を開きました。議長は息子か娘がやります。親が議長をしますと、会議を議長独断で進めてしまいますので、公平な立場の人にやってもらったほうがいいです。結局いろんな話し合いの中から、ルールが3つ決まりました。
3つのルールというのは、1番目に暴力をふるわないということなんです。これは「但し書き」があって、言葉の暴力も暴力なんです。恐い声を出してはいけない。これは困りましたねえ。「こら!」って言うとダメなんです。「お父さん、ルールの1番目を言えますか?」「ハイ、暴力をふるわないです。恐い声も出してはいけないです。すみませんでした」って言わなければいけないので、親は一切恐い声で子どもを叱れなくなりました。
ルールというのは親も縛られないとダメなんです。親が縛られないで、子どもだけ縛るようなルールは、絶対に守られない。
2番目がこの質問と関係があります。むやみに物を欲しがらないというルール。このルールはまいりました。私はむやみに物を欲しがる人なんです。毎度、息子や娘に注意されました。「お父さん、また何か買おうと思っているでしょう」「……」。親が、このことに縛られないといけない。そうすると、子どもたちも「そうか」と思う。
ついでに3番目のルールを言いますと、「嘘をつかない」というルール。これも「但し書き」があるんです。嘘をつかないというのは不可能で、人間、嘘をつきます。だから、嘘をつかないというのは、もちろん嘘はついてはいけないけど、本当のことを言わないのはかまわないんです。だから、例えば、「今日どこへ行っていたの」って聞いて、「言いたくありません」と言えばそれで終わり。“黙秘権”というのがある。私(野田)は裁判所に勤めていましたから、これは厳守していました。裁判所で、非行少年に最初に言います。「君は自分に不利になると思うことは言わなくてもいい」。刑事訴訟法にちゃんと書いてありますから。日本の国の法律が保障しているものを、家の中で保障されていないのはおかしいですから、家の中でも黙秘権を保障したんです。誰もひと言も嘘を言わなくなりました。その代わり、黙秘権がさかんに飛び交いましたけど。嘘をつかない子どもになりました。おかげさまで。
この子が自転車を欲しい欲しいと言うのは、まず親が「欲しい欲しい」と言ってないか、ちょっと反省してほしい。それから、もしどうしても欲しいんだったら、それを稼ぐ方法を作ってあげることだと思います。かなり正当な賃金で、1時間350円から450円くらいの間で、家事労働等をしてもらうのもいい。あるいは借用書を作って返済条件もちゃんと書いて、お金を貸す。据え置き何か月以内とか、利子は何パーセントで返すとか、これも社会のルールを教えることになると思います。利子も決めたからにはきっちりと取る。わが家では5パーセントで、小遣い天引きです。向こうも小遣いがどんどん減るわけだから、どれくらい借金したらいいか考えますよ。
つまり、「世の中だったらこんなときどうするかな」って考えたら、働いて稼ぐか、サラ金に行くとか、どちらかでしょう。どっちでもOKよ。どっちにせよ、あとできっちりと責任を取ってもらえばいい。
私の親父がこの主義で、私は大学の学費と、生活費を返すのにえらく苦労しました。大学に入ったとたんに、「お前はもう18歳で民法上は成人だから、養う義務はなくなった。学費も生活費も全部貸してやるから、あとで返せ」って言うの。それで証文を入れさせられて、利子が付いて、かなり高くつきました。でも、いい教育だったと思います。
親父は、「受験勉強をしなかったら大学に入れないというのは良くない。全然勉強しないで、学校で聞いたことだけで入れる大学へ行かないといけない。うちでわざわざ勉強して行ったって、あとでロクな者にならない」と言うんです。お茶の間はテレビがついていてね、その上、しょっちゅういろんなことを言うんです。話しかけてもくるし、やれ「タバコ買ってこい」だの、「風呂の水を止めてこい」だのね。そりゃ行きますよ。行かないとうるさいからね。でもそれは良かったです。そうやって邪魔され続けて勉強しますと、今すごいですよ。あらゆる雑用の中で、自分のしたいことをパッとやる才能が身についたから(“散漫力”です)。他のことをやりながら、人の話に耳を傾ける才能が身についたからね。あれが、一点集中でやっちゃダメなんです。そうすると、時間の使い方がとても下手になります。(回答・野田俊作先生)
Q
子どもは中学1年生の男子です。新聞配達をしていて、これは休まずに行っていますが、学校で少し遅刻があって、ふた月に1回くらい「お腹が痛い」と言って休むことがあります。今後新聞配達を続けさせるかどうかも含めて、どのように接していけばいいでしょうか?
A
子どもが学校を休んだら、親は何が困るでしょうか?子どもが学校に遅刻しようが休もうが、何であれ、それは子どもが自力で解決すべき問題であって、われわれが頼まれもしないのに、口を出してはいけない。
この息子さんに、「お母さん、僕、遅刻するんだけど、どうしたらいいだろうか?」と聞かれれば、「何々したらどう?」とアドバイスもできるけど、聞かれないのに言わない。あるいは、「新聞配達を続けようか、やめようか?」と相談されたら、「お母さんはこう考えます」と言えるけど、聞かれないのに言えないし、言う権利がない。
それから、「お腹が痛い」と言って休むというのは気の毒ですね。うち(野田家)の子が1回、「お腹が痛いから、今日学校休みたい」と言ったことがあるんです。これでも私は医者ですから、ほんとにお腹が痛いかどうかくらいわかることはわかります。それでこう言ったんです。「うちでは、お腹が痛くなくても、頭が痛くなくても、熱が出てなくても、『今日は学校休みまーす』と明るく言っても、学校を休んでいいんだよ」。すると次からは、「今日は学校を休みまーす」と明るく言って休んでくれました。どうせ行かないんだったら、「暗く行かない」か、「明るく行かない」か、どっちがいいか。
で、このおうちは、明るく休めない家なんですね。だから、子どもにそれは教えておいたほうがいい。「うちでは別にお腹痛くなくても、明るく元気に、今日は行かなーいって言ってかまわないよ」と。そしたら、きっとそうなるでしょう。そのほうがいいです。1日を有効に使えて。だって「お腹痛い」と言って休んだ以上は、数時間は痛いふりをしなくてはいけないですからね。つまんないですよ。(回答・野田俊作先生)