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編集・削除(編集済: 2025年01月02日 01:55)

評、遅れます。  島 秀生

すみません、評、遅れます。
お待たせして本当に申し訳ありません。

次の評者の方はどうぞ先に行って下さい。

編集・削除(未編集)

穴  上田一眞

地面に穿った井戸に似て
私のこころにも
深く深く抉られた
穴がある

その存在に気づいたのは
いつ頃からか…
幼い時分だ

中はブラックホールのごとき
欲望と情念渦巻く
モノクロの混沌世界

清く正しく生きるのだと
己に恥じることのないようにと
いつも
穴の存在を恥じ
蓋をした
無いことにしようともした
でも土壇場ではいつも穴が顔を出した  

 破廉恥
 嫉妬心
 自負心
 名誉欲

穴はアメーバのごとく自在に姿を変え
めくるめく
倒錯の世界をかたどった
ああ 無限に続く煉󠄁獄




裏庭にあった古井戸
赤く錆びた手押しポンプが鎮座していた

石を踏み
井戸端に座り込んで井戸の中を見ると
輪郭しかない顔が写っている
影絵のようだ

水鏡に写るおまえは誰?
私の化身か
なぜ顔なしなのだ
邪で不埒な奴め!

井戸に〈孤独〉を投げ込んだ
ぽちゃん と
平べったい音がした
でも
こころの井戸は何も応えない

顔なしが
美味しい美味しいと
食べてしまったに違いない

きっとそうだ




ある冬の日 かみさんに
こんなことを言われた

 私が気づかないとでも思っていたの
 あなたの中にある闇
 暗くて深い穴
 古井戸

 あなたが何をしても駄目よ
 たとえそれが文学だとしても
 穴に放り込んでも
 無駄よ
 埋まりっこない

 あなたは
 サイコパスだもの!




かみさんの言葉に
喫驚の声を漏らし…句読点となる
絶句し
滂沱の涙が溢れ
おのれの性(さが)に身が凍った

編集・削除(未編集)

41回目の結婚記念日 津田古星

1年目の結婚記念日は紙婚式
その時 お腹にいた長男が
20年目の磁器婚式には
既に親元を離れ また夫婦二人になった
35年目の珊瑚婚式には
もう双方の両親共になく
40年目のルビー婚式には
長男がいつまでも結婚しないと言って
夫がお墓の心配をして
昨日は41回目の結婚記念日

いつものように穏やかな日が暮れて
少しの諍いと 少しのご馳走があって
夜 床に就くとき
思った事が素直に言えず
今朝になって伝える
「こんな私の人生を楽しくしてくれて
 ありがとう」
明るくもなければ身体も丈夫でない私と
41年間も同じ屋根の下で暮らして
本当にご苦労様なこと
私はあなたの人生を楽しく出来たか
自信はないけれど
いつ どちらが先に逝くか
わからないのだから
今日が最後の日だと思って
伝えたいことは 今言っておこう



 
 

編集・削除(未編集)

マヨネーズ工場  松本福広

学校の社会科見学でマヨネーズ工場を訪問した。
テレビで見たパン工場と違って人が少なかった。テレビで見たパン工場は季節毎に商品をリニューアルして変更が多い。
その細かい調整は機械では難しく自動化に至れないそうだ。だから工程を細かく分けて人力で対応するそうだ。
ラインには色々な役割の人がいた。
フルーツを乗せる人。ホイップをチョンチョンとつける人。板チョコを乗せる人。ケーキを箱詰めする人。パレットに積まれたケーキの箱を冷凍室に搬送する人。
彼らは髪の毛などの異物混入を防ぐため頭から足の先まで決められた作業服を着こんでいる。
お互いのことは目と名札でしか分からない。そんな彼らが黙々と作業をしている光景が印象的だった。
対してマヨネーズ工場は工程が自動化されているから人手が少ないのだと案内する人が話してくれた。
弊社のマヨネーズは卵の黄身だけを使っています。と自社商品の特徴を話した後、そのために独自開発したという機械を見せてくれた。
一分間に鶏卵を六百個割るという割卵機だった。
人が卵を割るときの動作と同じ動き機械が再現する。
卵を固定する。殻をナイフで割れ目を入れ機械が殻を左右に割る。下にある器が卵白と卵黄を分ける。そのような案内を受けた。

ところが、その割卵機には目を丸くする光景が広がっていた。
割られた卵からは小人が出てきたからだ。
社長の奥さんの小人が出ていた。
次から次へと卵から小人が生まれていた。
割卵機の部品メーカー営業のタナカさん
産業廃棄物センター受付のムラタさん
食品ロスを受け入れている養豚場のミネさん
総務の新入社員のタカムラさん

そこにいると当たり前になっているけど
そこを構成する最小の人々の卵がなければ
何も作れないのかもしれない。
一分間に割られる卵に次々と関係する小人らが生み出されていく。
取引先の養鶏場の皆さん、その家族と鶏も生まれている。
自分のことに精一杯でそうしないと生きられない。
自分の生活に様々なものがあって、そこに関わる人らを忘れて
ワタシという制服を着て一人で生きている顔を作っている。

編集・削除(編集済: 2024年12月19日 18:29)

時間の塗り絵  温泉郷

彼女によると
時間にも色があるんだそうだ
心を失くしている眼には見えない色
時間が早く過ぎていくときは
決して色は見えないんだそうだ

 時間をゆっくりとよく見てるとね
 少しずつ 色んな色が浮かんでくるのよ
 色が付いていないところも
 見ていると色が付いていくの
 塗り絵をしている感じね

時間は 不安定な蝶のはばたきのよう
無数に飛び交う粒の流体
ときには
線や面のように直線的な鋭さが現れる
急に膨らんだり 縮んだりもする
触れるようで触れない
逃げてしまえば もうつかまらない
でも 首やふくらはぎの後ろにあったりする
そんなふうなものらしい

 そこに ほんのりと
 色がついているのよ
 時間の色が見えるようになると
 その色彩があなたの色
 好きでも嫌いでもしかたない
 見える?
 あなたに?
 見えるわけないわよね

彼女はそう言って
去っていった……

いまでも 時間の色は見えない
時間の色を見ようとすると
時間は不規則に
ゆっくりと流れはじめる
もう少しで
時間の色が
見えそうに感じるときもある
その色はきっと
彼女の色とは少し違うんだろう

 時間の色が見えるまで
 ゆっくりと
 おだやかに待てばいいのよ

彼女はそう言って
出ていくときに
妖精と魔法の塗り絵を
プレゼントしてくれたのだった

編集・削除(未編集)

〇×扉  佐々木礫

〇✕扉が目の前にある。〇の扉はとても大きく開かれていて、皆がそこに吸い込まれていく。たまに、不敵な笑みを浮かべた男や、泣きながら速足で歩く女が、一回り小さな✕の扉を開けていく。僕はその横の、もっと小さな非常扉のノブを引き、がらりとした暗い通路へ足を踏み入れた。点滅する蛍光灯、置き去りの段ボール、羽虫と蜚蠊、砂利と埃。僕は意味もなく咳ばらいをし、そこにあるものを手帳に書き留め、自分の足音のリズムを聞いて、生きていることを噛み締める。少し、ほんの少し、通路の奥から吹く風を肌に感じながら。

編集・削除(未編集)

夜のごあいさつ 白猫の夜

竹藪の奥から
ギャァッ ギャァッ
聞こえてくるのは
貉の音

お声だけの常連さん
ギィッ ギィッ
見てみたい気持ち少しだけ

庭の中から
パシリ パシリ
聞こえてくるのは
猪の音

窓の外でちょっと止まって
カシャン カシャン
雨戸をつつく

天井裏から
テテトト テテトト
聞こえてくるのは
鼬の音

出入口はどこかしら
トタタ トタタ
四隅の壁の通り道

喧騒からはちょっと遠い
すこぅし自然の中にある
日本家屋の周りにざわわ
今日も今日とて賑やかです

編集・削除(未編集)

笑えていなかったけど  まるまる

思いがけず 息子から
「人生 負け組のくせに」 

面と向かってはいなくて
私は テーブルを拭くかなにかしていた 

悲しくはなかった
そう映ってるのか
なんか おかしかった
強がりではなかった と思う

いわゆる「勝ち組」には なれなかったな
かなり前から思っていて
正確には
まだなれていないな とか
最後は勝つのに
気づかれていないな とか  

気づかれないのは当たり前で
出身校は無名だし
おしゃれなお母さん達とは 滑らかに過ごせない
息子には うとましがられて
私が喋るとテレビの音量を上げてくる
料理なんかも得意ではなく 
割といつも あくせく
贅沢をすることさえ いつしか苦手になっちゃった

でもね めげてない
折り合いは ついてる 
  
遠く離れて暮らす娘は
好い人に出会えたようで
テレビの音を上げる息子は
熱で私が寝込んだ日だけは
皿を洗ってくれた
高価な化粧品を買う気はしないが
育てたアロエで化粧水を作れる
肌のたるみが気にならないのは
さては ちょうど良いのができている
しめしめ

考えながら 二ヤけてきた
足りないものなんて ないじゃん


ニヤけた頬に 手を当てる
頬を上げたなんて どのくらいぶりだろう
笑えていなかったな ずっと

原因はたぶん 夫
口に出しては言えないけど
心の扉を
開けなくなってきている
あまりによろしくないと思えて
ついこの間 話して決めた
おはようとただいまくらい 声に出そうと
 
笑うことを忘れた家では
満たされたように 幸せそうには
見えないんだね

お父さんとお母さんの
仲の良いのは一番の安心 なのに
手渡せなくなっている
ごめん
どうしよう

素直になればあちこちで見つかる
喜びの 小さな小さな一粒
そういうの食べちゃえたらいいのに
栄養にすることができたら
また 笑えるかな

わざとらしくならないように
ほんの少しずつ

負け組なのに
何がそんなに楽しいんだよって
息子が面白がったりして
そう ならないかな  
いつでも 笑っちゃってさ
全部ぜんぶ なんでも笑って
うんとうんと うんと遠くへ 
笑い飛ばしちゃえるとしたら
そしたら すごくいいな

できるかな

編集・削除(編集済: 2024年12月16日 23:26)

井嶋りゅうさん 評のお礼

評ありがとうございます。自分の中で書くべきものと言葉の中に隠しておくべきものの分別をつけられるようになりたいと思っています。

編集・削除(未編集)

接着剤  静間安夫

この席空いてる?
失礼、ちょっと邪魔するよ
おっと、そんなに
こわい顔しないで…
なにもオレは怪しいもんじゃない

いや、あんたみたいな若い野郎が
ひとりぼっちで
やけに思いつめた様子で呑んでるから
気になってさ
おせっかいとは思ったんだけど
ほっとけなくってね

おやじさん、このテーブルに
お銚子二本追加して!

それじゃ、お近づきの しるしに
乾杯しよう
いやー、なかなかいい
呑みっぷりじゃないか

まぁ、嫌なこと、頭にくること、
ショックなことって
いっぱいあるだろうけどさ
こうやって呑んだ勢いで
ぶちまけちまうのが一番!
どうだい、この年寄りに
話してみないかい?
案外スッキリするかもしれないぜ!

いや、さっきも言ったとおり
オレは怪しいもんじゃない

確かに、こういった具合で
酒場でひとりぼっちで呑んでる
若いもんに近づいて
悩み事を親身に聞くふりをしながら
ヤクザの仲間に引き入れたり
詐欺の餌食にしたり
なんていう連中が結構いるけれど
オレは違うから大丈夫!
安心してくれ
ただ、おせっかいなだけさ

えっ、なになに…
職場の上司からパワハラ受けてる?
細かいことまでチェックされ
できないと厳しく叱られる、
今日も「そんな進歩のないことやってんなら
やめちまえ!」って言われた、
自分では一所懸命やってるつもりなのに…
まだ、入社二年目だけど
転職しようかと思ってる…

ふむふむ…
ひとつ聞いていいかい?
その上司、人前であんたを
叱ったことがあるかい?
どうだろう?

えっ、
いつも他の社員のいないところで
叱られる、って?

だいたい、それを聞くとわかるんだ
あんたの上司は
けっこういい人間だと思うよ、多分ね

入社二年目くらいが
一番大事な時期だから
上司はあんたの成長のために
厳しく接しているのさ
怒るのは、本気で何かをわからせたい、
教え込みたい、と思ってる証拠だよ

でも、あんたの上司は
怒りに我を忘れて、あたりかまわず
怒鳴りちらすような人間とは違うようだ
なぜって、あんたを
同僚の前で叱ったりしないんだろう?
なるべく傷つけないようにしてるのさ

だから、あんたもパワハラ受けてる、
なんて頭から思わないで
上司の言ってることを細かいことまで
もう一度よく噛み締めて
毎日ひとつでも多く
実行できるように頑張ってみな

その調子で少なくとも三年やれば
だいぶ自分の周りの風景が
違って見えるようになると思うよ

いやぁ、正直言うと
この手の話をできるような相手が
あんたの会社にもいるといいんだが…

つまりさ、同僚の悩み事を聞いて
解決の糸口を探したり
それができなくっても
一緒に呑んでストレスを
発散させてくれるような
そういう相手のことさ

しかも、そういうヤツって たいてい
忘年会や社員旅行となったら
エース級の活躍で宴会を盛り上げて
社員みんなを腹の底から笑わせて
ハッピーにできる
ムードメーカーみたいな存在なんだ

なんて言ったらいいのかな?
放っておくとギスギスして
バラバラになってしまう社員を
つなぎとめる、そういう存在のことをさ…
えっなんだって?「接着剤」だって?
うーん、何かパッとしないけど
とりあえず、まぁいいか…

残念なことに
その「接着剤」みたいな社員ってのが
会社の中ではあまり成績のよくない
ヤツのことが多いんだ
そうそう
「釣りバカ日誌のハマちゃん」
みたいな人さ

ただ、むかしはそんな社員の
「接着剤」としての役割りも認めてくれて
定年まで勤めさせてもらえたものさ
何を隠そう、かく言う
このオレがそうだったから間違いない!

だけど
こんな具合で
サラリーマンの世界が
なべて実績重視になってくると
オレたちみたいな人種は
なかなか生き残れなくなっていくだろうな

そうなると
社内のコミュニケーションも ますます
取りづらくなっていくような気がする
誰も彼もメールとかリモートワークに頼って
直接顔を合わせて話す機会が
ずいぶん減ってるからね

いや、問題は会社だけじゃない
世の中ぜんたいに
接着剤になれる人間が
不足してるように思うな

若いもんにとっても
こんな具合で話しを聞いてくれる
相手がいないので
さっきの話じゃないけど
闇バイトのリクルーターなんかが
そういった こころのスキに
つけ込んでくるんじゃないかな

まぁ、こんな年寄りでも
また機会があったら
話し相手になるから、よろしく

さて、だいぶ遅くなったな
お先に失礼するよ

おやじさん、おあいそ!
あと、こいつの分の勘定も
いっしょに払うから

えっ、見ず知らずの人に申し訳ない、だって?
いいってことよ、
こんな年寄りの
無駄話を聞いてくれたんだから

縁があったらまた呑もう!

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