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ここから詩人として巣立った人は数知れず、です。あなたの詩を継続的に見守り、詩の成長を助ける掲示板です。
(あのーー、私が言うことでもないんですけど、詩は自由を旨としていますから、どこにでも投稿しようと思えば、投稿できないところはないんですけど、いきなり大きなところに挑戦しても、世の多くのものがそうであるように、ポッと書いて、ポッと通用する、ポッと賞が取れる、なんてことは、まずありえないことというか、相当に稀有な話なのです。
やってみることは止めませんけど、大きなところのノー・レスポンスにがっかりしたら、
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(昭和四十年十二月)
中市(なかいち)の米屋の横に *1
本家があった
お使いで
本家に行くときは少しだけ緊張したが
楽しみでもあった
おばあ様 一眞です
お餅を届けに参りました
まあ かず〜さんいつもありがとう
上がって上がって
お茶を差し上げましょう
お饅頭もあるのよ
独り暮らしの優しいおばあ様
小顔で和服が似合い
気品がある
出石(いずし)の出身だと聞く *2
でも 名前を覚えてもらえない
かずまさんでなく
いつも かず〜さん
おばあ様 かず〜さんはやめて
かず〜さんって
物乞いに歩く人のことですよ
今は亡き当主であるおじい様は
元外交官
在ブラジル日本領事館に奉職されていた
この家は宝の山だ
いつ訪れてもワクワク
広い屋敷の二階にあがると
黒ずんだ壁に
黒い大礼服と
ナポレオン風の弓の形をした帽子が
ぞろりと掛けてあった
書架には和洋の
分厚い書籍がずらり並ぶ
壮観だ
陣笠や槍 大脇差しもあった
裃も…
井桁に木瓜の家紋はわが家と同じだ
おばあ様は目を細め 往時の
おじい様との日々を思い出すように
語った
あの人は
外国で珍しいものを見つけると
必ず送ってくれました
蝶を集める趣味を持っていましたのよ
標本にして飾っていました
とても綺麗でした
かず〜さん
いつも来てくれてありがとう
あなたは優しいし
明石にいる孫に
雰囲気がとてもよく似ているの
*
(他の親戚にお餅を届けた帰り道)
あっ 鼬が走った
鼠も道に飛び出して来た
火事だぁ
火事だぁ!
と叫ぶ声
みるみるうちに火が廻り
本家は
煙と火炎に包まれた
僕は叫んだ
ああ 大変だ 中に
おばあ様がいるんだ
・・・
乾燥しきった大気に
メラメラと燃え上がる紅蓮の炎
消火はいっこうに捗らない
火が風を呼び
家屋は昼夜燃え続けた
*
(それから三年の後)
故郷を後にする 前の日
僕は本家の火災現場に立った
焼け跡は片づけられ
屋敷の姿・形はない
火に巻き込まれ
亡くなったおばあ様
そして
あの宝物もすべて灰になってしまった
おそらく
明治の藩閥政治に繫がっていただろう本家
貴重な遺産が失われた
火事が憎い
焼け跡に
無常の風が吹く
鶺鴒が一羽 昏きところより
ちょこちょこと走り出た
ピピピ〜ィピッピ
ピピピ〜ィピッピ
あれぇ あの顔 あの目
おばあ様に似てらぁ
鶺鴒に姿を借りて
僕に会いに来てくれたんだな
改めて深い喪失感に襲われ
眩暈で
地べたにしゃがみ込んだ
そして 瞑目して囁いた
さよなら さよなら
おばあ様
一眞もこの地を離れます
どうぞ安らかに
お眠り下さい
優しく
慈愛に満ちた貴婦人
忘れ得ぬ人の一人だ
*1 中市 山口県防府市富海の中心地区
*2 出石 兵庫県豊岡市の城下町
風邪をひいた心に
君はそっと暖かい沈黙を注ぐ
ホットハチミツレモンティーの湯気で
曇った瞳が晴れていく
止まらない争いの熱が上がり
悪意ある言葉が飛び交う中で
悪魔のような感染を防ぐために
必要な沈黙
天使たちは間違えたように通り過ぎ
ひとときの微笑みだけを
そっと置いていく
束の間の平和に満たされた時間
これまでは冷や水を浴びせられ
病気にされてきたから
同じ過ちを繰り返してきた
身を守るために
言葉で壁を築いてきたから
愛を受け取る空白がなかった
―この歴史を教えてくれた妻の機転と配慮
そしてこの地で生死した外国人のために―。
一 「きっかけ」
戦国期 小田原北条一族の
ゆかりの寺のひとつである
今 私はその寺にいる
龍宝寺という
この寺のもうひとつの歴史
奇妙なもの
日本の寺ながら
外国人の為の卒塔婆がある
供養されている
ここから始まる「詩」物語
妻がパソコンで地元ネットスーパーの記事を探していた。いろいろ見て回るうちに、手許が狂ったのだろう。あらぬ地元記事を引いてしまった。この町に戦時中にあった施設の事である。妻は私が歴史に興味あることを知っているので、その記事を知らせてくれたのだ。「ねえ、こんな記事、出ちゃったんだけど、知ってた?」―こう書かれていた。
「戦時中、神奈川県鎌倉市大船に“秘密”の捕虜収容所があった」
衝撃だった。私はこの地に生まれて今まで七十年近くを過ごして来たが、その事を知ったのは初めてだった。
そして強く思った。 恥ずかしいことだ。こんな風に―。
(自分は何のために、この地に産まれ、今まで生きてきたのだ!?)
私はこの収容所の事を調べた事実で書きたい。余地ある部分のみフィクションを用いよう。それもなるべく大筋を外さず、
“あったかもしれない”ものでありたい。歴史小説の手法を、詩の世界に活かすつもりで―。
二 「虐待」
現在 この地
神奈川県鎌倉市 大船駅西口側
大船観音の背後にあたる地域
少し歩けば もう横浜市
近くには
小田原北条氏が築いた玉縄城祉
そして くだんの龍宝寺
近くに 栄光学園 清泉女学院といった名門校あり
いわば郊外
歴史地区・文教地区・住宅地区
そんな土地柄である
*
(通訳 同席)
B29爆撃機機長・エルビン・コゾフィー大尉……だな?
正直に答えよ
B29一機の爆弾種類と搭載量はいかほどか?
私の認識番号は「11-246-375 BLOOD TYPE A」
そんなことは聞いとらん! 爆弾のことだ!
質問を変えよう 無事でいたいなら吐くことだ
たとえば サイパン島でのB29の標準配備機数は?
私の認識番号は― (以下 何度か同じような問答の繰り返し)
馬鹿者! わしを愚弄するか!
命惜しさに捕虜になりおって 笑止千万 恥を知れ!
ボカッ!(大尉を殴る)
ムム ウウウ……ワタシ…の ニ・ン・シ・キ・……
こいつ しぶといな
おい ムチで打て 独房行きだ 吐くまでメシは与えるな!
軍医殿―
ジョーンズ軍曹ら数名が熱を出していますがー
ヤツらめ 知恵熱か そのうち下がるじゃろ
大丈夫でありますか?
下士官は大した情報は持っとらん
氷嚢でもぶら下げておけ
捕虜はどいつもこいつも図体だけはでかくて頑健じゃ
そのうち熱も下がるじゃろ
心得ました!
おい 炊事人―
捕虜どもが「我々に木の根を食わすのか!」と騒いでおるぞ
ここには肉などないですよ ごぼうは日本伝統の食い物だと言ってやって下さい
俗に「大船捕虜収容所」。対外的な名称は「横須賀海軍警備隊植木分遣隊」
(「植木」とは大船の一地区。住所から取っている)。龍宝寺という寺の向かい側にあった。 昭和十七年四月開設。国際法上、無届けの収容所だった為、秘密とされた。そんな事情が表向きの名称にも表れている。ここは普通の収容所と違い、捕虜から軍事機密を供述させる為の、いわば「“吐かせる”施設」と言ってもいい。二~三か月の拘留が多く、供述後は別の収容所に送られた。黙秘や偽証言をした捕虜への虐待は峻烈だった。加えて食事と医療に怠慢だった為、六名の死者を出した。捕虜収容所と言えど人間生活の場である。
必要最低限のものはあった。大部屋と独房。トイレ・シャワー室・洗濯場・その他バレーボールコートなど。昼間は外で過ごすよう命令された。下士官は防空壕掘りなどの労働、将校は尋問。洗濯や体操・バレーボール・コーラス練習などで過ごした。温暖な地とはいえ、冬は寒かったことだろう。あとは虐待。それは精神面にも及んだ。ささいな事での平手打ちなど日常的に行われた。この施設に関わった多くの日本人が戦後横浜軍事裁判で有罪となった。その中には主任尋問官で判決後、約十二年の刑期を終え著名な戦記作家となった男がいた。軍令部員の彼が捕虜虐待を命じたことはまず間違いない。
つづく。
緩やかな上り坂の
街灯のない夜道
2本のソヨゴの常緑樹に
冬なのに黄色い大ぶりの花
車のヘッドライトに
華やかに照らされる
まさか?と思って近寄ると
街路樹のイチョウの葉が
降りかかっていたのだった
大小の葉がちょうどいい高さと
間隔でソヨゴの枝に落ち着き
赤い小さな実が喜んでいる
冷たい路面に落ちた葉は
点字ブロックのところだけ
無事 もとの形
周りの葉は踏まれて
形が崩れたり裂けたりで
少し無念そうに
ソヨゴを見上げていた
翌朝には
ソヨゴの花は消えていた
赤い実だけが光って
寂しそうに揺れていた
路面の葉は
道路脇に吹きためられ
道の凹みには
小さな葉のカケラ
隣人に黄色い花を贈って
今年の最後の仕事を終えた
枝に残った葉
風に任せて別れの手を振り
イチョウはしばし冬の眠りに
あさおきて すぐにかーてんをあける
かーてんから せせらぐように ひかりがふくらむ
ひかりがふくらみ あたたかいあさにみちる
おはよう どあのそとから おかあさんのこえ
あさごはんは すふれぱんけーき
にちようびだけ おかあさんは
あさごはんをいつもより すてきにしてくれる
ふっくらふくらんでいる すふれぱんけーき
めれんげをちょうどいいあんばいで かきまぜないと
できないのだと おかあさんはいう
あつくない ほんのりあたたかい
ふわふわ ぽかぽか
においにつられて ねこのたまがきて にゃおとこえをあげる
わたしにも ちょうだいってことかな?
わたしより すこしおくれて おきてくる おとうさん
きのうは のみすぎた という おとうさん
ぽんぽこした おなかを さすっている
おおきくそだちすぎた ねこのたまみたいだなとおもう
たまはのびをしている このときだけ おなかがめだたない
おかあさんのおなかも だんだんと おおきくなっている
おなかのなかに あかんぼうがいるのだ
それをおしえてもらったときに
このすふれぱんけーきと おなじにおいがしたのを おぼえている
おかあさんのおなかが あたたかくかんじた
ふくらむおなか
ふくらむあさ
ふくらむあたたかさ
わたしのなかにふくらむなにか
たまの おなかを なでる
このときとは ちがうきもち
このきもちのなまえは なんだろう
水無川 渉様 今回もお読みいただきありがとうございました。また、佳作の評をいただき、うれしいです。子どものころには色々な体験をするものですが、それらがどのように人格形成に結びついているのかについて関心を持っておりまして、作品化を試みてみました。もちろん、トラウマとなることも多いとは思いますが、忘れていた記憶がよみがえって、自分の行動を助けてくれるということもよく経験するように感じております。いただいた修正部分のご助言ありがとうございます。早速修正いたしたく存じます。水無川様また評者の先生方にはお世話になりありがとうございました。良いお年をお迎えください。今後ともよろしくご指導をお願いいたします。
君と僕 二人階段登って転がり落ちた
心の中は解けて大空いっぱいに
シャボン玉飛ばして一つ一つ割れてゆくけど
二人はいつまでも壊れたりしない
だけどまだまだサイン一つじゃ分かり合えないから
織姫と彦星のようにお互いをたった一つの
存在になれる時まで夜空を羽ばたくよ
決して手の届かないくらい遠くにあるものに
手を伸ばす大切さを知ったのは
君を好きになったからだった
君の話を聞いて僕の話をする
そんな些細なことで有頂天になってしまう僕がいた
時に悔しくて悲しいこともある
笑顔ときどき涙 そんなこともあった
君は悲しい話も楽しい事のように話す
そんな君がとても愛おしくて
そして君の話の後に僕の話をする
さり気なく君のことが好きだと思わせるような話を
それって逃げてるかな
でも上手くいくような確かな予感
そして君の番 真っ直ぐに僕の目を見つめて
少し微笑んでいる
今度は僕の番 さり気なく手を握って
ゆっくり歩き出す 君はうつむき加減で
少しだけ照れている
そんなことしているうちに君の家に着いた
家に寄って行ってと君は言った
そして君の部屋に入りベッドに座った
君は 私を抱いて キスをして 抱きしめてと
連続攻撃
僕は深呼吸を一つして君を抱きしめた
今はこれが精一杯
君ときどき僕 二人の関係はそんな感じだ
それは今年初めての雪の日だった
タイトルは破れかぶれに勢いでつけてしまったので、分かりにくかったかもしれません。タイトルはずーっと課題のままです……。
パンダの箸置きのしっぽの黒が気になる自分を他所では言えないから、詩で書いている自分。
匿名の皮でしか言えないけど、白は白だと言えたらなぁと思いでつけました。
詩のテーマと距離があるとは思います。「白は白」思いついたことがことがあるので、
他の評者の方になりますが、来週か再来週あたりに書いてみたいと思います。
佳作の評ありがとうございます。
評で特に重く受け止めたい部分は……
> たとえば特定の人種の人々の身体的特徴をデフォルメしてその「野蛮さ」や「他者性」を強調するような表現は決して許されるものではないでしょう。
ここですね。MY DEARでも差別的な表現はアウトと明文化されていますし、自分自身でも書きたくない内容ではあります。
差別に映る偏った考え方が無自覚に出てしまい、それが叩かれるのはネットを見ていると常々あるように思います。
匿名性の分厚い皮と、エコチェンバーの偏った肯定の皮に覆われ尽くさないよう、バランスを保っていきたいと思います。
詩というか、人としての振り返りになりましたが、
ありがとうございます!
十三歳。
あなたの声は、空に浮かぶ風船のように、軽やかで儚かった。
「大好き」
僕より二つ上の彼女は、きゃあきゃあ騒いで、
ウサギのように跳ね回り、
「可愛いね、ほんと可愛い」としきりに言った。
僕は少しだけ愛されていた。
卒業と共に彼女は去った。
あなたの瞳に、僕が映っていたこと。
それが誇らしくて、恥ずかしかった。
僕は、あなたのように人を愛したい。
その頃、僕には好きな人がいた。
「何読んでるの?」
彼女は、窓際で本を読む僕に、そう話しかける。
「学級文庫」
「面白い?」
「別に、普通」
君は一瞬だけ眉をひそめて、「そう」と呟くと、そっけなく歩き去った。
その背中に揺れる長い黒髪のツインテール。
似合っていないと伝えたかった。
ある日、廊下で掲示板を見ている僕に、
彼女は「ねぇ」と呼びかけた。
そして、「あのね」と耳元で囁く。
「××ちゃんが、君のこと好きなんだって。
それで、付き合って欲しいって」
僕はその場にへたり込んだ。
「伝えたからね」と言って、彼女は去った。
××ちゃんとは、うまく行かなかった。
僕は理由を言わずに別れを告げて、
××ちゃんを遠巻きにして胡麻化した。
十四歳。
ツインテールの彼女とも、××ちゃんとも別のクラスで、特に何もない平和な日々が過ぎた。
昼の学校、夕方の部活、夜のスポーツクラブ。
僕は本も読まなくなった。
それでも心の奥には、来年のクラス替えに期待する自分がいた。
十五歳。
ツインテールだった彼女はショートカットに変わり、僕らは同じクラスになった。その変化は、僕の自意識よりも鮮明に、彼女がどこか新しい段階に移ったように感じさせた。その後、同じアニメを好きだと分かり、僕と彼女の距離は縮んだ。
秋ごろ、二人きりの廊下で、僕は、
「好きです」と彼女に言った。
「考えさせて」と彼女は言った。
それから、彼女は返事をくれなかった。
ある日、彼女は教室で、
「どうするの」と言う友達に、
「なんかもう、面倒くさい」と口走った。彼女は、教室の入り口前に、僕がいると知らなかった。
僕は行く当てもなく図書室へ行った。
本を手に取り読み始めたが、すぐ面倒になって止めた。僕は二度と彼女に話し掛けず、時々何事もなかったのかのように話し掛けてくる彼女に応じるだけだった。
冬、部活動の送別会の後、一つ下の後輩が、僕にお菓子と手紙をくれた。その手紙は恋文だった。想いのつづられた最後には「また部活に来てください」と書いてあった。
人間関係のいざこざがあり、僕は引退したら二度と部活に行かないと決めていた。渡す機会もない手紙の返事を書くこともなく、ただ無言のまま卒業までの日々は過ぎた。
今になって、涙が出る。
君に会いたくない訳ではなかった。
僕は、君のように奥ゆかしくありたい。
十六歳。
高校で、春から夏まで勉強に打ち込んだ。
大学進学、その先の将来のことも考えていた。
しかし、それから、またどうでもよくなった。
そして、学校を辞めようかと考え始めた頃、
クラスメイトの女子の一人が、僕に視線を送っていることに気が付いた。
不安定な均衡が始まった。
僕は高揚と恐怖を覚えた。すっかり白々しい心で、様変わりする一貫性のない心象を往復した。相手を見透かしてほくそ笑んでは、自分がなんて浅ましい男なのかと震えた。
十七歳。
僕は夏になる前に、学校を辞めることを教師に伝えた。両親は僕の自己責任を尊重した。
クラスメイトには伝えていなかったが、終業式の日に、僕は彼女に呼び出された。夕方、四階の端の空き教室で、彼女は僕に告白をした。
僕はへらりと笑って、
「ごめん」と言った。
なぜ笑ったのか、なぜ謝ったのか、自分でも分からなかった。笑う必要はない、謝る必要もない。なぜ、せめてもう一言「ありがとう」と言えなかったのか。
それから僕は学校の人たちと連絡を絶ち、二度と会わない人間を増やした。
今思えば、僕はあの時、
孤独から抜け出るための、最後の機会を逃したのだ。
僕は、あの子のように、勇気のある人間になりたい。 もっと素直な人間に、人から逃げない人間に、 過去を受け入れる人間に、なりたい。
十八歳。
何も言わず、初めて女と手を繋いだ日に思った。
(君は僕から何を奪うの?)
「幸せ」と、彼女は言った。僕は幸せだろうか。
「緊張するね」と、照れて笑う君に心が冷えた。
「ねぇ、こっち見て」これ以上、僕を見ないで。
僕は彼女と何度か夜を明かした。寂しげに、「待ってるから」と言った彼女に、僕は決して手を出さなかった。まるで呪いだと思った。
そして最後はすぐに来た。
「もう限界。別れよ」
と、彼女からLINEが来た。僕は怒りが湧いてきた。そして真夜中のぼやけた頭で、一気に文字を打ち込んだ。
「僕はあなたが嫌いです。他人に甘えた態度が気に入りません。君がそうやって生きるのはある種の美徳 かもしれません。でも僕は君の責任なんて負いたくありません。僕のぎこちない態度は君を傷つけたと思います。すみませんでした。」
こんなことしか言えない人間になる前に、僕は他人を愛するべきだった。もっと踏み込むべきだった。人に愛される幸福も、誰かを愛する勇気の女神も、充血した目で睨む僕を見て、すっと目をそらした。