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今年も一年が終わろうとしております。
皆さんは、良い一年だったでしょうか?
良いことが全然なかった人も、
「無事、これ名馬」という言葉がありますので、健康で長く走れたなら、それで良しと致しましょう。
最後に、今年亡くなられた植村秋江さんを偲んで、「だし巻き」という詩を添付します。
たった19行で人生をうたった、見事な詩です。
(背景で、最初、親子4人で暮らしていた生活が、娘たちが巣立って、夫婦2人の生活となり、その後、夫が先立って、1人の生活となる様子が、人生の年月として、展開されていきます)
亡くなられたあと、娘さんたちの手で追悼の詩誌が作られ、それが私の元にも届きました。その中にあった詩です。
お会いしたことは一度もなかったのですが、生前、私が書いた書評をとても大切にされてたのだそうで、
それで、娘さんたちからの追悼詩誌が、私の元にも届いたのでした。
ありがたいです。
今年も一年、皆さんのご投稿、本当にありがとうございました。
来年は、2つの戦争が終結する年でありますように。
どうぞ、良いお年を。
12/19〜12/21までにご投稿分の評と感想です。
ご投稿された詩は、一生懸命書かれた詩ですので私も一生懸命読ませていただいておりますが、上手に意味を読み取れなかったり疑問を書いたり頓珍漢な感想になったりする場合もございます。申し訳ございませんがそのように感じた場合には深く心に留めず、そんな読み方もあるのだとスルーしていただけると助かります。どうぞ宜しくお願いいたします。
*****
「膝を病んだシシュポス」積 緋露雪さん
積 緋露雪さんこんばんは。
とっても良かったですね。ギリシャ神話の登場人物になぞらえて、ご自身の膝がどのように病みいかに苦労しているかというのを、巌ならず米袋30キロで表現し、無事に運び終えるまでの動作がとても丁寧で細かくリアリティを持って読む事が出来ました。しかも少しユニークなんです。米袋を運ぶ時の音が「ずっずっ」から「ずっずっずう」と変化しているところ、思わずにやにやしてしまいました。膝がどんどん悲鳴をあげていく過程に鼠が出てきますね。鼠も膝の悲鳴に力を貸してしまっていて、どうしても上がり框に米袋を移動させねばならない事態を迎えてしまいます。悲鳴をあげた膝は最終的に笑ってしまう、ここ、上手いなあ、と思いました。落語の要素も入っていそうですね。そして、構成上とても良かったのが、最後にもう一度シシュポスが登場することと、実は福島産のお米を運んでいて、これまた美味だということ。この詩は、構成も流れも内容もすべて良く、日常の出来事を積 緋露雪さんの個性でもって表現しきっていること、私的には直しはひとつもありません。よって花丸でした。佳作といたします。とっても良かったです。
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「木こりのうた」喜太郎さん
喜太郎さんこんばんは。
この詩は少し不思議であり、難しいですね。まるで木こりの役割を引き継ぐかのように、青年に斧を渡す木こりがいますね。木こりの音が聞こえた者が選ばれた者であるかのように。この木こりと青年の関係性がいまいちよくわからないんです。一軒の小屋というのも意味深なメッセージのように感じるんですが、そのあとは特に何も書かれていないので、木こりの住まいを譲るという意味だったのかもしれません。この詩の雰囲気は好きでした。木こりと青年の関係性、あるいは逆に、青年の日常がもう少し詳しく書かれていたら、今よりもっと入り込めたように感じました。喜太郎さん、今回はすみませんでした。佳作2歩前といたします。また次回お待ちしていますね。
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「空が知っているかもしれない」月乃にこさん
月乃にこさんこんばんは。
考えさせられる詩ですね。よく、あの人と自分の間には見えない壁がある、などという例えがありますが、この詩は本物の壁として、あくまで「壁」について書かれていました。そこがとっても良かったと思いました。本物の壁を描くことによって、例えにある見えない壁がどのように体や心に作用するのか、抱いた感情を上手に表現できていると思いました。なるほどと思いました。
冷たい風が吹きつけます
私は誰に話しかけていますか
などの体感や質問が、とても切なくてやりきれませんね。何となくイジメ問題などが背後にあるようにも読めました。最後にタイトルにもある空が出てきますね。空というのが微妙に引っかかったのですが、これは視覚的なものなのかもしれないと、何回か読んで思いました。自分のまわりを壁が囲んでいるから見えるものは空しかない。風が吹いて雨を降らせる空を見上げて、この壁を築いた者を知っているのは空かもしれないね、と、そのように解釈いたしました。違っていたらすみません。佳作一歩前といたします。
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「透明に関する考察」理蝶さん
理蝶さんこんばんは。
とっても素敵な詩ですね。冒頭の3行、とびきりの3行でした。かっこいいですね。それから7連目「0時になっても消えないヒールを」、ここも素敵ですよね。0時になっても消えないヒールって何だろう、残業をさしているのだろうか?それとも朝までここに居てほしいとの願いなのかな?などと思いながら、どんな意味にせよ、うっとりとする表現でした。タイトルにあるように、まさに透明についての考察が書かれているのですが、この詩自体がとても透明であるように思いました。透明について考え、透明について感じる時、その人自身が透明になっているのかもしれませんね。それを証明するような詩になっていると思いました。各連の表現もそれぞれにうなるほどの良さで、読んでいるこちらも心が洗われていくような気持ちになりました。ありがとうございました。佳作といたします。
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「素敵な途中」妻咲邦香さん
妻咲邦香さんこんばんは。
最近見かけた本で、幸せでいたいなら今すぐしねばいいみたいなタイトルのものがあったのですが、そういえばこの間、私にはすごく幸せな日があって、今ならしんでもいいかなってふと思った日があったんです。幸せを感じたままいけるなあって。この詩のテーマとは違うかもしれませんが「途中でやめるのです」と書かれてあったので、生死も含まれるのではないかと思ったのです。私はこの詩、すごく好きですね。読み手によって色んな「途中」の解釈が出来るので想像が広がりますし、真理を突いているような気がしましたので哲学的でもあるように思いました。しかも途中でやめることが素敵であるというポジティブさも入っていて、広く深い内容のものになっていると思いました。限定しない書き方でとてもお上手だと思いました。佳作といたします。
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「時」エイジさん
エイジさんこんばんは。
サルバドール・ダリの絵がお好きなんですか。私は昔、ダリ展に行ったことがありました。画集もいただいたことがあって、私は記憶の固執に出てくる柔らかな時計が大好きでした。ダリの絵は不思議ですよね。そんな不思議が今回エイジさんの詩に登場しました。ファンタジックな世界に冒頭から包まれていきます。そして少し妖しさも引き連れているような気がします。幻覚あるいは幻想の中で、はるか彼方から時は巡り、過去と現在が混じり合う瞬間を、エイジさんの目の前で繰り広げたかと思うと身体をすり抜けていく。永遠をしられてしまったかのようなラストの決めゼリフ。良かったですね。もう少し、うねうねした世界が描かれていても可でしょうか。佳作といたします。
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「なくしもの1人」紫陽花さん
紫陽花さんこんばんは。
心中お察しします。似たような話をむかし聞いたことありました。高校の同級生から久しぶりに電話がきたので、会ってお茶してると宗教絡みの勧誘の話だった、と。意外とこういう事例は多いのかもしれませんね。それにしても、名前も知らないのにカードを送りつけようなんて、太々しいかたですね。それともノルマがあって追い詰められていたか?いずれにせよ、紫陽花さんをなめんなや(笑顔)
私がこの世を
嫌いにならないカードなら
送っていいよとお返事
紫陽花さんのこのお返事、私は大変気に入りました。かっこいい!ゆうかちゃんがお友達に昇格していなくて良かったです。紫陽花さんは、さらりと共感することを書いてくださって、しかも自己憐憫感がないので、いつも楽しみに読んでおります。今回はおまけ佳作といたします。
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「カレーライス」荒木章太郎さん
荒木章太郎さんこんばんは。
この詩は後半にいくほど切なさがつのっていく良い詩でした。特に3連目が良かったです。じんわりと味わいがありました。ただ、この詩は連が少し単体で存在しているような感じを受けました。せっかく良い詩なのでもったいないと思いました。タイトルが「カレーライス」なので、3連目を基準として、その中に少しずつ2連目や1連目を混ぜ合わせていく、という書き方のほうが、カレーを作りながら思考も一緒に煮込んでいく感じが出るのではないか、と感じました。良かったらご一考ください。とても良い詩でした。佳作一歩前といたします。
*****
以上、8作品のご投稿でした。
今年も沢山の作品を読ませていただき、どうもありがとうございました。
私事ですが、今年は第一詩集「影」刊行の年で、大変忙しい一年でありましたが、おかげさまでとても多くの詩人さんに詩集を読んでいただくことが出来て感無量です。
現代詩手帖、神奈川新聞、詩人会議、詩と思想、指名手配、潮流詩派など、その他の詩誌やSNSなどでも取り上げていただき、お手紙やメールなど、沢山の有難いお言葉や応援をいただきました。
そして、島さんからはMYDEARのおすすめ詩集として書評を書いていただきました。とても嬉しかったです。島さん、改めまして、その節はどうもありがとうございました。心よりお礼申し上げます。
では、皆さん、良いお年をお迎えください。
来年もどうぞ宜しくお願いいたします。
時間が宙を漂っている
余白を埋め尽くす
アール・ヌーヴォーの装飾のように
所狭しと並んで経過してゆく
空地の電話ボックスも
瞬く間に埋め尽くされた
時間という過ぎ行く装飾
現れては消え現れては消え
マンションとマンションの間の
バス通りがある空間も
時間によって占拠された
左右にうねる時間と
占拠されるバス停と
背景に行き来する自動車
時間は近くの小学校の
グラウンドにまで及んだ
グラウンドに充満する
一歩また一歩
街が埋め尽くされる
やがて時間は空へ上る
その装飾はフラクタルのよう
自己相似の幾何学模様
エジプトのヒエログリフのように
無限に描かれる帯状の装飾
その一歩は
永遠に近づく一歩
やがて宇宙を覆い尽くし
そして永遠と相似となる
私は飛び出したい
この体から
この心から
この血から
この命から
私は飛び越えたい
その柵を
その壁を
その鉄格子を
その有刺鉄線を
私は飛び立ちたい
この場所から
この町から
この世界から
この宇宙から
私は飛び込みたい
あの崖から
あの崖から
あの崖から
あの崖から・・
そしてもし
命からがら助かったなら
今よりもっと高い純度で
生きていることを感じてみたい
「まったく、やってられないったらありゃしねえ!おい、おやじさん、なんでもいいからこの店で一番強い酒、持ってきてくれ!」
「なんだい、お前さん、いきなり店に入ってくるなり穏やかじゃないね…。まぁ、座ってちょっと落ち着きな。いったい何があったんだい?」
「何があったなんてもんじゃない。ナザレのイエス様のことさ。あんたも噂くらい聞いたことがあるだろう?何を隠そう、あの方は俺の師匠だったんだ」
「そうなのかい。もちろん、イエス様のことはよーく知っているとも。なんでも十字架に架けられてしまったそうじゃないか」
「そうとも、そのイエス様のことだ。さっきエルサレムからやって来た行商人が言うには、イエス様が十字架に架けられた後、復活なさったというじゃないか。それも大勢の弟子たちの前に現れていろいろと話したり食事までなさったそうだ」
「師匠が復活なさったんなら、めでたいことじゃないか。いったいなんでまた、お前さん、そんなに腹を立てているんだい?ほい、この店で一番とびっきりのワインを持ってきてやったから、まぁ一杯やって気を落ち着けな」
「こいつはありがてえ、それじゃ一杯やらせてもらうよ。ふ――、おかげでだいぶ落ち着いた。いや、何のことはない、俺がちっとばかり自分を買いかぶっていたってことさ。そりゃ俺だってイエス様の弟子のはしくれには違いない。だが、しょせんはしがない税金集め、世間様から見りゃあ嫌われ者もいいところさ。そんな俺をイエス様は拾ってくれた。それも、ここみたいな汚い酒場でワル仲間と博打を打ってる最中に突然声をかけて『ついて来なさい』と言ってくれた。初めて師匠を見た瞬間、とてもこの世の人とは思えない尊いお姿にすっかり心を奪われて、気がついたときには俺は何もかも放り出し、師匠の後にくっついて歩き出していた。それから先、イエス様はあちこちの町や村でいろいろなことを教えて廻られたが、正直、俺の頭では何を言っているのかさっぱりわからない。それでもお側を離れなかったのは、イエス様が俺を一人の人間として扱って下さったからさ。そんなことは生まれて初めてだ。俺だけじゃない。師匠は相手が誰にせよ人を決して分け隔てしない」
「なるほど。『ここみたいな汚い』は余計だが、お前さん、よっぽど師匠に惚れ込んでいたんだな。それじゃあ、イエス様が十字架に架けられて、さぞつらかったろうよ」
「そうとも。ゴルゴタの丘の出来事の後、俺はイエス様との思い出に満ちたエルサレムにいるのが苦しくて、逃げるようにしてこの街まで辿り着いたのさ。ところがだ。イエス様は蘇って弟子たちの前に現れた、というじゃないか。それなのに、なぜ俺のところには会いに来てくれないんだ?何よりそれが一番つらい。やっぱり、俺が他の連中みたいに賢くもなく飲み込みの悪い不肖の弟子だからだろうか。しがない徴税人だからだろうか。結局最後の最後でハシゴを外された気分だ。そう思うと矢も盾もたまらず呑みたくなって、いきあたりばったりに飛び込んだのが、この店だったってわけさ」
「お前さんの言いたいことはわかる。だがな」
「『だがな』もヘチマもない。だいいち、その行商人の話によればだ、弟子の一人で俺もよく知ってるトマスは、イエス様が復活した、という噂を聞いて何て言ったと思う?『あの方に会って処刑されたときの傷口に手を触れるまでその噂を信じない』だって!そんな失礼なことを言ったやつのところにも師匠は現れたのに、何だって俺のところには…。いや、俺は噂を確かめたいわけじゃない。ただ、もういっぺん師匠に会いたい。それだけさ。あぁ、あんたには絶対にわからないだろうな。あれは会った人にしかわからない。あのお姿を拝見しているだけで、透き通った光と清々しい湧き水でこっちの心が洗われているような気がするんだ」
「言いたいことはよくわかる。だがな、噂を確かめなければ信じないような、そういう頭でっかちの弟子とは違って、お前さんみたいに、理屈じゃなくて『こころ』で信じる人間のところには、わざわざ行かなくても大丈夫、と師匠は安心しているんだよ。見ないで信じる人こそ幸せだとは思わんかい?」
「うまく言いくるめられたような気がするな…。まぁ慰めてくれてありがとさんよ。それにしても、おやじさん、さっきから思ってたんだけど、面影がなんとなくイエス様に似ているような…無精ひげが邪魔してよくわからないんだが。あれ、何で急に店の奥に引っ込んじまったんだい?いや、おやじさん待ってよ!まさか、ひょっとして???
三浦志郎様
本年は拙作をお読み下さり誠に有難うございます。
どうか良いお年をお迎えください。静間安夫
空の高さを仰ぎ見て
志の低さを思い知る
小鳥達の愛の語らいを耳にして
この世界に自分独りだけだと気付かされる
最期の1人になろうとも
無数の声に縛られ続ける
オンリーワンでは意味がないのに
ナンバーワンじゃなきゃダメなのに
世界の全てが牙を剥く
夏生様
『詩と思想』2023年ベストコレクションへの掲載おめでとうございます。雑誌購入して『柔い種』拝読したいと思います。
本当にすごいです!おめでとうございます!
霧の街 サンフランシスコ
この桑港(そうこう)と呼ばれる
異国の街から
日系二世のあなたはやって来た
父祖の地を訪う
墓参の旅
流暢な日本語
達筆すぎて読めないほど巧みな字を書く
能筆家
味噌汁は毎朝欠かさないという
ユウセン・シミズ(清水勇泉)
あなたの両親はぼくらと同族
同郷の人だ
ぼくら家族は単純に
日系人も
ともに同じ日本人だと思い込んでいた
米国で成功して財をなし
ふる里に錦を飾る「凱旋帰国」
その伝で会話していると
ぼく アメリカ人ね!
この意外な言葉に
異邦人を全く知らない鄙の一家は
みな目をパチクリとした
父が呆れたように呟いた
親戚なのに…
アメリカ人って言われてもなあ
母国は米国
郷里はサクラメント
話す言葉は英語 (たまに日本語)
海の彼方の異土に他ならない 日本
そういう口吻なのだ
六十兆の細胞からなる人の体
どこを切っても長州人の遺伝子をもつあなた
同じ長州人であるぼくは
あなたの個人史を紐解きたくて
うずうずした
パサデナに別宅を持つほどの資産家
そのあなたは
柔和な表情の裡に日系人が味わった
艱難辛苦を韜晦していた
**
まだ十代 多感な青年のあなた
第二次大戦下
米国政府の日本人収監政策で
シェラネヴァダ山脈の裾野に建てられた
強制収容所に 着の身着のまま
有無を言わせず 放り込まれた
棘だらけのサボテン
ガラガラヘビとサソリの巣窟
風強き不毛の地 マンザナ
ネイティブ・アメリカンの居留地にも劣る
曠野(あらの)のラーゲルだ
パールハーバーを忘れるな
汚い日本人
日系だけが強い敵愾心に晒され
個人資産を没収された上に
身柄の確保・収容までされた
いくら戦時下とはいえ
これが自由を謳う国のすることかと
業腹だった
収容所内の日系人社会では
市民権を簒奪されているにも拘らず
米国市民たらんとする者
天皇を奉じて
故国日本に殉じたいと願う者
それらグループに分かれての葛藤があった
そんな中
イエロージャップ!と蔑まれながらも
国のため多くの日系二世が手をあげ
米軍兵士として
収容所から欧州戦線に出征した
ナチスとの戦いに
米国人としての自己同一性を
再確認して
日系人の名誉回復の活路を見い出す
捨て身の選択だった
米国と日本
二つの国に対するアイデンティティを
あなたを始め多くの日系人は
如何に止揚し
内包する日本人の血を克己したのだろうか
戦争が触媒となったことは
想像に難くない
出征する若者たちを乗せたバスを
収容所のゲートから見送ったあなた
不安いっぱいに 兄や友を
銃弾飛び交う地獄の一丁目へ送り出した
連合国軍中 精強で鳴るグルカ兵と
並び称された
鬼の日系人部隊 米陸軍第442連隊
米軍で最も多くの勲しをたてた部隊だが
勇敢ゆえに
数多の仲間が深手を負い
戦場に屍を曝した
442連隊のイタリア山岳での戦闘で
最愛の兄を失い
その非情な現実に打ちひしがれた
あなた
大黒柱の兄に代わり
家族の暮らしを
支えて行かねばならなかった
戦後 妻を娶ることもなく
サクラメントの農場で一人奮闘したあなた
白人の経営する農場で 遮二無二に働いた
農場でともに働いていた一統の内
ドイツ系は信頼できるが
黒人は信用できないと語った
尻のポケットに入れた財布を抜かれ
彼ら黒人たちと喧嘩になった
ジャックナイフを振り廻して大立廻りだ
警察を呼んだがてんで相手にされない
白人の彼らは
カラード同士の争いには介入しなかった
**
来訪の日の夕べ
わが家での歓迎の宴も終わり
二人でレコードを聞いていたとき
自身の苛烈な半生を
奇麗な日本語でわかり易く語ってくれた
あなたの話しを聞いて
中学生のぼくは
スタインベックの『怒りの葡萄』に
触れているような奇妙な感覚をもった
からりとした
カリフォルニアの風の匂い
光と影
美しい葡萄畑が想い起された
パースペクティブな話しの組み立てと
面白さに聞き入った
アングロサクソン主体の国で
東洋からの移民という
アウトサイダーが持つ《疎外感》に
ぼくの胸中にある
炎(ほむら)が烈しく揺れた
そして 彼ら移民の紐帯の強さ
芯の勁(つよ)さを理解した
人は本質の部分で
《流離い》を志向する宿痾を持っている
移民という家族流離譚の只中にいたあなた
移民を卒し
米国人になることで《流離い》の宿痾から
解き放たれたのか
あなたは話しの締めに
昭和四十年代としては珍しい
コダックのカラー写真を取り出し
見せてくれた
桜まつりで賑わうサンフランシスコ
走る花電車
洒脱な大理石の白い家
アン スーズン ジェーン ゲール
クララ クリッフォード
あなたが守り育んだ家族
居間で寛ぐ妹の子どもたちに囲まれ
穏やかだが精悍な顔
どれもみな豊かな生活と
花咲く北カリフォルニアの自然が
写真に切りとられていた
あなたの脳裏には
強制収容所で体験した政治の不条理
白人農場での苦闘
異人種に対する蔑視との戦い
そして 流離譚との訣別
これら自己の半生が去来したのであろう
試練の時代を生きた日系二世
米国人 ユウセン・シミズが
四角いプリントの中から大きな目で
真っ直ぐ
ぼくを見つめていた
「柔い種」
雑誌に掲載し、ベストコレクションに選ばれた。凄いことだと思います。
詩人として凄いと思います。
夏生さま
このたびは、「詩と思想」の特集<2023年ベストコレクション>へのご掲載、お祝い申し上げます。
しなやかでありながら芯のある夏生さんの作風に憧れています。これからも益々のご活躍をお祈りいたします。