Q
近くの作業所に手伝いに行っています。高校卒業から統合失調症を発病した25歳の女性が、最近調子が悪く、怒ったり水遊びをしたりして仕事ができません。別の人になったようなときもあります。「1人でいたい」と言うときもあります。作業所の人も手を焼いている。どう対応したらいいでしょうか?特別扱いしないほうがいいでしょうか?
A
本人に聞いてくださいね。「私たちにできることは何かある?」と。この人が「しばらく作業所を休みたい」と言うなら、休むもよろしい。「みんなと同じ作業をしないで隅っこでじっとしている」と言うなら、じっとしているもよろしい。「話し相手が欲しい」と言うなら、こっちとしても手が割けないなら、10分なら10分つきあうという話をしてもよろしい。ご本人と話をするのがいい。
病院では精神病者のグループがたくさんある。コツは「自閉になる権利」を認めること。自分に閉じこもる。「いつもみんなと一緒にいて仲良くしましょうね」をすると、精神病者には圧力が強すぎる。「疲れたら話をしなくていいし、一人ぼっちになっていいし、隅っこへ行ってもいいから、自分の体調・気分を自分でコントロールできるように練習してね」と、こうすればこんなにならないですみます。(回答・野田俊作先生)
Q
いつもお話を聞いて気分一新です。技術を磨くのはわりと簡単だと言われますが、どうしても感情的になり自己嫌悪に陥ります。しばらくして、子どもに「ごめんね」と謝る駄目な親です。子どもの行動から目を離すと、心まで離れてしまい放任になりそうに思うのですが……。
A
感情的になることと自己嫌悪になることとは違うことです。子どもに対しては感情的になります、人間は。子どもにだけでなく、どんなときにも。感情は人間の生活のための道具で便利なものですから、感情的になります。
間違って感情的になったときに、自己嫌悪に陥ったら上達しない。野球の選手は、空振りしたとき自己嫌悪に陥っていると強打者になれないでしょう。どんな強打者も空振りする。空振りするけど打つ。空振りしたとき、反省しないから打てるんです。いいフォームを探すと打てるんです。悪いフォームを探すと打てない。
育児の中での自分の不適切な行動に注目して負の注目をそこへ与えていると、だんだん勇気がくじけてきて、いい育児ができなくなる。前に比べたらずいぶん感情的にならないでうまくいくようになったほうに注目する。つまりちょっと思い上がってほしい。上達のコツは思い上がること。感情的にはなりますが、自己嫌悪に陥らない練習をしよう。いつも思い上がって、「前に比べりゃずいぶんましな母親になったわ」とね。(回答・野田俊作先生)
Q
(野田)先生のおっしゃる(アドラー心理学の)育児の話は何歳くらいまで有効でしょうか?わが娘は30歳です。信念が悪いようです。私がいないときは茶碗を洗ってくれるけど、いるときは洗わない。お爺さんには大変親切で、私たちには家事をしない。
A
発達心理学的には5年ごとに分けると便利です。5,10.15,20で分けます。
最初の5歳まではまだ十分人間になってない。人間候補生ね。5歳児なんかまるで人間みたいに見えるけど、どこが違うかというと、時間的な因果関係がよくわかっていない。「今これをするとずっと先でその結果悪いことが起こるかいいことが起こるか」が、あまりよくわかっていない。今すぐのことはわかる。「蜂に触ったら刺されて痛い」くらいはわかる。すぐ結果が出るから。「歯磨きしないと虫歯になる」はわからない。時間的な因果関係がもうひとつよくわからない。5歳児でもあまり人間みたいでない。3歳児はもっと人間みたいでない。夜寝ている間に食パンさんがダンスを踊っていると本気で思っているみたい。それはそれでいい。
僕たちと同じように考えられるようになるのが5,6歳くらいです。小学校に入るころ、完全に人間になる。でもまだ大人が偉いと思っている。教師も親も一応尊敬されている。ひどいことをしなければ。
10歳になると完全に大人です。教師や親も自分たちと同じ人間だと思う。いわゆる思春期に入ります。もし強圧的育児をすると反抗する。高校生の息子が反抗的というのは、親が強圧的だということ。ですから、強圧育児をしなければ反抗はない。断言します。私のとこ(野田家)はそうでした。いわゆる反抗期はない。思春期はあったが。
10歳というのは、信念がワンセット全部揃う時期です。だから大人です。一応完全に世の中の仕掛けがわかる。人生経験が10年だけで、まだ情報はちょっと足りないけど、基本的なプログラムは全部できる。
これ以後に信念を変えるのは手間がかかる。特に20歳越えてからは、ものすごい手間がかかる。15歳くらいなら時間をかけると変わる。
どんな場合に人間は10歳を越えてから信念を変えるかというと、「今のままでは絶対やっていけない」と本人が思ったときです。本人が「この生き方は手詰まりだ」と思うと、信念を変えて違う生活を始めるか、人間をやめて自さつするか、2つに1つしか選択肢がなくなる。ということは、「自さつしようか、性格を変えるか」という場所でしか信念を変えない。この娘さんは自さつしようと思っていないみたいだから、信念を変えないでしょう。
まあ困っているのは親だけみたいですから。これも間違った育児の報いですから、申し訳ないけど困ってください。ちゃんと家事もできるみたいですからいいじゃありませんか。(回答・野田俊作先生)
Q
高2の息子を持つ父親です。学校を休みがちで出席日数が足りなくなると進級できなくなります。息子はすっかりやる気をなくしていて、早く家を出て行きたいようです。私は卒業だけはしてほしいのです。息子は学校を中退してもいいと思っているようです。最近はあまり良くない友だちともつきあっているようです。ときどきバイクで家にも来ます。私はいい気がしません。食事も一緒にしたことがなく、私とはひと言も口をききません。母親のことはすっかり馬鹿にしています。ときどき怒鳴ったり脅しをかけているのですが、ますます反抗的な態度をとり、壁を蹴ったり物を壊したりします。すごい目で私を睨みます。息子を何とか良くしたいのですが、どのように対応すればいいか教えてください。
A
今の対応はやめたほうがいいですね。今の対応をやると、息子はますます怒ったり壁を蹴ったりするようになるから。もっと厳しくやると、もっともっと怒って、もっともっと壁を蹴ったりするようになる。
科学は頭で考えて「こうだ」というのではないんです。実験してみて「こうなった」というのが科学です。実験してみた結果、怒鳴ったり手を出したら子どもの状態は悪くなったから、この方法は使えない。
どんな方法を使えるかというと、まず、ここまで来て焦ってもしょうがない。「中退する」などと言っているからね。だから、(こういう場合は)一切手を引くことです。子どもを全面的に信頼して任せることです。1年か2年、それで子どもの人生が遅れるかもしれない。中退したり無職少年になってゴロゴロして、困ったなということになるかもしれない。でも、親子関係さえ今のうちに立て直しておいて、信頼できる親になり、子どもが親に相談してもいいということになれば、1,2年後にはもう一度高校に入り直すという線もきっとあるだろう。親にその力がなくても、子どもが社会に出ていけば、チャンスは結構あるものです。実際、登校拒否の子どもを見ていてそう思います。
高1で学校やめて、家にもいたくなく、かといって金は欲しいしというので、土木作業をした子がいる。このごろの子はあまり体力がないから、ほんとの道路を掘るのはあまりできない。で、古墳調査をした。ヘラでチョコチョコ掘る。これが結構金になる。そこへ東北から大阪へ流れてきた爺さんがいて、「お前は何だ。こんなシケた仕事をして」と聞いたから、「実は高校中退して、金が欲しいからこんなことしてる」と言うと、お爺さんがすごく怒った。「そんなことをしていたら俺みたいになるぞ!」。これはリアリティがある。子どもは、やっぱり学校へ行こうということで、行った。これは、世の中の「縁」というものがその子を学校へやったということです。
今は親に教育の力がなくなっている。動けば動くほど具合が悪い。動かないのはいいことではないが、悪くはない。動くほうが悪い。それならじっとしているほうがマシ。まずじっとすること。時間がかかります。半年くらいはかかります。その半年間は何もできない。(回答・野田俊作先生)
Q
26歳の息子のことです。15歳のとき入院して躓く。寮で暴力を受け、その後、家庭が溜まり場になり10年経つ。主人と息子と私で、8年くらい花札をやりながら冗談を言ったり、家で私のできないことをアルバイトして暮らしている。息子の今の状態の受け入れをうまくできない。息子との会話で結論を先に言っては、あとでしまったと思う。主人は、「自分が父親から何も対応してもらわなかったから、息子にどうやっていいかわからないけど、自分で打ち止めにしたい」と言った。
A
子どもとつきあうのにちょっと困っているなというときは、“当事者能力”というのががない状態なんです。「私はこの子にいいことを言ってあげる力がない」と思ってください。では、あと何ができるか。子どもの話を聞くことはできる。どんなに力がなくても。
人間が話をするのはすごく大事なことです。黙ってモヤモヤと考えていると、考えがまとまらない。話すと自分の声が聞こえて、まとめていけて、だんだん、「こんなこと考えているんだ」と自分で気がつく。だから話させてあげるのは、すごく大きな勇気づけです。こちらが手詰まりだと思ったときは、まず子どもに話をしてもらえるようにする。何でもいいから、困っていることでも困っていないことでも話してもらう。日常的な会話もたくさんしてもらっていく中で、子どもが自分自身のことに気がついていくだろうと思ってください。そしたら親はあまり焦らなくていいでしょう。(回答・野田俊作先生)